2023年度 第1回研究会 【講演】

日 時:2023年4月15日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:倉林 秀男 氏(杏林大学)

テーマ:「文学作品を教材として何を学ぶのか?」

講演言語:日本語

司 会:久保 岳夫 氏(開成学園)

 当り前のことかもしれませんが、私たち英語を教える者は普段から「面白い」と思ったり「難しい」と感じたりしながら英語に触れていくことが何よりも大切なことだと考えています。本発表では、英語はこうやって教えなければならない、教師たるものかくあるべし、多読・精読が重要だという方向には進まず、英語に向き合うことの楽しさや苦しさ(わからないことだらけ)をみなさまと共有させていただきたいと思っています。
 そこで、文学作品を言語学的な観点から捉え、英語文体論の知見から「言えること」と「言えないこと」を時間のある限り示しながら、英語(というよりも言語)の奥深さと脱出不可能な迷宮に入り込んでいきます。迷宮の闇を照らし出す一筋の明かりを求めて苦悩しながらも、愉しんでいる一学習者として考えたことをお示しいたします。

【司会者後記】

講演者の倉林氏は近年文学作品を扱った授業を実践されており,専門分野である言語学,文体論の観点から,文学作品を用いた授業実践で得られる知見が紹介された。

まず最初に,講演者は,近年,日英の公共サインで示される言語形式の違いに注目し研究しており,ことばを「どのように伝え」「どのように受け止めるか」という表出と受容の問題に注目しているということが紹介された。

次に,講演者が授業で実践されているretold版から導入してのちに原文と比較させる読解の授業内容が紹介された。Oscar WildeのThe Happy Prince(邦題『幸福の王子』)の本文を例に,retold版と原文の英文を提示・比較しながら,原文で効果的に用いられている情報構造を,特に「場所句倒置(locative inversion)」を例が提示された。原文ではretold版では用いられていない場所句倒置構造がなぜ用いられているのか,ということを学生に注意深く考えさせることで,原文で著者が描こうとしている景色をより深く理解させることができるのではないか,ということが述べられた。

また,「文法がわかると作品をより深く理解できる」という主張がなされ,同作品の原文で使われている現在形,現在進行形,be going toという文法構造が取り上げられた。テンスやアスペクトに関係する構造においても,なぜその構造が用いられているのかをしっかりと考えさせることで,原文で描かれている映像をより克明に想像することができるのではないかということが述べられた。

今回の講演は,講演者自身が取り組まれている「ことばはどのように伝えられ,どのように受け止められるのか」という一貫したテーマが随所に垣間見える内容であった。テクストを正確により深く理解するためには,規範文法としてまとめられている文法書を参照したり英和辞典を丁寧に引いて学習させることが重要であることを改めて考えさせられる内容であった。言語形式の細部に注目して指導を継続していくことは,教場での時間を考えると難しいことも多いが,ひとつひとつの表現をより深く説明していくことで「最後まで読めた」という成功体験を学生に与えることにつながるのではないか,という話も大変参考になるものであった。(文責:久保 岳夫)


2023年度   第2回研究会 【 実践報告 】

日 時:2023年5月20日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:杉内 光成 氏(獨協埼玉中学高等学校)

テーマ:リテリングを用いた授業内スピーキングテスト

講演言語:日本語

司会:望月 眞帆(早稲田大学本庄高等学院)

概要:
 本発表では、授業内に行ったリテリング形式のスピーキングテストの作成過程と実施方法、テスト結果などを報告します。これまで、様々な先行研究において、学習者のスピーキング能力を評価するためのテストが重要であると言われてきましたが、教室という環境においては、リテリングという手法が最も有効な手立てではないかとされています(卯城 2019, 佐々木 2020)。しかし、授業で教師が教えた内容をもとにしたリテリングスタイルのスピーキングテストに焦点を置いた先行研究はあまり散見されません。また、教育的な側面から見ると、リテリングスタイルのスピーキングテストでは、生徒は日々の授業へ積極的になり、さらに教員も教授法を振り返るようになるということが期待されています。
 発表の前半部分は実践の報告を、後半部分は報告を踏まえてのディスカッションを予定しています。皆様からの多くの意見をいただければ幸いです。なお、本発表はDialogue Vol.21に掲載されている実践報告を改訂したものとなります。


2023年度   第3回研究会 【 読書会 】

日 時:2023年6月24日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

司 会:山口 高領 氏(秀明大学)

テーマ:第1章:The Adolescent Language Learner: Setting the Scene; Teaching Languages to Adolescent Learners, https://www.cambridge.org/core/books/teaching-languages-to-adolescent-learners/2FEB18731CA4356C04A21D9F58584F71

概要:

 TALK TIMEを行うにあたり、せっかくなので、教育・研究書と連動するとよいと考えていました。今回、比較的新しく、TALKに来てくださる会員の興味を包括していて、しかも無料で読めるものを選びました。
 TALK TIMEの前半では、第1章の内容や、わかりづらかったことを参加者の中で解決を図り、後半では、多くの方が教員でありますから、自らの解決法や対策などをお互いに紹介し合うことができればと考えています。

Erlam, R., Philp, J., & Feick, D. (2021). Teaching Languages to Adolescent Learners: From Theory to Practice. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781108869812
https://www.cambridge.org/core/books/teaching-languages-to-adolescent-learners/2FEB18731CA4356C04A21D9F58584F71

司会者後記:
当日は、少人数ながらも活発な意見交換がなされました。後記として、この第1章の内容をまとめます。

思春期の学習者の学びがうまくいくための大きな要因は、挑戦し甲斐のある環境づくりです。挑戦し甲斐には、学習者と他の仲間、学習者と教師に肯定的な関係が含まれます。肯定的な関係には、教師や仲間からの適切な協働的サポートがあり、課題をクリアするという肯定的な経験が必要です。また、教師はサポートを提供するだけでなく、学習者に大きな期待を寄せ、学習者の興味に合った課題を提供し、学習者の意欲を高める必要があります。

こうした主張は、教育心理学に裏付けられていると第1章は述べています。私自身が英語教員であると同時に、教員養成に携わった範囲での実感ですが、いずれの主張も納得のいくものでした。時間の関係で今回のTALKでは第1章のみが扱われましたが、第2章以降をTALK会員のみなさまと意見交換する機会があればと願っています。
文責:山口高領


2023年度   第4回研究会 【 実践報告 】

日 時:2023年7月29日(土) 17:15 – 19:00

会 場:早稲田大学早稲田キャンパス 3号館803教室

発表者:中村 優香 氏(玉川学園)

テーマ:小学校英語教育の実践と、小学校・中学校での国際交流活動について

概要:
中学・高校での英語教育に長年携わってきましたが、小学校で英語を教え始めて今年で3年目となります。検定教科書NEW HORIZON Elementaryを使っての実践報告をさせて頂きます。また、勤務校での海外提携校との国際交流活動についても報告させて頂きます。コロナ禍でのオンラインによる交流、またコロナ禍を経て今年度から約4年振りに再開した海外との交流活動の現状についてお話しさせて頂くと共に、今後の課題についても考えていきたいと思います。

参加者後記:
今回は、TALK史上初のハイフレックス方式でのTALKでした。対面では発表者を含む4名の他、Zoomでは4名の方が参加されました。ご発表は、玉川学園で中等教育の経験をお持ちの、中村先生からの今取り組んでいる小学校教育と、海外との連携を通じた学びについてでありました。まとまった時間をとって独自性のある大きな取り組みについて伺える機会はなかなかないものだという松坂先生からのお言葉どおりの発表でした。TALK会員のご勤務校での海外交流の取り組みについて、他のTALK会員の方の実践例も聞いてみたくなりました。回線のトラブルがありましたが、次回に早稲田大学を会場にした場合には、活かしたいと考えています。(文責: 山口高嶺)


日 時:2023年8月23日(水)10:05 – 15:30

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学7号館311教室,及び,ZOOM)

タイムテーブル及び概要:

10:05〜12:15 研究発表・授業実践報告

根子 雄一朗: 「論理」と「表現」の両立を目指す授業実践
高校2年生対象の論理表現Ⅱの授業実践報告をする。この科目では、論理展開を工夫して自らの意見を発信することが目標の一つとなっているが、そのためには論理展開の方法を学ぶと共に、それを表出するための英語表現を習得する必要がある。この二つの側面を両立するための実践について、主にシラバス開発と授業中の取り組みの観点から発表をする。また実践から見えてきた新たな課題について共有し、その解決方法について議論をしたい。

三村 修: 共感カードを用いた帯活動
共感カード(Empathy Cards)はFeelingを書いたカードとNeedを書いたカードですが、共感カードを用いたコミュニケーション活動の事例と、実践を通して与えられた気付きを報告します。教師は安心・安全の場を整え、学習者は英語という借り物の言葉を本物の言葉へと転換していきます。それはマーシャル・ローゼンバーグによって体系化された非暴力コミュニケーション(NVC)の応用ですが、「対話的で深い学び」へと通じています。

望月眞帆: 高校必修科目「論理・表現II」の授業実践と中間リフレクション
勤務校での「論理・表現II」(2単位配当)の1学期の授業実践を振り返り、今後の課題として現在捉えていることをご報告します。教員は3人で2年生8クラス(各40名強)を分担し、授業計画の骨子は学年共通として定期的に打ち合わせをしながら進めています。発表では1)教材の取捨選択 2)パフォーマンス「試験」の組み込み方法 3)2種類の「試験」から見る生徒の状況 4)課題:Treatmentの不足にどう対応するか についてお話しします。

12:30〜13:30 昼食
14:00〜15:30 生成AI活用のhands on企画

司会者後記:
午前中のセッションでは、授業実践報告が行われました。根子雄一朗先生の「論理」と「表現」の両立を目指す授業実践についての発表は、高校2年生対象の論理表現Ⅱの授業実践を通じて、論理展開と英語表現の両方を伸ばす方法について示唆に富んだものでした。そして、三村修先生の共感カードを用いた帯活動についてのプレゼンテーションは、非暴力コミュニケーション(NVC)の応用として、対話的な学びを促進する素晴らしいアイデアでした。最後に、望月眞帆先生の高校必修科目「論理・表現II」の授業実践報告では、実際の教育現場での課題とその解決策について、貴重な情報を共有していただきました。

午後のセッションでは、急遽、久保岳夫先生に生成AIに関する解説を行なっていただき、様々な分野で生成AIが活用されていることを学びました。その後、生成AIの活用に関するhands on企画が行われ、参加者は自身のPCを活用して実際にChatGPTを高校・大学の授業でどのように活用できるか、について意見交換を行いました。今後ますます重要性を増す技術であり、参加者たちにとって貴重なスキルを身につける機会でした。

授業実践報告を行なってくださいました3名の先生方、対面・zoomにてご参加くださいました皆様、また日頃よりTALKをお支えくださっている皆様へ心より感謝申し上げます。(文責:肥田和樹)

9月のTALK

第5回研究会【講演】

日 時:2023年9月30日(土) 17:15 – 19:00

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学早稲田キャンパス3号館802教室,及び,Zoom)

発表者:近藤 悠介 氏(早稲田大学)

テーマ:英語教育における自動採点

概要:昨今の技術の発展に伴い、外国語学習支援という観点で多くの自然言語処理の研究が行われています。発音訓練のプログラム、作文に対する自動フィードバックシステム、文法的誤り検知などがその例です。その中で今回は自動採点についてお話ししたいと思います。発表では、まず、自動採点の基本的な考え方を示し、私が、最近関わった自動採点に関する研究を紹介します。次に、自動採点の研究から発展した研究として、学習者の発話や作文の特徴を捉えるために発話や作文から抽出する言語的特徴量について検討した研究を紹介します。自動採点の研究は工学分野の研究になっており、英語教育関連分野の研究者が関わる機会はあまりないように思います。最後に、自動採点研究に対して英語教育の実践者、研究者がどう関わっていくべきか皆さんと議論したいと思います。

司会者後記:
本講演は,英語教育における自動採点の役割をその関連領域に分けて紹介する内容であった。大きく分けて「計量文献学と自動採点」,「人工知能と自動採点」,「自然言語処理と自動採点」,「私の直近の自動採点研究」という小題目に基づき自動採点研究について説明がなされた。

「計量文献学と自動採点」では,人が書いた文章にはクセがあり,句読点の打ち方や文長(=文の長さ)などによって,著者の特徴を推定することができるという話が紹介された。「人工知能と自動採点」では,人間の場合同様,コンピュータを採点者として訓練することで可能になっている自動採点の仕組みについて説明がなされた。「自然言語処理と自動採点」では,自動採点は自然言語処理という研究分野では文書分類として言及されており,人間が書いた文章の品質を自動評価することに利用されているという話が例を通して紹介された。また,「私の直近の自動採点研究」では,決定木やランダムフォレストを用いた研究が紹介された。

本講演は「あるいはいかにして私が自動採点研究をやめたか」という副題も当日共有された資料に付されており,深層学習の到来によって,講演者は「自動採点」から「文の複雑さ」へ研究の関心が移っており,講演者が最近研究している依存文法やグラフ理論の話などもなされた。講演全体を通してユーモア溢れるエピソードなども多く,現地での参加者,オンラインでの参加者双方より,多くの好評をいただいた。(文責:久保 岳夫)


11月のTALK

第6回研究会【講演】

日 時:2023年11月25日(土) 17:15 – 19:00 

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学早稲田キャンパス3号館802教室,及び,Zoom)

発表者:湯舟 英一 氏(東洋大学)

テーマ:最新イギリス事情

概要:発表者が、アフターCOVID, 新国王誕生、Brexit、Ukraine War、物価高など、様々な社会的転換にあったイギリスに勤務校の交換研究員として1年間滞在することになり、税金、医療、車、学校、不動産、近所付き合いなど、生活インフラを一から構築することになった経験から、今の、素のイギリス人・イギリス社会、言語、食文化、ポップカルチャー、日常生活、音楽事情、移民事情、など、あくまでも発表者の視点からざっくばらんにお話しできれば幸いです。話題の具体例としては:イギリスの小学校でもやっぱりフォニックス、今回気付いたイギリス人の発音の特徴(同化、語尾の無声破裂音、挨拶のイントネーション)、超ネット社会と昔のままが同居する国、高級車から降りてくるイギリス人って、都市の半分以上は移民だった、イギリス人が大好きな COSTA コーヒー、Coronation Day、Let’s agree to disagree、やっぱりすごかった日本の百均、Sweet Caroline、イギリス人が好きなクリスマスソング、など。イギリスに馴染みのある会員も多いと思いますので、気さくに意見交換ができれば幸いです。

司会者後記:Coming soon…


12月のTALK

第7回研究会【講演】

日 時:2023年12月16日(土) 17:15 – 19:00 

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学早稲田キャンパス3号館802教室,及び,Zoom)

発表者:柳川 浩三 氏(法政大学)

テーマ:L2リスニング指導の理論と実践

概要:

 本発表では、L2英語のリスニング理論を概観し、最新の実証的データを参加者と共有することで、我々が英語リスニングを今よりも理論的・効果的に指導できるようになれることを目指したい。それによって、生徒や学生の声―「リスニングの勉強の仕方がわからない」「英語を聞き取れるようになりたい」「リスニングテストでいい点数を取りたい」-に少しでも応えることができればうれしい。
 リスニング(指導)についてはわからないことが多い。私自身も文法やリーディングほどにリスニングは自信をもって教えられない。それは、次のような基本的な問いに解を得られていないことと無関係ではないであろう。何を教えたらリスニングを教えたことになるのか、教えなければならないことの優先順位はあるのか、そうした教え方で学習者の英語リスニング力はどの程度伸びるのか、あるいは伸びないのか、定型化したリスニングテストでは指導の効果よりもテスト慣れ効果の方が大きいのではないか。
 本発表では、こうした問いに関して理論とevidenceに沿いつつ参加者と経験を共有し、考えを深めていければと思う。
 
参考文献 
Saito, K., Uchihara, T., Takizawa, K., & Yui Suzukida (2023). Individual differences in L2 listening proficiency revisited: Roles of form, meaning, and use aspects of phonological vocabulary knowledge. Studies in Second Language Acquisition. Published online: 12 October 2023.
https://doi.org/10.1017/S027226312300044X

Yanagawa, K. (2023). The role of bottom-up strategy instruction and proficiency level in L2 listening test performance: an intervention study. Language Awareness. published online: 04 January 2023.
https://doi.org/10.1080/09658416.2022.2161557

司会者後記:
本発表は、まさに「理論と実践」が融合したものでありました。

ご発表の柳川先生ご自身の最新の研究成果を共有してくださいました。2010年代からは、リスニングできることとは何か、その構成要素の強さは何かといった点でも研究が行われているというお話からは、この分野の研究の進展を感じました。また、Saito, Uchihara, Takizawa & Suzukida (2023)に示されたリスニング力の構成要件にも言及されました。これによると、リスニング能力の説明変数は、音としての語彙知識(チャンクを含む):78%、メタ認知:21%、受信力(ワーキングメモリー、音素識別能力):1%の結果と理解しました。

次回の2024年1月開催予定のTALKでは、これらの理論・示唆から実践を振り返ることになりました。参加者のみなさまの実践がどのように適用できるかできないかについて、TALKできれば幸いです。(文責: 山口高嶺)


1月のTALK

第8回研究会【TALK TIME】

日 時:2024年1月20日(土) 17:15 – 19:00 

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学早稲田キャンパス3号館802教室,及び,Zoom)

コーディネーター:山口 高領氏(秀明大学)

テーマ:L2リスニング指導の理論と実践についての意見交換

概要:
第7回研究会 柳川浩三氏(法政大学)「L2リスニング指導の理論と実践」の続編となります。第7回研究会の「参加者後記」での山口高領氏(秀明大学)の呼びかけをTALK TIMEの導入とします。参加者のみなさまから、ご自身が行っているリスニング指導法を共有できましたら幸いです。

司会者後記:
今回は、久保さま、湯舟さま、柳川さまの順に、リスニングの指導の哲学から具体的な指導に至るまで説明がなされ、率直な意見交換がなされました。

どなたにも共通するのは、教員が一斉に音声を聞かせるといった伝統的な授業形式ではなく、個々の学習者のペースでリスニング活動をさせている点でした。以下の点が特に印象に残りました。

久保さま:知的欲求の高い高校生や大学生に対してディクテーションやプレゼンテーションの指導

湯舟さま:アプリや英語の歌を使い、自習までも助けるようなチャンク単位の習得を助ける指導

柳川さま:高校生や大学生の多くがリスニングができるようになりたいと目指している大学入学共通テストやTOEICを念頭におき、ストラテジー指導も伴った個別指導

私は、ここ10年ほど英語以外の外国語をアプリを使って学んでいます。日常会話レベルを目指して現在はフランス語を楽しんでいます。そうした外国語学習者からの立場から見ても、今回の3名の指導法は徹底的なボトムアップスキルの自動化を助ける素晴らしい指導でありました。

今回はリスニング指導での意見交換でしたが、今後、スピーキング指導やライティング指導についても、率直な意見交換ができればと感じました。

以下は、3名の方から言及のあったwebサイトです。
TEDEd: https://ed.ted.com/
Nipponglish Online Academy: https://nipponglish.com/nipponglish_song_list/
BBC Hard Talk: https://www.bbcworldnews-japan.com/programs/programs-329/
(文責:山口高嶺)


3月のTALK

第9回研究会 【 講演 】

日 時:2024年3月9日(土) 17:15 – 19:00

発表者:佐久間 由梨 氏(早稲田大学)

会 場:ハイブリッド開催:早稲田大学早稲田キャンパス3号館802教室808教室,及び,Zoom
    ※教室番号に誤りがありました。ここに訂正し,お詫び申し上げます。

テーマ:早稲田大学におけるジェンダー教育ーー英米文学・文化研究の知見から

概要:2010年代以降、アメリカでは制度的人種差別へと抗議を行うBLM運動、セクシャルハラスメントへと抗議するMeToo運動、コロナウイルス以降の時代においてアジア系への差別や偏見が顕著となったことを契機に発展したStop Asian Hate運動などが生じている。アメリカ文学・文化研究は、こうした時代を背景に文学・文化作品を分析することで、多様性や多文化主義が理想とされる一方で、人種、民族、ジェンダー、セクシュアリティ、年齢、障害、宗教などにより人々が分断され、差別、不寛容、排除、暴力が生じるメカニズムを明らかにしようとする学問分野である。

発表では、こうした英米文学・文化研究の知見を、いかに日本の大学におけるジェンダー教育と結びつけることができるかについて考える。一つの事例として、早稲田大学の学生有志が作成した「性的同意ハンドブック」の取り組みを紹介する。本ハンドブックは、大学キャンパスから性暴力をなくすために作成され、学生チームは早稲田大学ジェンダー研究所の教員と協力の上、ハンドブックを利用したワークショップをこれまで50以上の早稲田大学の授業で実践してきた。大学の講義で人種、ジェンダー、セクシュアリティに起因する差別について学び、その知見を大学キャンパスにおけるアクティヴィズムへと結びつけた学生たちの活動から、教員として私が感じたことについても共有したい。

<講演者プロフィール>

早稲田大学教育・総合科学学術院、教育学部、英語英文学科教授

学部時代は東京学芸大学で英語教育について学び、教員免許を取得しました。大学でジャズ研に入ったことをきっかけにブラック・ミュージックに興味を持ち、卒論は黒人文学・音楽をテーマに執筆しました。修士・博士課程でアメリカのウィスコンシン州立大学マディソン校の英文学科に留学し、人種、民族、セクシュアリティ、年齢等において多様な学生が集まるクラスでの教育方法に関心を持つようになりました。いま、早稲田大学の教育現場で、いかに多様性や差別について考える授業を実践できるかについて、日々試行錯誤しています。

<研究分野>
アメリカ文学・文化、ジャズ、人種、ジェンダー、フェミニズム批評 

<経歴>
(学部)東京学芸大学, 教育学部, 中等教育教員養成課程英語専攻

(修士課程)東京学芸大学大学院修士課程, 英語教育専攻外国語教育講座, 英米文学・文化分野 

(博士課程)一橋大学博士課程, 言語社会研究科(留学のため退学)

     ウィスコンシン大学マディソン校博士課程, 英文学, 文学研究 

<主要著作>
・ 『ハーレム・ルネサンス―〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評』(2021年、明石書店、共著)

・「ミレニアル世代のジャズーカマシ・ワシントンをジャズ史とBlack Lives Matterに位置付けるとき」(『立教アメリカン・スタディーズ』42号、2020年、論文)

・「ブラック・ライヴズ・マター時代のジャズ―クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアとテリ・リン・キャリントンの即興実践」(『現代思想 10月臨時増刊号 Black Lives Matter』2020年、論文)

司会者後記:
前半は、佐久間先生の研究分野である「アメリカ文学・文化研究、ジャズ研究」についてご紹介がありました。アメリカは「多様性・異文化理解・多文化共生」という肯定的な言葉で語られることも多いですが、一方で「差別・不寛容・排除」といったネガティブな概念も常に孕んでいる国であるというご説明がありました。特に、「ジャズはなぜ男性ばかりなのか」というテーマでは、家父長制の問題・音楽業界における典型的な性別役割分業について論じられました。この視点から見ると多くの改善が必要なジャズの世界ですが、ジャズドラマーのテリ・リン・キャリントンのように、「家父長制のないジャズ」に向けて、ジェンダーの問題に取り組まれている方もいらっしゃいます。

後半では、佐久間先生ご自身が、人種やジェンダーをテーマとした研究(理論)を、教育にどのように結びつけてこられたか、これまでの実践について報告がありました。留学生を含む、早稲田大学学生有志の方々で作成された「性的同意ハンドブック」についてご紹介がありました。これまで誰もが「当たり前」と捉えていた数々の「大学生文化」は「同意なき文化」を含むものであったという視点に立ち、性暴力の根を断ち切るため、また学内のジェンダー平等や多様性の理解を深めるための、大きな一歩となるハンドブックでした。このようなハンドブックは他の大学でも作成されつつあるそうです。でまた、ワークショップLet’s order a “Consent“ pizza!の授業例についてもご紹介がありました。この活動は、誰もが対等な立場で、「同意」のもと発言したり決定・行動できるようになることが大きな目的で、これまで多くの出張授業を行なってこられたそうです。その結果、性的同意への理解度弥5Dへの理解度が飛躍的に高まったというデータがありました。

最後の質疑応答では、ジェンダーの視点からの英語表記の問題、教育現場におけるジェンダーの問題、日本社会における差別、高校の英語教材におけるジェンダーの視点など、非常に多岐に渡る質問や活発な議論が行われました。最後の佐久間先生のご発言「ジェンダーは皆の問題であり、決して男性を非難する学問ではない」が特に心に残りました。「ジェンダー」は誰もが自分らしく幸福に生きられる社会を作る足がかりとなる学問であると感じました。早稲田大学でのこの先進的な取り組みが更に広がり、多くの人々にとって少しでも生きやすい社会になって欲しいと思います。そのためにもこのテーマから目を逸らさず、問題意識を持って毎日過ごしていきたいと思いました。

ご講演を行なってくださった佐久間先生、対面・Zoomにてご参加くださいました皆さま、また日頃よりTALKをお支えくださっている皆さまへ心より感謝申し上げます。(文責:中村優香)