2015年度 第1回研究会(TALK TIME)

日 時: 2015年4月18日(土)17:00~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:授業始めにあたり~4技能統合・アクティブラーニング・反転授業など

発表者: 鈴木 久実 氏 [東京都立戸山高等学校]

    佐藤 之美 氏      [東京都立駒場高等学校]

司会者: 下山 幸成 氏       [東洋学園大学]

【概要】

1. アクティブラーニング:自律した学習者を育てるために

鈴木 久実(東京都立戸山高等学校)

 教員の話を聞くだけの受け身になりがちな進学校の授業で、生徒が能動的に授業に参加し、学習する集団作りのために行った「仕掛け」についてお話しします。大量の知識を注入する一方で、その知識を使う場を用意し、生徒のプロダクションに対しフィードバックを行い、4技能のストラテジーを示すことが、生徒の英語力向上に寄与する可能性について考えます。

<提供する話題>

ペアワーク・グループワーク / 手紙交換 / スピーチ練習 / リスニング・リーディング・ライティング・スピーキングが統合されたプロジェクト / 自分で決める宿題 / 冬休みのリーディングマラソン / 希望者による単語復習テスト / リスニングガイダンス / 英語通信 など

2. 協同学習としてのペアワーク実践例:アクティブラーニングの一環として

佐藤 之美(東京都立駒場高等学校)

 東京都より「進学指導特別推進校」に指定されている駒場高校に赴任した3年前に1年担任となり、この3月に卒業生を出しました。3年間の授業や生徒アンケートから生徒は様々な学習ストラテジーを持っていることがわかりましたが、協力しながら積極的に授業に参加するアクティビティも授業に取り入れてきました。今回は実際に使用したプリントをお見せしながら1・2年次に行っていた教科書暗唱のペアワーク、3年次に入試問題を使って行ったペアワークの例をお話しします。ペアワーク自体は必ずしも画期的で目新しい活動ではありませんが、参加者の皆さんとこうした活動の意義を話し合えればと思います。

【後記】

 2015年度初回の研究会は「授業始めにあたり~4技能統合・アクティブラーニング・反転授業など」と題して TALK TIME を行った。文部科学省が次回の学習指導要領に盛り込むとのことで現在の現場で注目されている「アクティブ・ラーニング」を話題の中心に、お二人の先生方に話題提供として実践の発表をしていただいた後に、皆が自由に意見を述べ合った。

 一人目の発表者である鈴木久実氏は、学習者が受け身ではなく自分から勉強しようという気持ちになるように促す実践例を紹介してくださった。進学重点高校に勤務しているためどこでも実践できるとは限らないと前置きがあったが、その工夫やアイデアは多岐に渡り、多くのヒントをいただくことができた。例えば、気づきの機会を増やすために単語小テストやリスニング小テストの採点をペアワークで行ったり、弾丸インプットと称してライティングをさせたり、授業中に手紙を書いて交換した後に宿題としてその返事を書いてこさせたり、音読・シャドーイングをペアワークで行わせたり、等である。また、4技能を授業でどのように扱っているかを、リスニング→音読→シャドーイング→原稿作りのライティング→発表としてのスピーキングという例で示してくださった。一貫して言えることは、学習者自らが学習するようになる雰囲気づくりと、学習者が「ああ、そうだったのか」と思える「気づき」の機会をできるだけ多く設けようとする配慮が行き届いていることであった。

 二人目の発表者である佐藤之美氏は、実際に授業で使っているプリントを資料として配付され、それに基づき説明してくださった。リーディングを扱うときのタイマーを使ったペア音読活動、文法を扱うためのインフォメーションギャップ型活動、サマリーや感想をグループワークで回し読みする活動、自分の弱点部分を中心に振り返る「振り返り」ノートの提出など、様々な活動を紹介してくださった。学習者の学習しやすさ、練習しやすさをよく考えたプリントは、圧巻だった。

 休憩をはさんだ後の TALK TIME では、お二人の先生のご発表に刺激を受け、参加者全員が何らかのコメントをし、有意義な意見交換ができた。その中でも発言が多かったのは、教師が一方的に講義形式で行う授業ではなく学習者が積極的に参加するにはどのような方法があるかという内容だった。様々な習熟度の学習者を教えている参加者がそれぞれ自分が行っている実践を紹介し合った。たくさんの実践を聞いていて素晴らしいと思ったことは、行っている活動がペアワークやグループワークを含め、形だけのものではないということだ。活動や方法を真似すればアクティブラーニングになると思われがちな中、今回の参加者は自律的な学習者を育てていくためにどのような活動をどのように取り入れるべきかを考えて実践している。ペアワークであればペアである必要性を考えて実践している。それぞれの活動は他の活動とのつながりを考えて組み込まれている。

 全参加者の発言が終わった後に松坂先生が最後におっしゃった「いろいろな教授法などを使うことが目的になってはまずい」「相手に応じて適切に選んでいけるのが教師の力量である」というお言葉が印象に残った。どんな流行り言葉が登場しても普遍で大切なことを物語っているからだ。

[文責:下山 幸成]


2015年度 第2回研究会(実践報告)

日 時: 2015年5月23日(土)17:15~19:30

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:定着と協働を仕掛ける授業―実践報告

発表者: 安藤 勇輝 氏       [早稲田中学高等学校]

司会者: 山口 高領 氏       [早稲田大学]

【概要】

 「定着」と「協働」をキーワードとした中学校の授業を紹介します。まず「定着」についてですが、これまでスパイラルな指導の重要性は説かれていたものの、その具体的な指導法までは紹介されていませんでした。スパイラルな指導を実現するために授業をどのようの体系化すべきか。継続的に繰り返しを仕掛ける指導案を紹介します。次に「協働」です。様々な活動を通して生徒が互恵的に学び合う場面を出来るだけ多く設けており、いわゆる一斉授業と比較してみてください。さらに、単発的なペアワークに終始せず、一連の協働的活動が有機的に結びつくよう配慮しています。各活動の関連性や位置づけに注目しながら実践例をご覧いただければ幸いです。

【後記】

 2時間休憩なしでも一気に終わったという実践報告でした。最初から1時間以上、参加者を生徒にみたて、「生徒」は安藤先生の授業に参加しました。11人の生徒が、時には個人練習を、時にはペアでの活動を、時には4人程度のグループでの活動を行いました。

 生徒になって実感したのは、テンポよく、眠くなる瞬間さえ与えずに授業が進行していくことでした。体育の授業を受けていたと言い換えられるかもしれません。インプットやアウトプット活動が濃縮された授業だと思います。と、ここまではこれまでに聞いたことのある話だと思う方もおられるでしょうが、この実践報告の最大の売りは、「スパイラル」にインプットやアウト活動が仕組まれていることだと思いました。

 1回50分の授業が、4回行われることをご想像ください。関係代名詞が最初の回では、inputとして提示され、第2回目の授業では関係副詞がinputとして提示されますが、その提示が終わった後、関係代名詞のintake1が続きます。第3回目の授業では関係副詞のintake1の活動が終わった後に、関係代名詞のintake2の活動が続きます。第4回授業では、関係副詞のintake2活動の後に、関係代名詞のoutput活動が続きます。その後、定期試験で関係代名詞や関係副詞が問われます。また、1年前に定期試験に出題された範囲を事前予告して、定期試験に再び組み込むのだそうです。

 安藤先生の勤務校では、すべての先生が同様に授業をしているわけではないそうです。ただ、ワークシートなどの自作教材などは学年で共有されているとのことでした。

 最後にもう1つ。安藤先生は、授業スタイルのヒントとなる資料を日々読み込んでいるだけでなく、自ら新しい言語活動を創りだすために、日頃小道具を探しているということが、質疑応答で明らかになりました。時には手品も使うそうです。一部実演して頂けましたが、自分の授業にも取り入れたいと思ったのは、私だけではないはずです。

 後記には書き尽くすことのできないことばかりでした。是非、Dialogue に安藤先生の実践報告をしてもらえたらと感じました。

[文責:山口 高領]


2015年度 第3回研究会(研究発表)

日 時: 2015年6月27日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:Revisiting Recasts: Explicit recasts and how they affect learners’ modified output and L2 development

発表者: 浅利 庸子 氏       [早稲田大学教育学研究科博士課程]

司会者: 根子雄一朗 氏      [早稲田大学教育学研究科修士課程]

【概要】

  Eighteen years have passed since Lyster and Ranta (1997) detected six different kinds of corrective feedback (CF) provided by NS teachers during an interaction with NNS learners. The six different kinds of CF (repetition, recast, clarification request, elicitation, metalinguistic clues, explicit correction) were then categorized as being either implicit or explicit. More recently, however, the implicit-explicit dichotomy has been challenged, and the types of CF have now been placed on a continuum with implicit CF and explicit CF at either end of it. In this presentation, I will be talking about recasts, a type of CF that has been for a long time considered one of the most implicit forms. By introducing some of my studies which reveal ways in which recasts can be provided “explicitly” and how they can affect learners’ modified output and L2 development, I hope to provide discussion on recasts so that foreign language teachers and SLA researchers can look at them in a new light.

【後記】

 今回の研究会では、発表者の研究テーマであるrecastについて、自身の行った2つの実験研究を中心に研究発表が行われた。recastとはcorrective feedbackの一種であり、コミュニケーション活動の中で発話に誤りがあった場合、教師がその誤りを含んだ発話を正した形に直して、学習者に対して再提示するというfeedbackの与え方のことを指す。recastには、negative evidenceとpositive inputの両方を提示することで学習者にnoticingを促すことができることや、コミュニケーションを阻害することなく文法項目に注目させられるなどの利点がある。その一方で、recastは学習者が発話を直されていることに気が付けないことがある点や、気づけたとしても、どこで、どのように間違っているかという情報を与えないため、訂正箇所を認識しにくいなどの弱みがある。これらの特徴を踏まえると、より学習者にとって効果的なrecastを行うためには、recastのsaliencyを高める必要があることがわかる。

 そこで、一つ目の研究では、L2学習者を対象としたコミュニケーションのクラスにおけるrecastにはどういった特徴があるか、またその内の、どの特徴が学習者のuptakeやmodified outputに関係するか、ということが研究課題に設定された。被験者は15人のネイティブのインストラクターと30人の学習者で、コミュニケーションのクラスにおける彼らの間の会話が分析された。分析の結果、recastの特徴は8種類のカテゴリーに分類された。その内で、学習者の受け取り方に曖昧さを残す、つまり誤りが指摘されたと気が付きにくいrising tone intonationやapprovalを伴ったrecastは学習者のmodified outputを引き出しにくく、その一方でsegmentedやinterrupted、そしてstressed recastはmodified outputを引き出しやすいということがわかった。後者の結果については、segmented recastは与えられるpositive inputの長さが短い点で、interrupted recastは学習者のエラーの直後にfeedbackを与える点で、学習者のmodified outputにかかる認知的な負担を小さくしているため、結果として学習者のmodified outputを引き出しやすいということが理由として提示された。

 2つ目の研究では、前述の結果を踏まえ、大学1年生41人を被験者に、saliencyが高いと考えられるsegmented recastとinterrupted recast、そして統制群としてunsalient recastの3グループを設け、それぞれ現在形の疑問文作成の正確性にどのような効果を持つかが検証された。recastの効果は事前・事後テストに加えて、事後テストから6週間後に行われたディレイドテストを通じて検証された。その結果、segmented recastとinterrupted recastの両方に事前事後の間で有意な効果が見られたが、ディレイドテストではsegmented recastのみ継続した、有意な効果が確認された。前者の結果は、saliencyの高いrecastは学習効果も高いということを示唆し、後者の結果については、文全体を再構築しoutputする機会の有無がrecastの効果の継続性に影響を与えると考えられた。

 以上が発表の概要であるが、普段何気なく行っていたfeedbackが、study 1で示されたように、様々な種類に分類され、そのそれぞれの効果に差があるということは驚きであった。特にapprovalのあるrecastについては、学習者の情意面を考慮して私は生徒に与えがちであったが、今回判明した学習効果に対する影響を考えると、それが妥当なのか考える必要があると感じた。Study 2では認知的な負荷が低く、saliencyが高いと考えられる2種類のrecastに関して実験が行われたが、2種類の間にも効果に差が出るなど興味深い結果であった。認知的負荷の重さに関しては、学習者の発達段階や英語の能力に影響されるため、今回の実験とは別の年齢や異なったレベルの被験者に対してどのような効果が生まれるのか興味を持った。発表者自身のコメントにもあった通り、これから英語の授業をコミュニカティブな方法で行うことがより一層求められる中、今回の研究は研究分野の発展だけでなく、教育現場に対しても非常に大きな示唆を持つと思われる。

[文責:根子 雄一朗]


2015年度 第4回研究会(講演)

日 時: 2015年7月25日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:Berlitz Presentation

発表者: Zachary McDonald 氏        [Manager of Instruction]

司会者: 浅利 庸子 氏       [早稲田大学教育学研究科博士課程]

【概要】

  The presentation will begin with a brief history of Berlitz and the founding of the Berlitz Method. The evolution of the Berlitz Method and how it has been adapted to the modern eikaiwa classroom will be mentioned along with the pros and cons of the method in the modern setting. I will give an overview of the training received by Berlitz Japan instructors. This includes some EFL methodologies and techniques. However, the focus will be on practical usage rather than specific methodologies. The main focus will be on the everyday challenges, training and expectations of Berlitz instructors. The main portion of time will be reserved for questions, and demonstrations of techniques used in Berlitz.

【後記】

  Zachary McDonald, a Lead Manager of Instruction for Berlitz Japan, shared with us the primary principles of the Berlitz Method which is used in all Berlitz language centers worldwide. The first half of the presentation focused on the historical background of Berlitz and Berlitz Japan. The second half of the presentation included expectations and basic teaching techniques that all Berlitz instructors have. It centered on how instructors have to be able to show customers the efficacy and the usefulness of language. One of the primary tenants of a Berlitz lesson is that goals are set interactively and buy-in is achieved with the student. Mr. McDonald demonstrated the goal-setting process, and we were given a chance to practice this. As a former Berlitz instructor myself, it took much practice before I was able to set appropriate goals for individual students for any given topic. However, goal-setting is very important because that is what makes the lessons authentic. In the end of each lesson, instructors are also required to go over the things students have learned to do in the 40-minute lessons. I felt this is much like the can-do lists we use at schools and universities. According to Mr. McDonald, “The difference between a Berlitz lesson and other Eikaiwa lessons is that Berlitz customers walk out of each 40-minute lesson with a concrete understanding of the language they learned and how it can be used in their daily needs.” After hearing Mr. McDonald’s lecture, I felt that all of the teaching techniques are backed with solid SLA theories, and this is what makes this language school useful to modern L2 learners.

[文責:浅利 庸子]


2015年度 第5回研究会(実践報告)

日 時: 2015年9月26日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:大学入試と高校英語教育について―実践報告

発表者: 井上 貴文 氏       [巣鴨中学高等学校]

司会者: 下川原 広樹 氏    [巣鴨中学高等学校]

【概要】

 巣鴨中・高等学校は中高一貫男子校です。英語の担当は中1から持ち上がりで1つの学年を受け持ち、現在は高1の英読(ReadingとListening中心)の授業と英文作(GrammarとWriting中心)の授業を担当しています。4技能の習得・コミュニケーションを意識しつつも、難関大学入試にも対応せざるを得ない状況の中で試行錯誤を繰り返しています。授業の様子、使用している教材、授業外で行っている小テストや暗誦テストについて、また学校の海外研修プログラムの取り組みについて紹介した上で、今後の中・高等学校の英語教育について話し合えればと思います。

【後記】

 「難関大学の入試に対応できる英語力」という概念があるとするならば、それがいわゆる一般的に言う「英語力」と必ずしも同じでなく、むしろ2つの概念の間に未だに大きな隔たりがあることによる現場の英語教員の苦労を生に感じることができるご発表だったと思います。井上先生がご指摘されている通り、東京大学、京都大学など、いわゆる最難関の大学の入試問題、およびそれを目指すために受験する模擬試験などには、和訳や日本語での論述問題が多く出題されています。これらの問題に対応していくためには、もちろん生徒たちに和訳や論述の練習をさせなくてはいけません。そうすると当然のごとく授業内でコミュニケーション活動やアウトプットさせる時間が少なくなり、教師主導の従来型の教授法になってしまいます。入学試験の Washback effect というやつです。

 しかし、私は最近この「和訳や論述の問題が試験で出るからその練習を授業でやらなければダメだ」という、言ってみれば「目には目を、歯には歯を」の正攻法の考え方が正しいのかどうか疑問を持っています。即ち、試験での和訳や論述の力は、何か別の言語活動を通して養えるのではないかということです。例えば、授業内で読んだ英文のトピックで、簡単なスピーチやディベートを行わせてみるのはどうでしょうか。使用言語は英語でも日本語でも構いません。活きた言葉を使わせることが和訳や論述の力に転化していかないものなのでしょうか、非常に興味があります。

 また、井上先生が「今後の検討事項」として挙げていた「生徒に対して、いかにやらせるかではなく、いかにやる気を起こさせるか」ということは、英語教員、特に大量の課題を生徒に課してしまいがちな進学校の英語教員はいつも注意しておかなければならないことだと思います。何かタスクをやらせることは基本です。しかしそのタスクが興味深く、意味のあるタスクなのだと思わせる環境づくりをするのも英語教員の仕事の1つだと私は考えます。ご紹介いただいたイギリス、イートン校サマースクール、オーストラリアでのホームステイプログラム、スカイプ英会話などは、生徒たちの動機付けのために非常に効果的な取り組みであると感じました。これらを通常のカリキュラムにうまく取り入れることで、さらなる学習効果を期待できると思います。

[文責:下川原 広樹]


2015年度 第6回研究会(講演)

日 時: 2015年10月24日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:より良い動機づけ方法とは

講演者: 杉田 麻哉 氏       [早稲田大学教育学部英語英文学科]

司会者: 安田 明弘 氏       [早稲田大学教育学研究科大学院生]

【概要】

 発表者は、現在に至るまで、学習者の自律・動機づけに関する研究を行ってきた。当該分野の最大の問題点は、多くの研究でその焦点を「学習者」におき、動機づけを行う「教員」に焦点を当てることがまれであったということである。本講演では、主に「教員」に焦点を当てて、日本とカナダの言語教育における「学習者心理要因、動機づけ」や「学習者の動機づけ方法」に関する研究結果を報告する。しかし、研究結果のすべてを一成功例としてコンテキストが違う言語教育に応用するにはいくつかの問題点があると考えられる。本講演では、さらなる言語教育の向上を図れるよう、参加者と一緒により良い動機づけ方法を考えていく。

【後記】

 今回の研究会では動機づけに関して、発表者のこれまで行ってきた研究と現在進めている研究について発表が行われた。まず、動機づけとはUmbrella Termであり、自立、執着、学習の持続性、学習への関わり、態度、といった様々な要因をどこまで含めるか、また、どのように分類するかという点は、それぞれの研究や研究者より様々である。また、動機づけに関する研究は、学習理由、コンテクストにおける動機づけ理論の妥当性(EFL,ESL等)、動機のレベル(高い/低い)、他の学習者要因や能力との関連性、と多様であり、特に近年では、教師の教授法と学生の動機の関係についての研究が盛んになりつつある。発表者の研究の焦点はその流れの中で教師側が学習者に与える影響を研究しているものである。

 まず、実践的な研究を通して、教員の行う動機づけ方法と学習者の動機づけの関係を検証した。教員と生徒に同じ15の動機づけ方略に関する質問紙を実施し、教員側はその方略の頻度を、生徒側にはそれによってどの程度やる気が出たかを5段階で評価してもらった。その結果、動機づけの方略の効果は学習者の英語力によって異なることが分かった。つまり、教師は生徒の英語力の差を意識して動機づけ方法(種類)を変える必要があることが分かった。

 別の実践的研究においては、生徒の授業外学習に関する動機について調べた研究である。研究の目的は、生徒の授業の自主的な学習は何によって動機づけられているのかを明らかにすることであった。中学生に授業外学習でやった学習内容と、その理由を答える日誌による調査を長期間行い、生徒の授業外学習への動機づけの種類と、その中長期的な変化を種類ごとに明らかにした。結果、不安感、義務感やプレッシャーといった内的動機づけの他に、教材による影響、テストによる影響、他者からの影響の3つの外的要因が明らかになった。他者からの影響の中でも、勉強法のアドバイスや褒め言葉といった特に教師からの影響が大きかった。また、中長期的なこれらの4つの要因の変化を捉えると、テストによる影響と、他者からの影響がおおよそ反比例の関係にあることが分かった。つまり、テストによる影響はテスト直前に高まり、テストが終わると急激に低くなるのに対して、他者からの影響はテスト直前に大きく下がり、テストが終わると急激に上がることが分かった。また、内的動機づけや教材による影響は、大きな変動はなく、観察しうる限りでは時間の経過やテスト等の外的要因に大きく左右されていないことが分かった。さらに、生徒の英語力を元に上位群と下位群に結果を分けてみると、上位群の方が人からの影響による変化が大きく、下位群は人からの影響を上位群ほど受けていないことが分かった。つまり、英語力の高い生徒のほうが、教師のアドバイスや褒め言葉等による影響を受けやすいということである。また、下位群の方が、テスト前ギリギリに、テストによる要因が急激に高まることも分かった。

 以上の研究を元に、発表者は実践的な研究を行っていたが、再生産性が低いことに着目し、理論に基づいた教員の動機づけ研究の一環として、現在はDeci&Ryan(1985)のSelf-Determination Theory (SDT)を用い、日本の環境において自立性を重視した動機づけ方法についての研究を行っている。その分析過程のデータに関しても紹介された。

 以上が研究会の概要になるが、今まで動機づけに関して学習者要因として触れたことはあったものの、教員側として生徒の動機づけを促すために何ができるのかといった教員にとっての実践的なつながりが持てなかった分野であったため、発表者のお話は終始非常に刺激的であった。特に、生徒の英語力によって影響力のある方略が変わってくることや、テスト前にはテストによる影響が非常に大きくなるため、教師を含めた人による要因の影響力が弱くなることなど、今まで感覚的には感じていたものが、研究データとして示されることにより納得することができた。また、研究会全体を通して、現場の教員としては、教員側として何ができるかという具体的な部分に焦点が置かれがちだが、自分の授業のゴールや目的を元に、どのような生徒になってほしいのか、どのような動機づけのされた生徒になってほしいのか、という生徒の学習能力の根本に関わる部分を考えながら、授業設計をしていくことの大切さを改めて考える機会になった。

[文責:安田 明弘]


2015年度 第7回研究会(修士論文中間報告会)

日 時: 2015年11月14日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

司会者: 小林 潤子 氏       [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]

研究発表1

発表題目:           EFL環境における日本人英語学習者への明示的音声指導の効果

発表者: 北野 功祐 氏       [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]

概要:    

 英語を第二言語(ESL)または外国語(EFL)として扱う国において、英語学習者の数は増加しており、非英語母語話者同士が英語を用いてコミュニケーションをはかる機会は増えている。大和(2009)はこれに伴い、日本の英語教育において、コミュニケーションに必要な最小限の発音技能の習得を目的とした発音指導の重要性が高まりつつあると指摘している。

 そもそも、なぜ非英語母語話者の英語発音技能に種々の問題が生じるのかという点に関しては様々な議論がなされているものの、類似した音の混同に起因する誤りについてはFlege(1995)が提唱したSpeech Learning Modelによって説明が可能である。この理論によると、第二言語の音韻体系に存在する音が、話者の母語の中には存在しないが、母語内の特定の音に似ていると認識された場合(equivalent classification)、第二言語の音は、話者の母語内の類似した音で代用される。そしてこのことが、誤った発音の原因とされている(Flege, 1995)。

 日本人英語学習者が特に発音を誤りやすい音は、先行研究によっておおよそまとめられている(津熊, 2005; 大畑, 2004; Kenworthy, 1987)。明示的音声指導は、それらの音を日本語と英語の間の違いに着目しながら指導し、話者にその違いを認識させることでequivalent classificationを解決する可能性を秘めている指導法である。

 Bradlowら(1997)や、斉藤(2011)は、明示的音声指導の効果を検証する実験をおこなった。そして彼らはいずれも、実際にそのような指導は被験者の発音技能の向上に寄与したことを証明した。しかし、先行研究の問題点として、おこなった発音指導の時間が、実際に学校教育の現場でおこない得ないほど長いものであるという点が挙げられる。

 そこで本研究は、日本人が困難としている音に関して、実際に授業内で現実的に行えるような時間の範囲内で明示的音声指導をおこない、その効果を検証することを目的としている。今回の発表は、その本実験に先立って被験者2名を用いておこなったパイロットスタディの報告である。

研究発表2

発表題目:           Effect of Communicative Language Teaching and Audio-lingual Method of Teaching on High School Students’ Grammar of English

発表者: 須能 麻衣花 氏    [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]

概要:    

  In my study, I compare effects of communicative language teaching (CLT) with those of the audio-lingual methods (ALM) in teaching English grammar. Although CLT has its advantages, it came to be criticized because it focuses on meaning and the learners who are taught by this method tend to lack accuracy. In this study I examine (1) whether learners who are taught by CLT actually get less accuracy than learners taught by ALM, and (2) whether learners in the two groups show difference in their attitude toward practical use of grammar.

  The participants were Japanese high school students divided into two groups: CLT class (n = 28) and ALM class (n = 28). They took a pre-test, then learned the same grammar points (relative pronouns and the subjunctive mood) with the same teacher and the same textbook, and finally took a post-test, which was made up of three tests: (1) A basic and easy grammar test in which leaners filled out blanks. This test aimed to check accuracy and knowledge of fundamentals of grammar. (2) An applied and more difficult grammar four-way multiple choice test. This test aimed to check accuracy, application and automatization of grammar under time pressure. (3) A free English composition. This test aimed to check accuracy and leaners’ attitude toward practical use of grammar.

  As a result, there was little difference between the two groups in the results of tests (1) and (2), but there was a notable difference in the results of test (3). In short, they showed almost the same level of accuracy and fundamental knowledge of grammar, but in the free composition the students who learned by CLT tried to use the grammar points much more than the students who underwent ALM. The data so far collected seem to suggest that CLT has an advantage over ALM in that the former helps learners to conduct communicative tasks better, if it does not particularly make their English more accurate.

研究発表3

発表題目:           The Effect of L1 Task Rehearsal on L2 Oral Monologue Production

発表者: 安田 明弘 氏       [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]

概要:   

  This presentation is intended to report on a pilot study, which is part of a project aimed at an investigation of the effect of rehearsing on the quality of a speech. Research has widely been conducted to investigate the effect of task rehearsal (or task repetition) on L2 oral production. Ellis (2009) summarized previous research on this issue and discussed the effect of three types of planning: (a) rehearsal, (b) strategic planning, and (c) within-task planning, suggesting that rehearsal has a great influence on the fluency and complexity (and to a lesser extent on the accuracy) of learners’ performance. However, few studies have examined the effect of L1 rehearsal on L2 speech production. Some studies, such as Yoshida and Yanase (2003), support the view that the use of Japanese helps learners to improve their English. The present study aims to examine the effect of L1 rehearsal as compared to that of L2 rehearsal on the quality of an L2 oral monologue speech, based on the rubrics of the TOEFL iBT independent speaking section. The researcher decided to utilize the TOEFL iBT rubrics because they involve the assessment of content quality (which is assessed in terms of topic development) of the speech besides the traditional criteria for assessing speaking (which are complexity, accuracy and fluency (CAF)). The choice of these criteria is based on the researcher’s hypothesis that the topic development in speeches (or the quality of their content) can be deepened after a preparation rehearsal in Japanese in case the speakers have enough proficiency to express their ideas in English. The participants of this pilot study are Japanese university students who are native speakers of Japanese and have various experiences of learning English. Their speeches are assessed and the relationship between the quality of the speeches and the kind of rehearsal done by the speakers is discussed.

研究発表4

発表題目:           The Effects of Top-down and Bottom-up Listening Training on Learners’ Listening Strategy Use

発表者: 根子 雄一朗 氏    [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程2年]

概要:    

  This is one of a series of studies that investigated how top-down and bottom-up approaches to listening teaching compare in terms of the effects on learners’ listening comprehension skill. In a former study, participants underwent either top-down or bottom-up training sessions, after which a comprehension test was conducted to assess the changes in listening comprehension skill. The result showed an advantage of top-down training over the bottom-up training. Moreover, it revealed that the listening comprehension skill of some learners in both of these groups declined through the training sessions. As no information about the effect of the training was available beyond the quantitative data obtained, it was not possible to identify the reason for the deterioration observed in these learners.

  Hence, the present study explored how both types of training affect learners’ listening strategy use. The participants were five university students, divided into a top-down group and a bottom-up group. All of them firstly listened to a text and did a comprehension task. Subsequently they answered a questionnaire and a 10- to15-minute interview that asked how they had tried to understand the text, what problems they had encountered, and how they had dealt with them. Following the pre-data collection phase, they each went through a 15-20 minute top-down or bottom-up training five times. After the treatment sessions, they participated in a post-data collection and underwent the same procedure as in the pre-session.

  The analysis of the data revealed that both types of training would have a possibility to impede listening comprehension. The bottom-up training, for example, might have lead the participants to concentrate on a particular word while the top-down training made the participants allocate their attention more on inference work than on the decoding of the text, which brought about a breakdown in a comprehension process. On the basis of the implications of this study, I will conclude my presentation by proposing a teaching plan that can be applied to the classroom in Japan.

【後記】

 修士1年3名は、次年度の実験に向けて、今までの研究のまとめとなる発表でした。安田さんは、パイロットスタディで、被験者は2名のみでしたが、本実験の準備となるような問題点が指摘されました。日本人学生への正しい発音指導の在り方への示唆となる研究が楽しみです。

 須能さんは、コミュニケーション活動を取り入れて、アクティヴ・ラーニングを取り入れるにあたって、どのような活動が効果的なのかを示唆してくれる研究でした。関係詞という日本人の生徒達には、難しいとされる文法事項も、活動の中で使わせることの大切さを改めて実感させてくれる研究でした。

 安田さんは、スピーチをさせるのに、英語・日本語どちらの言語でリハーサルするほうが効果的なのか、また、リハーサルの違いによって、スピーチのディスコースにどのような影響があるのかというものでした。新しい学習指導要領で「発話」を行わせる指導を考えていく必要がある中で、大変に興味がある問題です。学生が話しやすい題材なのかによって、結果に影響もありそうですが、分析をしっかりやって、よい研究に仕上げて頂きたい題材です。

 根子さんは、修士論文の完成間近で、とてもまとまった研究であったと思います。リスニングのストラテジーとして教えるtop-down, bottom-upのトレーニングが、聞き取りの妨げになる可能性があることなど、教室での指導の難しさを教えてくれています。

[文責:小林 潤子]


2015年度 第8回研究会(TALK TIME)

日 時: 2015年12月19日(土)17:15~19:30

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

テーマ:理論を補完する授業の工夫―4月からの授業を振り返りながら

話題提供者:       山口 高領 氏       [早稲田大学]

【概要】

 TALKは、その目的の1つに、「英語教育及び関連分野の理論と実践」を掲げています。理論や理念は重要ですが、実際の教育現場では、各学習者の情意やスキルを考慮して細やかなアレンジが行われていると思います。

 近年、アクティブラーニング、反転学習、協同学習が謳われています。また、それとは違う、従来型の授業を進めている方もいるかと思います。12月のTALKでは、そうしたアプローチを問わず、また、小中高大問わず、英語を教えている参加者に、ご自身の授業のごく一部をご紹介していただき、ご自身のアプローチを補完する基本的な授業の工夫をお話しいただきたいと思います。アプローチだけを知り、そのアプローチが抱える前提をどのように補完しているのかといった教育的知見を共有できればと思います。

 例えば、学習者が英語で発表することがメインな英語授業には、その前提としてある程度の英語表現が定着していることが求められますが、こうした定着の部分は、授業内外でどのような指導がなされているかといったことをお話しいただき、会員相互の、授業づくりについての学びあいを実現できればと考えております。

 なお、TALK運営で意見交換をしたところ、この12月に参加した非会員の方は、年度内の参加費を無料とすることとなりました。お知り合いでご都合のつく方をお誘いのうえ、いらしていただけると、幸いです。

【後記】

 今回のTALKでは、20名近い全ての参加者が授業内外で実施している独自の工夫についてお話をして下さいました。それらのなかには、3つの共通する特徴がございました。「キョウドウ」「ソウゾウ」そして「モチベーション」です。

1.キョウドウ

 「キョウドウ」には、「共同」「協同」「協働」という異なる漢字が当てられることがありますが、いずれも「ペアワーク」や「グループワーク」といった複数人数での作業を指します。今回は、グループでのプレゼンテーションやディベート、ペアでの英作文と英会話などの実践例が紹介されました。受動的学習から能動的学習へ転換を図る意味もあり、このような取り組みをされている方々が非常に多くいらっしゃいました。

2.ソウゾウ

 そうした「キョウドウ」学習には、「創造」と「想像」が必要不可欠です。教員が画一的な解答を求めるのではなく、学習者の個性・判断・能力・想像力を活用できるような課題が与えられます。例えば、ターゲットとなる文法項目を使用した英文を作り、それを発表する;与えられたテーマやエッセイからディベートやディスカッション、プレゼンテーションを行う;決められた場面からダイアログを作成する;ジョークやユーモアを盛り込んだ英文を作る、といった活動です。教員が解説を加える時間をなるべく短くし、学習者が英語を使う時間をできる限り長くします。その中で、「伝えたいことをうまく伝えられない悔しさ(あるいは、上手く伝えられた喜び)」や「言い換え表現の重要性」など、創造的活動ならではの体験をしてもらうことで、自ら問題を発見し、その解決を図るという、さらなる学習をも促します。

3.モチベーション

 創造的な活動には学習者の「学習意欲の向上と維持」もまた欠かせません。大小の目標を設定したり、学習習慣が自然と身に付くような構成を持つ課題を作ります。例えば、課題図書の書評を著者に送り、それを製本する;学級通信のような媒体で学習成果を発表する;外国人(もしくは日本人)教員との一対一のインタビューを実施する;音声をきっかけに文法や語彙の再学習を促す;学習者の興味関心に合った教材やテーマを使う;多読レポートを課す;ICTを利用する、といった多数の実例が紹介されました。

 これら3点は、それぞれ独立したものではなく、各々が大いに関連しています。創造的な活動のためにグループワークが必要とされ、そのような活動自体が魅力的と感じられればそれが学習者のモチベーションに繋がります。そして、そのモチベーションが学習者の創造性を刺激します。こうした好循環を作り出せるように課題を工夫していくことが重要であると思われます。

 その一方で、問題もあります。グループワークは、習熟度の低い集団では実施が難しい課題となってしまうこともありますし、グループやペアそのものを好まない学習者も存在します。創造的なタスクは、短期間では指導効率が悪くなってしまうことも考えられます。ペーパーテストのように素点での評価をしにくいこともあり得るので、公平で正当な評価方法も併せて考えておく必要があります。

 学習者のレベルや人数、興味・関心、学習内容や期間といった要因をよく考慮し、学習内容の定着、学習者の能力・思考力・コミュニケーション力の向上等を目的とした最良の指導法を開発していくことが、我々にとっても学習者自身にとっても重要であるということを、再認識しました。

[文責:新井 巧磨]


2015年度 第9回研究会

(KLA・TALKの第14回合同セッション)

日 時: 2016年2月14日(日) 14:00~17:35

場 所: 東京大学 駒場キャンパス 18号館4階 コラボレーションルーム3

特別トーク:       岡 秀夫 氏 (元FLTA会長)

松坂 ヒロシ 氏 (TALK会長)

トム・ガリー 氏 (KLA会長)

講演:    原田 哲男 氏 (TALK) [早稲田大学 教育学部 英語英文科 教授]

発表者1:           根子 雄一朗 氏 (TALK) [早稲田大学 教育学研究科 修士課程]

発表者2:           河内山 晶子 氏 (KLA) [明星大学 教育学部 教授]

【講 演 者】原田 哲男 氏

【講演題目】外国語としての英語学習は早いほうがよいのか:音声習得の観点から

【講演概要】

 公立小学校で英語活動が導入され、昨今英語の学習開始年齢が低くなってきている。理想的なインプが多量に与えられる英語圏に於ける学習開始年齢と音声習得の関係は十分に研究され (e.g., Flege & Liu, 2001; Lively et al., 1993, 1994; Logan et al, 1991)、学習開始年齢は、第二言語の音声習得で最も大切な要因の一つであるとされている (e.g., Flege, 1995, 1999)。しかし、日本の小学校のように週1時間程度の限られたインプットしか与えられない状況で音声識別能力にどのような影響を与えるかは、まだ明らかにされていない。たとえば、Larson-Hall (2008) は、日本人学習者の/l/ と/r/の識別能力の実験を行い、学習開始年齢とある程度関係 があるとしている。一方、Lin et al. (2004) は、ノイズのない状況では、学習開始年齢は音素識別能力には関係ないが、ノイズのある状況では、早期英語学習者のほうが有利だとしている。このような先行研究だけでは、外国語としての早期英語学習が音声習得にどのような影響を及ぼすかは定かではない。そこで、早期英語学習が、ノイズが含まれている様々な話者が発話した音声の識別能力にどのような影響を及ぼすのか、また英語学習の背景がどのように影響しているのかを検証した。幼児期、児童期(3歳から8歳の間)に週数時間程度、英語学習を開始した21名の大学生と、中学校から英語学習を開始した24名の大学生を比較した。日本人英語学習者にとって困難とされる/l/ と/r/を選び、6人の異なった英語母語話者が発話した[ara], [ala]の無意味語と、話し声からなるノイズを合成し(SNRs = 8 dB and 0 dB)、識別能力を測定するために聴取実験を行った。さらに、過去の英語学習背景がどのように影響するかを調べるために、学習開始時期から大学までの英語学習歴について詳細なアンケート調査を行った。次のような結果が得られた。1)ノイズや話者に関わらず、早期学習者よりも、中学校から英語学習を開始した者の方が、/l, r/との識別能力に優れていた。2)早期学習者のみで見ると、学習開始年齢よりも、学習期間の方が、識別能力を予測するには大切な要因であると判明した。とくに、早期の学習期間が4年以上になると、成人になってからの音声識別能力に効果があると思われる。3)音声識別能力が高かった中学から英語学習を開始した者は、中学校や高校での英語学習よりも、大学での英語学習の方が、音声識別能力とより密接な関係があった。具体的には、a) 英語の授業中の教師やクラスメートとの英語でのコミュニケーション量、b)授業以外での音声英語の使用量、c)一定以上の英語力が大切な要因として挙げられた。英語を外国語として早期教育を行っている他国での調査でも、学習開始年齢は大切な要因ではないという結果が報告されているのも注目に値する(Garcia Lecumberri & Gallardo 2003; Munoz2011)。小学校学習指導要領(文部科学省 2008)の外国語活動の解説では「音声面に関しては、児童の柔軟な適応力を十分生かすことが可能である」としているが、児童の柔軟な適応力とは何かを、再検討する必要があろう。

【発表者1】根子 雄一朗 氏 (TALK)

【発表題目】The Effects of Top-down and Bottom-up Training on the Listening Comprehension Skills of Japanese Learners of English

【発表概要】

  This presentation summarizes two studies that investigate how top-down and bottom-up approaches to teaching listening compare in terms of their effects on listeners’ comprehension skills. In previous studies, the impacts of top-down and bottom-up training have been examined, and both types of training have been found to be effective. However, few studies have targeted on Japanese learners of English or compared the effects of top-down and bottom-up approaches. Therefore, the first of the studies is designed to examine and compare the effects of top-down and bottom-up training on listening comprehension skills of Japanese learners of English. Participants of this study are first-year Japanese senior high school students, divided into a top-down group and a bottom-up group. Each group underwent top-down or bottom-up training for 10 to 15 minutes eight times. Before and after the intervention, a comprehension test was conducted in order to compare the effect of the methods on the participants’ listening comprehension skills.

  The results of the first study demonstrated that top-down training is more effective than bottom-up training if these types of training are conducted with the same limited amount of time. In addition, the first study also showed that both types of training may have negative effects on learners’ listening comprehension skills. However, as no information about the effect of the training was available beyond the quantitative data obtained, it was not possible to identify the reason for the deterioration observed in some learners.

  Hence, the second study attempts to explore the impacts of both types of training on listening comprehension skills from a qualitative perspective. Participants were five university students, three in a top-down group and two in a bottom-up group. All of them firstly did a listening comprehension task. Subsequently they answered a questionnaire and an interview which were intended to elicit problems that they had encountered during the comprehension task and strategies that they had employed to deal with the problems. Following the data collection phase, they each went through a 15- to 20-minute top-down or bottom-up training session five times, after which they underwent the same procedure as in the previous data collection session.

  One of the main findings provided by the analysis of the data obtained in the second study is that top-down training may facilitate listening comprehension by equipping learners with effective listening strategies, whereas top-down processing, especially regarding inferencing work, needs bottom-up skills to some degree for successful implementation. On the basis of the results given by the two studies, I would like to suggest some pedagogical implications in the end of the presentation.

【発表者2】河内山 晶子 氏 (KLA)

【発表題目】自律的学習における動機づけとメタ認知―学習者自律育成のための研究と教育実践-

【発表概要】

 発表者は「学習者が自律的な学び手として成長するのを教師はいかに支援できるか」に常に心を向けて教育と研究に取り組んでいる。本発表は、その研究概要とそれに基づく実践を述べるもので、前半では、「自律的学習モデルの構築とその展望」(河内山2012)をわかりやすく伝え、後半では、その研究の知見を活かした実践で得られた教育的示唆を述べる。

 英語学習に限らず、ほぼ全てのことにおいて言えるのが、「やる気があってもすぐに成果が上がるわけではない」ということである。やる気(動機づけ)という情動的な要素は、学習という行動(方略)に落とし込まれる必要があり、成果が上がるのは、その方略(一般に「方法」)が、本人や課題に適しておりかつ適当な量で行われた時である。このように方略の運用にあたっては、質的にも量的にも適正な判断が必要なのであり、その判断を行うのがメタ認知である。

 メタ認知は、学習の流れの中で、動機づけと方略の間に位置していると考えられ、自己観察(セルフ・モニタリング)と自己制御(セルフ・コントロール)という二つの要素を持つ。メタ認知による客観的な観察・制御により、最適な方略が選択、修正、維持されてこそ、学習行動が成り立ち成果につながっていく。また、原動力としての「動機づけ」が学びの基盤として重要であることは言うまでもない。  このような「動機づけ→メタ認知→方略→成果」という因果関係の流れを、可視化して学習モデルを構築したのが河内山(2012)である。これに依拠した指導には教科を越えた普遍性があり、様々な分野での活用が可能である。それらの実践を通して得られた知見を基に、この指導方法がさらに有効に活用され得る可能性を、ケーススタディーによる質的な分析で検証する。