2021年度   第1回研究会 【講演 】

日 時:2021年4月24日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

発表者:阿野 幸一 氏(文教大学)
テーマ:小学校教科化を受けた中高の英語指導と新しい3観点評価

司 会:浅利 庸子 氏(早稲田大学)


【概要】

2020年度から小学校で教科としての外国語学習がスタートし、2021年度から中学校で、そして2022年度から高等学校で新学習指導要領が施行されます。中学校の教科書も大きく変わり、これまでの4観点の評価が3観点の評価へと変わります。小中高の連携をどのように考えたらいいか、そして、3観点の評価を英語指導にどう生かすかについてご提案させていただき、みなさまとよりよい英語指導と評価について考える機会となれば幸いです。

【参加者後記】

小学校において英語教育が教科としてスタートすることで、中学・高校がどのように対応すべきか、大変勉強になる素晴らしい時間であった。特に、中学・高校教員の役割として「中学教員は知識の整理+上書き」が必要で、「高校教員はこれまで学んだ知識を組み合わせて活用」できるように生徒への支援を行う必要性を改めて学ぶ機会となった。小学校での教科化を受け、中学・高校教員は「それまでの学習を引き継ぐ」イメージを持って指導する重要性が挙げられた。

評価項目がこれまでの4観点から3観点に変わることで、どのような活動が、どの観点に当てはまるのか、具体例を交えて解説していただいた。そしてなにより、評価は生徒の学習改善につながるように、教師の指導改善につながるように活用する必要性を学ぶ素晴らしい機会となった。


2021年度   第2回研究会 【 ワークショップ 】


日 時:2021年5月29日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:久保 岳夫 氏(開成学園講師)

テーマ:英文朗読におけるイントネーションの明示的選択:『不思議の国のアリス』の冒頭部分を例に

司 会:浅利 庸子 氏(早稲田大学)


概 要】


英語学習において音読の重要性が高いことは言うまでもありませんが,多くの種類の英文構造や文脈に即応して音読するとなると,「練習量」や「慣れ」といった比較的明示性の乏しい量的な概念に委ねがちとなり,英文のどういった音声面,とりわけイントネーションに着目して音読すればいいのかという質的な概念は見過ごされがちになってしまいます。本発表では, O’Connor & Arnoldらによってまとめられたイントネーションシステムを概観しながら,Alice’s Adventures in Wonderland(邦題『不思議の国のアリス』)の冒頭部分を例に,英文構造のどういった部分に着目してイントネーションを選択すべきかを考えます。

【参加者後記】 

講演は、おおまかに3つの部分に分かれていた。第一に、J. D. O’Connor and G. F. Arnold, Intonation of Colloquial English, 2nd ed. (Longman, 1973)の枠組みにのっとり、イギリス英語のイントネーションに出現する「チューン」の各部分が紹介された。第二に、それらの部分が組み合わさっている典型的な「音調群」のうち、下降調に焦点が当たっている3種類が紹介された。第三に、『不思議の国のアリス』の冒頭部分を朗読するとすれば、どのようなイントネーションを使えばよいか、という考察が行われた。 

第一の、チューンの部分に関する説明においては、英語の文を言うときに行うべき6項目の事柄が列挙された。すなわち、英語を言う人は、(1)言うべき部分の音節数を数え、(2)強勢の位置を把握し、 (3) 核の位置を把握し、 (4)核音調を選択し、 (5)核の前にある音節(もしあれば)の言い方を考え、(6) 核の後ろにある音節(もしあれば)の言い方を考える必要がある。 

第二の、音調群に関する説明においては、(a)「高頭部(または階段頭部)+低下降調」、(b)「高頭部(または階段頭部、または高下降調)+高下降調」、(c) 「上昇頭部(または登頂頭部)+高下降調」のパターンが紹介された。 

このあと、話題は、第三の、具体的な文に具体的なイントネーションを当てはめる作業に移った。ここでは、第一の部分で挙げられた5種類の作業が必要になる。講演者は、『不思議の国のアリス』の冒頭の60語弱の英語を使い、これを3つの短い部分に分け、それぞれの部分をどのようなイントネーションで朗読すべきかを、練習問題形式で参加者に問いかけた。また、講演者なりの解答を紹介し、実際に音読を行った。 

以上列挙した各概念の詳細をここで述べるスペースはないが、講演を通して、(ア)イントネーションは分析可能であること、(イ)イントネーションは小さなパーツから成り立っており、パーツが組み合わさっていくつかの典型的なメロディーが出来上がっていること、(ウ)こうしたメロディーは、話者の気持ちを反映していること、(エ)メロディーの選択については、必ずしも正解がひとつあるわけではないこと、といった点が伝わったと思う。 音読指導は英語教育において広く行われているが、強勢の位置や区切りに焦点が当たることが多く、イントネーションが分析的にかつ詳細に扱われることはまれである。今回の講演は、音読指導に専門的な知見を取り入れる試みを示したものとして、非常に意義のあるものだった。この分野で重要な文献がカバーされた参考文献リストも提示され、有用な情報が豊かに提供された会となった。[文責:松坂ヒロシ]


2021年度   第3回研究会 【 講演・ワークショップ 】

日 時:2021年6月26日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

発表者:守屋 亮 氏(早稲田大学教育学部 助手)
テーマ:学習者の自律を促す英語学習アドバイジング:多様な形態のセッションに着目して
司 会:肥田 和樹 氏(早稲田大学教育学部 助手)


【概 要】
外国語学習は教室内で完結するものではなく、近年の学習機会や学習リソースの多様化に伴い、教室外での学習も重要性を増しています。本発表では「主体的な学び」を支える学習者オートノミーに着目し、それを育む実践例の1つである英語学習アドバイジングを取り上げます。英語学習アドバイジングはアドバイザーと学習者の協働的な対話による個別的なセッションが主ですが、教室内アドバイジングや文書アドバイジング、学習者同士によるピア・アドバイジングなど、常駐のアドバイザーが居なくても様々な形態でそれぞれの文脈に応じて取り入れられています。当日は学習者オートノミーや英語学習アドバイジングの研究を概観し、実際のセッション例やアドバイザーに求められるスキルなどについて紹介します。加えて、アドバイザー・トレーニングなどで扱われる複数のアクティビティーを通して、少しでもアドバイジングを体験してもらえたらと思います。実践のフィールドや学習者層はそれぞれ異なれども、参加者の方々と明日の実践へのヒントを一緒に考えていければ幸いです。

【司会者後記】

講演の前半では、過去の研究を概観することで、学習者オートノミーとアドバイジングについて紹介され、後半には実際に生徒・教員・観察者に分かれロールプレイを行なった。

学習者オートノミーは「自立」ではなく「自律」を示し、自分の学習に関する意思決定を自分自身で行うための能力であり、学習の目的や内容、学習のペースや場所などを自分で選べることである(青木&中田, 2011, p. 2)。さらに、自律的学習態度を育成するためには、学習者中心の教育が必要であり、その中で教員は学習者の必要に応じて支援をする立場である(津田, 2013, p.44)ことも紹介された。

言語学習アドバイジングとは、学習者との対話を重要視し「自己主導型学習」を促す支援活動である(黒田, 2016)。さらに、アドバイジングの必須3スキルとして、「承認:相手の存在を認め、問題点や解決策を一緒に考える」「傾聴:相手に共感しながら耳を傾け、相手の主張を捉える」「質問:相手に気づきを与え、対話を深める」が挙げられた。

実際のアドバイジングセッション例をもとに、アドバイザーの発言や学生の発言を分析し、使用されている言葉や相手の発言の引き出し方などを学んだ。そして、講演会の参加者がそれぞれアドバイザー、相談者、観察者の役割を演じながら、実際にアドバイジングセッションを体験した。

目まぐるしく変化する英語教育において、ポスト・コミュニカティブ・アプローチの1つであるアドバイジングを学び、実際に体験することで、これから自律した学習者を育成するためのヒントを学ぶことができ、有用な情報と体験がふんだんに盛り込まれた会となった。[文責:肥田和樹]


2021年度   第4回研究会 【 講演】

日 時:2021年7月17日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

発表者:宮原 万寿子 氏(元 国際基督教大学 リベラルアーツ英語課程 準教授, 及び同プログラム副主任)
テーマ:Narratives in Language Learning Research: Developing a Reflexive Framework (語学教育におけるナラテイブ分析 -リフレックシブなアプローチの導入)
講演言語:日本語
司 会:小林 潤子 氏(駒澤大学(非常勤講師))


【概 要】
Abstract:Despite the proliferation of narrative studies in the area of language learning research, methodological issues that emerge in the research process, particularly, ideas and practices relating to analyzing and reporting narrative data are areas that still warrant much discussion. Using data collected from a study that offers a unique perspective on the understanding of the process of L2-identity construction and development (Miyahara, 2015), this article argues the importance for researchers to develop and establish a space for critical and reflective thinking throughout all phases of the research process. The article concludes by presenting an analytical model for narrative studies that features reflexivity as its prime component

(ナラテイブの研究アプローチを使った語学教育の研究は近年,非常に増えている傾向にある。ただし,ナラテイブ研究における分析方法は必ずしも語学教育の分野では十分に追求されておらず,理論化がまたれる状態である。本稿では学習者のL2アイデンテイテイ構成を探った研究データを使用し,  reflexivity(再帰性)を柱にナラテイブの一つの分析方法を提案するものである。)


【講演者紹介】宮原万寿子Masuko Miyahara(元 国際基督教大学 リベラルアーツ英語課程 準教授、及び、同プログラム副主任)。3月2021年、同大学を定年退職し、現在は国際基督教大学、早稲田大学大学院で非常勤講師。 Institute of Education, University of Londonより修士号、博士号を取得。専門分野は英語教育。研究テーマはアイデンティティ、学習者ディベロップメント(学習者自律)、学習者の情意要因(emotions)。又、質的研究法、特にナラティブ アプローチを主な研究方法とし、これを通して研究参加者自身の「声」を追う研究方法に着目。ここ数年は教師教育、EMI(English as a Medium of Instructions)からの視点で多角的に研究に取り込んでいる(科研# 18K00842)。出版物は多数あるが、主な著書は Emerging Self-Identities and Emotions in Foreign Language Learning: A Narrative-Oriented Approach (2015). Multilingual Matters.

最近の研究手法に関する論文は(1)Miyahara, M. (2021). ‘Place-reflexivity’ as an imaginary kaleidoscope to explore methodological issues in ELF research’.  In Kumiko Murata (Ed.). ELF Research Methods and Approaches to Data and Analyses.  Oxon: Routledge, UK. pp. 221-240. や(2)Miyahara, M. (2020). Sampling: Problematizing the Issue. In J.Mckinley and H. Rose(eds). The Routledge Handbook of Research Methods in Applied Linguistics. London: Routledge pp.52-62 などがある。


2021年度TALK夏合宿@Zoom

8月22日(日)14時00分~18時05分


  • タイムスケジュール

14:05―14:45 山口高領

小学校教員志望教職課程履修生の外国語支援活動における授業力・指導力の学び

​​8/7の全国英語教育学会で発表した内容を踏まえ、テーマ分析を用いて、山口がとりまとめをしている上記の支援活動における担当学生の学びを報告します。

参考資料

『J-POSTLエレメンタリー』の紹介動画 http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/JPOSTL_Elementary_Video.mp4

『J-POSTLエレメンタリー』 http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/CompleteJPOSTLElementary.pdfを御

20年度全面実施の学習指導要領解説(外国語活動・外国語編)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

14:55―15:35  浅利庸子      

The Use of Formulaic Sequences and Perceived Fluency

I will report a study which examined whether EFL learners who are perceived to be fluent use a wider variety of formulaic sequences (FSs) than those who are not, and if so, what types of FSs are used by fluent speakers. A one-minute monologue was collected from 191 EFL learners, who were all university students in Japan. The monologues were then assessed by nine judges with regard to fluency using a five-point scale. The results revealed that the use of a wide variety of FSs can help L2 speakers come across as fluent speakers. On a closer observation, it was found that fluent speakers had a tendency to utilize discourse devices to organize their ideas and guide their listeners effectively. This may have played a part in producing coherent speech, which may be an essential factor in fluency.

15:45-16:25   望月真帆      

21年度2学期に10週間実施したいと考えているオンラインremedial courseの企画案をご紹介します。英語の基礎トレーニングが必要な有志生徒少数に夏休み中に試験的に実践し、英語面と継続支援の面でどのようなサポートが必要か考察しました。NHKラジオ英語講座を教材とした学習支援です。企画案や支援の視点(フィードバックの観点、学習継続を支援する声かけのあり方、教師の役割)にご意見いただければと思います。

16:35-17:15   根子雄一朗    

高校3年英語表現Ⅱにおける授業実践について発表します。当該科目では300語程度の説得型エッセイが書けるようになることを目標として、機械評価とピア評価を取り入れながらエッセイライティングの指導をしています。発表では授業実践と指導における今後の課題について共有します。授業改善に向けたフィードバックがいただければと思います。

17:25-18:05   小林潤子      

“Do you like Zoom lessons?—-What emotions do students have about the remote lessons in Japanese higher education, especially with English in the EFL context?–グランディド・セオリーについてと上記の内容のリサーチ・デザインを発表する予定です。ご意見をお願いします。


2021年度   第5回研究会 【 研究発表】

日 時:2021年9月25日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

発表者:杉内 光成 氏(獨協埼玉中学高等学校)
テーマ:音声・発音指導に焦点をあてた中学校英語教科書分析-提示項目・提示方法を考察する-


【概 要】


発表は、令和3 年度検定済の中学校英語検定教科書における発音を中心とした音声指導項目に焦点をあて、発音記号、強勢、イントネーション、単語間の音のつながり(連結・脱落・同化)、ポーズ(意味グループごとの区切り)、OI(音声表現)指導の6項目を整理し、それらの提示内容や提示方法や、これらの項目を「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)という観点から分析した。6 社の検定教科書はどのような工夫を行っているのか、またどのような違いがあるのかを考察し、音声指導について考えていきたい。


2021年度   第6回研究会 【 研究発表】        

日 時:2021年10月30日(土) 17:15 – 18:15
会 場:オンラインZOOM開催      

発表者:Tan ZHOU 氏(早稲田大学大学院 教育研究科 英語教育専攻 修士1年)


Title:The role of feedforward feedback in the learners’ motivation development related to vocabulary acquisition
講演言語:英語


【Abstract】

In recent years, Carless and other researchers started turning emphasis from the assessment’s certification function (e.g., the CEFR ranks the learners) to assessment’s learning promotion function. In Carless’ learning-oriented assessment (LoA) framework, the proper feedback is an important element for improving learning, the feedback here is also expected to function as the feedforward (Carless, 2007). However, yet there are relatively few researches focusing on the empirical use of feedforward feedback in oral vocabulary teaching and learning. The significance of motivation to second language learning has been supported for decades by many researchers such as Gardner and Dörnyei. And back to 1989, researcher like Sadler had already claimed that evaluative experience can help students better understand the tasks and criterions given by teacher. With the learning-oriented perspective, this study tries to design an interpretation method for self-evaluation and see how it will influence L2 learners’ motivation development.

In today’s presentation, the researcher will introduce the rationale of this study, followed by the discussion of research proposal.


2021年度   第7回研究会 【 ワークショップ】

  日 時:2021年11月20日(土) 17:15 – 19:00

  会 場:オンラインZOOM開催
   
  発表者:松坂 ヒロシ 氏(早稲田大学・秀明大学)

  テーマ:英語発音指導に関する20の主張

  講演言語:日本語

  司 会:久保 岳夫 氏(開成学園講師)

【概 要】

 英語発音指導をテーマとし、参加者に自由な討論をして頂けるセッションを行いたいと思います。活発な議論のきっかけになるよう、このトピックについて発表者が日頃考えていることを、あえて、きわめて単純な「主張」という形で提示します。反対意見や疑問も含めて忌憚のない発言をして頂ければ幸いです。発表者はこのたび『歯型と絵で教える英語発音――発音をはじめて教える人へ』と題する本(開拓社, 2021)を作りましたが、今回取り上げる項目は、この本の準備段階で私のメモに少しずつたまっていったものです。項目は本のほとんどの章の内容に関連していますが、最も多くの項目が最終章「リピート練習をこえて」に盛り込まれています。これらの項目は、「アゴの開きを教えよ」といった基本的なことから、「英米音をまぜるな」といった中級レベルに寄ったポイントまで、雑多な内容をカバーしています。今回のセッションでは4~5項目ごとに説明を中断してディスカッション時間を設ける予定ですので気楽に意見交換に参加してください。なお、上記の本をご用意いただく必要はありません。

【司会者後記】

 本発表は,発表者からの英語の発音指導に関する20の主張を通して参加者に討論を促すワークショップという形でなされた。発表者による20の主張は,6つのトピックに分けて発表された。

  1. 指導者の基本的姿勢について
  2. 具体的な音について(1)
  3. 具体的な音について(2)
  4. くずれとプロソディについて
  5. 教えかたについて
  6. 言語観の大切さについて

トピック1「指導者の基本的姿勢について」では,3つの主張(主張1「発音指導の最終目的は,発音調整力をつけさせることである」,主張2「発音指導は時間をかけずに行うべきである」,主張3「速くしゃべりたければ,ゆっくりしゃべれ」)がなされた。主張1では,教える側の発音調整能力に関してJenifer Jenkins氏によるAccommodation skillsが引用され,その重要性とともに,英米発音などのモデル発音を身につけていないと発音調整能力自体が身に付かない可能性があることについても言及された。主張2では,英語の授業の限られた時間において折に触れて発音指導をするだけであっても発音指導の意義は十分にあるという主張がなされた。外国語の発音指導とは必ずしも音声学の授業で行うような詳細なメカニズムの記述を説明する必要はなく,短い時間で音を実際に聞かせてポイントを絞って説明するだけでも十分に意味があるという内容であった。主張3では,速く話そうとする意識が強すぎると,発音が不自然な形でくずれてしまう危険性があることが述べられ,速く話せるようになりたい学習者は,ゆっくり話す練習から始め,「生理的合理性のある音のくずれ」を学ぶことへと移行していくのが有効ではないかという主張がなされた。

トピック2「具体的な音について(1)」では,3つの主張(主張4「指導者の口の形を見せることの効果にはあまり期待するな」,主張5「『触れるな』より『触れよ』の指示の方がよい」,主張6「発音方法よりも,作る音の質が大事である」)がなされた。主張4では,コロナ禍で指導者がマスクをしながら発音を教えなければならない場合においても,悲観的になる必要はなく(そもそも指導者の口の形を見せることは,調音のしくみの一面を示しているに過ぎない),調音のしくみを歯型や口腔断面図などの視覚的な方策によって補うことができるという主張がなされた。主張5では,/l/と/r/のような発音の区別を教える際に,「舌が◯◯に触れてはいけない」ということを強調するよりも,「舌が◯◯に触れている」という能動的な観点での指示が効果であるという主張がなされた。主張6では,教える音によっては,発音方法を示すよりも,周波数の違いなどの音質に着目させて示した方が有効な例(例えば,/θ/と/s/の違いについて)があることが述べられた。

トピック3「具体的な音について(2)」では,4つの主張(主張7「英米音をまぜるな」,主張8「ささやき声を使え」,主張9「前後の音との関連についても指導せよ」,主張10「日本語の干渉を排除したり,日本語を利用したりせよ」)がなされた。主張7では,英米の発音を混ぜてしまうと都合の悪い例(boat vs bought / artistic vs autistic)が紹介された。主張8では,ささやき声を使うことで,多くの日本の英語学習者が苦手とする有声阻害音(/z/, /dz/, /ʒ/, /ʤ/)の特徴を感じさせやすいということが述べられた。主張9では,前後にどのような音がくるかによって,当該の音の調音方法が異なってくることを教える必要性について,/f/の発音などの例を通して示された。主張10では,日本語の2つの母音を連続で移行させるように発音することで,英語の母音を指導する「発音のものさし」と呼ばれるテクニックが紹介された。

トピック4「くずれとプロソディについて」では,4つの主張(主張11「音のくずれを『いけないもの』扱いするな」,主張12「くずし方を変えよ」,主張13「第二アクセントを無視するな」,主張14「低い声を大切にせよ」)がなされた。主張11では,母音化してしまうdark Lのような現象が取り上げられ,隣り合っている音と同時に発音できない場合などは,「堂々とくずして(つまり母音化して)発音しても構わない」という内容であった。主張12では,音のくずれは明示的に取り上げるのではなく,例えば指導者が授業の初めの方では丁寧な発音をし,授業が進むにつれて徐々に発音をくずしていき,授業の最後の方にはくずれた発音を自然な形で示すようなやり方が効果的なのではないかという提案がなされた。主張13では,試験で問われることがない第二アクセントも,リズムや抑揚の面で重要な働きをするため指導することは重要であるという内容であった。主張14では,強調構文などを例に,抑揚の核を知らせるためにはすでに共有されている情報は低い声で発音することが重要であるという考えが示された。

トピック5「教えかたについて」では,5つの主張(主張15「学習者の発音を真似よ」,主張16「スローモーション発音を使って指導せよ」,主張17「単語の途中で切りながら指導せよ」,主張18「発音チェックリストを活用せよ」,主張19「アクティビティの意義を認識せよ」)がなされた。主張15では,学習者はしばしば自分の発音とモデル発音の差がわからない場合が多いので,指導者が学習者の発音を真似することでその違いをはっきり示すことができるというものであった。主張16では,/l/と/r/の違いや,学習者が[l]のように発音してしまいがちな米発音の[ɾ]を指導する際などは,ゆっくり発音して違いを浮き彫りにできるという考えが示された。主張17では,母音が後続しない語末・音節末の/n/を指導する際などに,Henry(He|nry)のように区切って発音を示すことが効果的であるという主張がなされた。主張18では,学習者によっては「人間ドック的」に発音のチェックリストを提示することで,問題点の克服に取り組みやすいという主張がなされた。主張19では,コミュニケーションを意識した発話アクティビティを通して,発音が自動化されるように促すことが重要であるという考えが示された。

トピック6「言語観の大切さについて」では単独の主張20「教師は言語観を持て」がなされた。この主張は発表者の恩師でもある五十嵐新次郎氏のことばで,言語教師は「ことばは何のためにあるのか」を考え,目的を意識し規範を意識しながら指導していくことが大切であるという主張がなされた。

発表者が意図された「ワークショップ」の形式通り,各トピックの合間で参加者から多くの発言,質問があり活発な議論がなされた。特に,主張4について,自然な英語の発音といわゆるカタカナ発音との差を指導者の口を見せることによって学習者に効果的に伝えることができるという研究結果があるとの指摘が参加者から行われ,発表者から,確かに音によってはそのような効果があるに違いないので,主張4が当てはまる度合いは音によって異なると思う,とのコメントがあった。授業中の扱いに戸惑いを感じることも多いと思われる発音指導について,大胆な「主張」という形で話題が提供されたことで,多くの参加者にとって発音指導を積極的に考える大変よい機会になったことと思われる。【文責:久保 岳夫】


2021年度   第8回研究会 【 研究発表】

日 時:2021年12月18日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催
発表者:杉内 光成 氏(獨協埼玉中学高等学校
テーマ:インタビューから分析する中学現場での発音指導の現状
講演言語:日本語

【概 要】

 令和3年度検定済の中学校英語検定教科書を使用して授業を行っている教員3名にインタビューを行い、その内容を「実際の発音指導」を中心に、「教科書の使用」、「指導手順」という2つの観点との関連を分析します。また、9月に発表させていただいた教科書分析の結果とも合わせて分析内容を考察していきます。本発表では、インタビュー分析の結果を用いて現状の発音指導について、参加者の方々と活発に意見を交換していきたいと思います。


 2021年度 第9回研究会【合同研究会】       

日 時: 2022年2月19日(土)14:00〜18:15
会 場: Zoomによるオンライン開催

プログラム内容
1. 合同セッション
14:00- 開会の辞トム・ガリー氏 (KLA会長)
14:15-15:15  講演 (含・質疑応答15分) 
William Simpson 氏 (TALK会員)Junior Associate Professor, Tokyo University of Science, Institute of Arts and Scienceタイトル:Capital, Commodity, and English Language Teaching*発表言語は英語
15:25-16:10 研究発表1(含・質疑応答15分)Xinqi He 氏 (KLA会員) Ph.D. candidate, The University of Tokyoタイトル:Languages without names: constructing native-speakerism in a multilingual context*発表言語は英語
16:20-17:05研究発表2(含・質疑応答15分)Yoko Asari 氏(TALK会員)Assistant Professor, Faculty of Commerce, School of Commerce, Waseda Universityタイトル:Lexical Phrases and Perceived Fluency
*発表言語は英語
17:05- 閉会の辞 松坂 ヒロシ氏 (TALK会長)
※合同セッションの詳細については、こちらをご確認ください。
2. 懇親会@Zoom
17:15-18:15


2020年度   第10回研究会 【 TALK TIME 】

日 時:2021年3月26日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催
テーマ:「英語教育 情報交換会」

TALK内容:
1人当たり10−15分ぐらいで最近の研究や英語教育に関するホットトピックについて,ざっくばらんに情報共有をしていきます。発表は必須ではなく発表を聞くだけの参加だけで大歓迎です。

【参加者後記】

「日頃興味関心をお持ちの英語教育に関連する分野について」というテーマで、和やかな雰囲気の中参加者が話をしていきました。浅利さんが司会を担当され、話題提供が、肥田さん、中村さん、望月さん、杉内さん、山口から行われ、他の出席者からも質問やコメントがなされました。

特に印象に残ったのは、杉内さんが「英語教育」以外でも教育に関わることで学んでいきたいという趣旨の発言でした。各自が行う教育と研究はそれぞれが互いに影響しあいますが、研究はしっかり行えば行うほど、その対象は狭くなり、教育的観点を忘れてしまうことが私にはあります。私の場合、最近、小学校外国語教育をよりよくしたいと、研究ならびに本務校での教育実践をしています。この教育実践では、限られた時間の中で、「英語教育」だけでなく、いかに教育的観点を織り交ぜていくかという視点の重要性に気付かされました。

会の最後では、司会者の発案で最近の興味の対象を各参加者が紹介しました。

文責:山口高領