2022年度 第1回研究会 【 TALK TIME】

日 時:2022年4月23日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

テーマ:「英語教育 情報交換会」
【概 要】
TALK内容:
1人当たり10−15分ぐらいで英語教育に関する「オススメ図書」について, ざっくばらんに紹介プレゼンをしていきます。発表は必須ではなく発表を聞くだけの参加だけで大歓迎です。


発表者後記
おすすめ図書:佐藤雅昭. (2013). 『流れがわかる英語プレゼンテーション』
英語プレゼンテーションへの不安を軽減させてくれる一冊。「黄金の7行ルール」など英語スライドを作る際のコツは必見です。【肥田和樹】

おすすめ図書:『小学校英語指導者のポートフォリオ』J-POSTLエレメンタリー教職課程における活用実践』 http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/J-POSTLE_KyoshokuKatsuyo.pdf 私が編集者の一人となり、科研費を使ってweb上での掲載と印刷を行いました。当日は、教職課程における小学校外国語指導法で目指す理想とその現状をごく簡単にお話しました。安田さんから「校務分掌などにも英語教師のやりがいがあるのではないか」とコメントを頂きまして、教職課程履修生にそのような視点でも折に触れる必要性を感じました。【山口 高領】

おすすめ図書:H・リン・エリクソン, レイチェル・フレンチ, ロイス・A・ラニング(2020).『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践―不確実な時代を生き抜く力』
国際バカロレアの教育手法の中核となっている「概念型学習」の理論と具体的な「概念型カリキュラム」に基づく授業計画, 単元設計や評価方法を学ぶことのできる教科書的な1冊。
教科内容を教えるとともに, 学習者の批判的, 創造的, 概念的思考力を涵養するための指針を示す1冊だと思います。【安田明弘】

おすすめ図書:David Crystal. 2017. Making Sense — The Glamorous Story of English Grammar. PROFILE BOOKS LTD.
David Crystal のsense of humor が魅力的な、読んでいて楽しい本です。英語史と(たぶんお子さんの)小さなSuzieの文法習得の経過の物語や、英国の学校での文法指導の変遷をたどりつつ、“Clarity and weight”, “Clarity and order”やsemantics, pragmatics, style等が文法と密接に魅力的に関わっていることを語ってくれています。翻訳書(下記)が『英語教育』で紹介されていて知った本です。
デイヴィッド・クリスタル著、伊藤盡・藤井香子訳『英文法には「意味」がある』大修館書店. 2020年【望月眞帆】


2022年度   第2回研究会 【 講演】

日 時:2022年5月21日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:湯舟 英一 氏(東洋大学)

テーマ:『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 L&R』と大学生向け読解ストラテジーテキストの開発

講演言語:日本語

司 会:山口 高嶺 氏(秀明大学)

【概 要】
 『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 Listening & Reading』(IIBCより2021年10月19

日発売)は、テスト開発機関のETSが本番のテスト制作と同じプロセスで作成した問題
(公式問題)を搭載し、言語習得の土台となる基礎学習スキルを動画形式で紹介したの
ち、鍵付きのレッスン構成で、<例題を解く→例題解説(動画講義)→問題演習>のラ
ーニングパスを経て、TOEIC L&Rのパートごとに基礎スキルを学びます。また、初中
級者の動機付けを促進する仕掛けとして、進捗に応じて獲得できる5種のアチーブメン
トメダル、スキマ時間用の学習コンテンツや、学習進捗を可視化できる仕組みを導入し
ています。また管理者機能でも、学習者の進捗をグラフや表で確認でき、学習を促す自
動送信メール機能を搭載しています。 発表では、この教材の中心的トレーニングであ
る「チャンク・イメージング」や「チャンク音読」の概要や学習理論背景、2021年度秋
学期に導入した授業でのTOEICスコアや読解速度の事前事後効果測定などについても触
れたいと思います。
 一方、時間に余裕があれば、今年2月に刊行した大学生向け英語読解ストラテジー教
材について簡単にご紹介できればと思います。この教材は、パラグラフレベルでの7つ
の読解ストラテジーと6つのパラグラフ構造パターンの理解に基づいて、グローバル情
報社会に関する話題の短いパッセージを読む演習を通して、「読む」スキルを中心に「
聞く」「話す」「書く」のスキルを統合的に習得することを目的とした大学生向け英語
教材です。他教材との差別化ポイントや教材開発の最近のトレンドなどについてもお話
できれば幸いです。


【司会者後記】

オンライン教材『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 Listening & Reading』のお話を通じて、緻密に設計された様々な工夫を感じました。その一つは、 問題演習に進むためには、  動画解説を視聴することが求められるというもので、まるでロールプレイングゲームをしているかのようでした。また、全文ディクテーションではなく、部分ディクテーション課題を多く実装している点にも、このオンライン教材の良さがあると感じました。言語音声からイメージ化を促し、自動化までを求めるという方針にも強く共感しました。私は、英語音声のあとにイラストや写真をふんだんにとりいれるともっとよいのではと質問をしたところ、通信回線の現状ではなかなか難しいが、5Gの時代が到来すればそうしたタスクも可能になるかもしれないとのことでした。このように、今回のお話は、オンライン教材の仕掛けを具体的に学びましたが、これは従来型の対面授業にもすぐに取り入れられるものが多いという感想を持ちました。目標を示しつつも今ある課題を攻略すれば、次のコンテンツがunlockされるということは、学習者に満足感と達成感を持たせる対面授業での配慮に通じるものがあります。全文ディクテーションは時間がかかり、学習ターゲットがぼやける可能性がありますが、部分ディクテーションであれば、効率よく授業が進みます。音声を聞かせて、その内容のイメージに近いものを選ばせるというタスクは、パワーポイントなどを使えば授業が活性化するはずです。参加者全員から意見をいただき、オンライン教材からオフライン教材・学習・指導を考えさせる貴重なTALKとなりました。
文責:山口高領


2022年度   第3回研究会 【 実践報告・研究発表 】

日 時:2022年6月25日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:赤塚 祐哉 氏(早稲田大学 本庄高等学院 ・情報教育研究所)

                    安田 明弘 氏(武蔵高等学校中学校)

テーマ:『国際バカロレア(IB)の教育諸理論を適用した英語授業実践・教材開発とその評価』

講演言語:日本語


【概 要】


発表者は国際バカロレア(IB)で採用されている教育諸理論を適用した英語授業の実施と教材開発を行い、日本の高等学校・大学における英語教育の文脈で実施した場合に想定どおり機能するかどうかを検証してきた。IBプログラムの理念には、国際的視野の育成、批判的思考の育成、創造的な思考の育成等といった複数の方略の実現のために、様々な学習理論の融合により成り立っている(成田 2020)。赤塚ら(2022)では、『逆向き設計論』(Wiggins & McTighe 2005)と『概念型学習』(Erickson 2008)、ブルームら(Bloom et al, 1956, Anderson & Krathwohl 2001により改訂)による高次思考レベルの問い、そして『多重論理』(Paul 1987)に基づく対話型の学びといった4つの学習理論が、学習者の批判的思考を駆動する可能性を示した。本発表では(1)適用した学習理論の概説、(2)学習理論を適用して作成した英語教材の紹介、そして(3)教材の効果測定として行った学習者の批判的思考の深まりに関する研究を紹介する。


【司会者後記】

 国際バカロレア(IB)に取り入れられている教育諸理論を非常に精密に紐解き、英語授業・教材開発に取り組まれてきた赤塚先生の足掛け5年以上の軌跡をお聞きしているような発表であった。特にIBの「(相手が答えをもっている)質問」でも「(教師が答えをもっている)発問」でもなく「(教師も生徒も答えを知らない)問い」を授業の中で組み込むことの重要性、それらが学習者の高次の思考(Bloom et al, 1956, Anderson & Krathwohl 2001により改訂)の発達を促すことに繋がる点は今後の教育においてとても大切な視点であると感じた。また、ただ「問い」を投げかけるのではなく、学習者の概念理解を促す『概念型学習』(Erickson 2008)、到達すべき目標から逆算して授業を組み立てる 『逆向き設計論』(Wiggins & McTighe 2005)、そして異なる意見をぶつけることで対話型の学びが生まれる 『多重論理』(Paul 1987)といった理論をもとに、教師によって意図された目的をもった「問い」を適切なタイミングで投げかける授業・教材デザインの重要性も示唆された。赤塚先生自身が、答えのない「問い」に向き合い続け、常に「リフレクティブ」に理論をもとにした授業・教材を発展させ続けているからこその発表であったと感じた。(文責 安田明弘)


2022年度   第4回研究会 【 講演 】

日 時:2022年7月9日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:松坂 ヒロシ 氏(早稲田大学・秀明大学)

テーマ:言語観と英語指導・英語教材

講演言語:日本語

司会:久保 岳夫 氏(開成学園講師)


【概 要】


英語指導が行われたり、英語教材が作成されたりする際、そうした作業の背後に教師や教材執筆者の言語観、すなわち、言語とはこういうものだ、という理解が存在し、その言語観が、教師や執筆者の知らないうちに学習者のアタマに注入される可能性があります。本発表では、発表者自身のこれまでの英語学習、英語指導、教材作成の経験の一端を述べ、言語に関するどのような考え方がその基盤にあったかを振り返ります。発表者が学習者として利用したり教師として担当したりしたNHKの英語教育番組、発表者が執筆者としてかかわった検定教科書などに言及し、一般に、さまざまの英語指導活動が実は大なり小なり教師の言語観の反映であることを例示します。


【司会者後記】

 本発表は, 2021年12月のTALK例会で発表者によってなされた「英語発音指導に関する20の主張」と題する発表の中で言及された「教師は言語観を持て」という主張における「言語観」についてさらに考察した内容の発表である。言語観,すなわち「言語とは要するにこういうものだ」という理解には,「言語はルールの体系である」といった伝統的なものから,「言語は場面と一体である」,「言語は社会的いとなみの一環である」といったものまで,実に様々なものが存在するという。どのような言語観であれ,英語教師は,知らず知らずのうちに自分の言語観を自分の教育を通して生徒の頭に注入する可能性があるため,このことの重みをわきまえていなければならない,という考えが冒頭で述べられた。本発表では,こうした言語観について多くの例が紹介され,発表者自身がどのように英語教育と関わってきたのかがよくわかる内容であり,参加者に考察の機会を与える内容であった。以下にその要旨を掲載する。
 最初に,発表者が学習者として過去に利用していたNHKの英語教育番組「テレビ英語会話初級」(田崎清忠氏担当)と「テレビ英語会話中級」(國弘正雄氏担当)に込められた言語観について触れられた。田崎氏の番組は,1つの場面には1つの表現を当てはめ,文法解説はあまりなく,substitution drillに移っていくといういわゆるオーディオリンガル・メソッドに基づいたもので,番組制作の背景には「言語は場面の中から覚えていくものである」,「言語は口を動かして習慣を作って覚えるものである」という言語観を窺い知ることができるのではないかと述べられた。また,こうした言語観は,中学生であった当時の発表者にとっても情意面で大きな安心感を与えてくれたという。
 國弘氏の番組では,しばしば英語表現に美しい日本語訳がつけられ,「言葉の理解のベースは母語である」という言語観があったのではないかということが述べられた。また,同番組では,諸分野の専門家をゲストスピーカーとして招いたインタビューコーナーがあり,現在のESP(English for Specific [Special] Purposes)教育を思わせる内容であったことが述べられた。このことから,同氏が担当した番組は「あらゆることばは何かの分野のことばである」という言語観に基づいて制作されていたのではないかとの考察がなされた。
 次に,発表者が携わったNHKの英語教育番組「ラジオ英語会話」(1976-1978年度: 月〜木:東後勝明氏担当;金・土:松坂ヒロシ氏担当)と「テレビ英語会話Ⅱ」(1985年度:松坂ヒロシ氏担当)に込められた言語観についての話があった。東後氏の番組は,イントネーションのディスコース上の役割に焦点を当てており,明示的な音声指導を表に出したという意味では画期的な番組であったということが述べられた。番組は「言語の本質は音声である」という東後氏の言語観に基づいて制作されていたのではないかという考察がなされた。
 また,発表者が1985年度に担当した「テレビ英語会話Ⅱ」では,英語インタビューの完全なtranscriptがテキストに載せられており,「言語の実態(=原稿のない状態で話された言い淀みなどを含むことば)を学ばない限り,言語学習は完結しない」という言語観に基づいて制作されていることが紹介された。関連して,不完全な言語形式を修正する能力の重要性についても述べられた。
 次に,同じく発表者が担当したNHKラジオ「英語リスニング入門」(2002-2004年度)では,番組のスキットの読み上げの録音を吹き込み担当者に自由に自然なスピードで話すよう指示し,くずれた音を含む「音声の実態」に焦点が当てられていたということが述べられた。この番組の制作背景には,「オーラルコミュニケーションにおいてやり取りされるのは,そもそも崩れた音である(くずれていない音など存在しない)」という発表者自身の言語観が存在していることが述べられた。
 さらに,発表者が2015年に担当したNHKの発音指導中心のテレビ番組「ニュースで英会話プラス」についての話がなされた。この番組の制作は,学問的な発音の精密な分析と教える際の明示的指導は分けて考える必要がある,という考えに基づいており,「ことばの発音は順序立てて示せば明示的に教えることができる」という発表者の言語観が込められていることが紹介された。
 次に,発表者が執筆に携わった英作文の文科省検定教科書『CROWN』(1989年)には,多くの暗唱用の文章(e.g.「ししおどし」についての英文)が提示されていたことが述べられた。クリエイティブに英語を使う場合でも,すでに覚えている英語を使ったり応用したりすることが多く,執筆背景には「作文力は暗唱によって身につけるべきである」という言語観が込められているという話が紹介された。
 次に,発表者が取り組んできたディベート教育に込められた言語観についての話があった。発表者は,ディベートの指導において,主張の背後に隠れている前提をトゥールミン・モデルに基づいて崩していく批判的思考訓練を学生に課していた,という話が紹介された。こうした指導の背景には,「議論力が不十分な者は言語力も不十分である」という発表者の言語観が込められており,議論ができる英語学習者を育てていく重要性についても述べられた。
 最後に,英語「指導」ではなく,英語「学習」に関する考察も述べられた。非英語母語話者である英語学習者は,言いたい内容(アナログ世界の存在)を有限の数の表現の可能性から選んだ項目(デジタルな世界の存在)に当てはめながら表現していかなければならず,その選択肢は母語話者に比べてはるかに少ない。よって,言いたい表現を習得していくためには,類義語辞典などを使い,複数の表現を参照するような努力をしないと,コミュニケーションで最適な表現を探していくことはできない,ということが述べられた。
 さらに,上記の話と関連し,英語学習の「上級者」に関するコメントが付け加えられた。日本の英語教育においては,初級・中級の指導と異なり,上級者への教育があまり充実していないが,帰国生をはじめとする上級者を扱う場面に立つこともあるので,こうした上級者に教える準備をしておく必要がある,という考えが述べられた。
 本発表は,教師が英語を教える際に,知らず知らずに学習者にすり込んでしまっていると思われる「言語観」に関して,参加者に様々な観点から考察を促す大変示唆に富んだものであった。発表後には,何名かの参加者からの質疑がなされ,有意義な意見交換がなされていたように感じる。なお,発表者から「板書において,國弘正雄先生のお名前の漢字が間違っていました。また,第二強勢への言及の際のuniversityの第一強勢をズレた位置に置いてしまいました。以上2点,お詫びして訂正いたします。」とのメッセージが後日寄せられた。(文責:久保 岳夫)

参考文献:

  1. Chapman, R. L. (1977). Roget’s International Thesaurus, 4th ed. Thomas Y. Crowell
    Company.
  2. Gove, P. B. (Ed.). (1973). Webster’s New Dictionary of Synonyms.
    Merriam-Webster.
  3. Rodale, J. I. (1978). The Synonym Finder. Warner Books.
  4. Stein, J., and Flexner, S. B. (Ed.). (1984). Random House College Thesaurus.
    Random House.
  5. 大野晋、浜西正人. (1985). 『類語国語辞典』角川書店. 

2022年度 夏合宿

日時:8月23日(火) 14:00-17:00

発表スケジュール

14:00-14:50 久保 岳夫 氏

本発表では,発表者が現在勤務している中学高等学校で実践している,英語落語動画を利用した「正確に聞き取る活動」に重点を置いた授業実践の一部を紹介しました。英語落語がどういったものかという説明から始まり,教材に設定された場面に関する記憶や語彙・語法・文法の知識を手掛かりにした「英文を正確に聞き取る活動」の一連の流れを紹介しました。英語落語を授業で扱うメリットは高いと考えていますので,同様の授業実践を共有できる先生方が増えていってくれたらうれしく思います。

15:00-15:50 浅利 庸子 氏

現在私は,慣用句や定型的言語表現(formulaic sequence)の習得及び使用がどのように英語非母語話者(NNS)の流暢さに関係しているかについて調べています。本発表では,NNSのlexical phrasesの使用頻度と種類について報告しました。Lexical phrasesはFSの種類ですが,その定義は少し曖昧であるため,夏合宿の参加者には今後,lexical phrasesをどのように定義すべきかなどについて相談させていただきました。いただいたコメントは今後の研究に活かしたいと思います。

16:00-16:50 安田 明弘 氏

本発表では,参加者の皆さまに事前に「学習スタイル診断(Self-Portrait)」を実施して頂き,発表では学習スタイル認定コーチである発表者が,学習スタイルの5つの項目について簡単に説明をし,それぞれの項目について参加者の皆さまの実感や感想をお聞きしました。その後,英語学習における本診断の利用方法や,本診断を英語教育研究にどのように発展させられるかという切り口で参加者の皆さまからざっくばらんな意見を頂いくことができ,とても貴重な機会となりました。


2022年度   第5回研究会 【 講演 】

日 時:2022年9月10日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:林 剛司 氏(横浜商科大学)

テーマ:英語教師にとっての「多読」

講演言語:日本語

司会:久保 岳夫 氏(開成学園講師)


【概 要】


英語学習において「多読」の必要性を否定する教師や学習者はいないでしょう。言語の習得には大量のインプットが不可欠だからです。しかし、その方法や効果については意見が分かれるところです。教師として多読授業を行う場合には、教授法以前に、まずは教師自身が多読を充分に行い「楽しむ」必要がある、と発表者は考えています。多読を(主に高専や大学での)授業で導入したり、Asahi Weekly紙上において多読図書を紹介・解説したり(2015年~現在に至る)、自分自身の英語学習の一環として多読を実践してきた経験から、多読の重要性、効果、そして(これこそが本発表の要になるかもしれませんが)多読の「魅力」についてお話しします。また、時間が許す限り、学習者や英語教育関係者、連載記事の読者等から寄せられる質問(例「GRとLRの違いは?」「オススメの(人気がある)多読図書とその特徴は?」「辞書や文法訳読は時代遅れか?」「音声面について」…)と発表者の回答も紹介したいと考えています。そこから、発表者の(主に多読を通じての)ささやかな言語観にまで話を発展させることができれば幸いです。


【司会者後記】

 本講演では,英語学習における多読(extensive reading)の重要性について,講演者自身の英語教員としての経験,英語多読に関する書籍を出版した経験,そして多くの英書に触れてきた経験を通して,具体的な内容の発表であった。
 まず,講演者が高等専門学校で英語を教えていたときに,90分の授業のうち15分を多読活動にあてていたという授業実践の紹介がなされた。多読の授業を実践するためには,図書館の協力が不可欠であることも述べられた。
 次に,講演者が2015年から日本の英字紙で連載しているコラムや現在まで出版されている英語多読関連書籍の紹介があった。英語多読に関して潜在的に興味のある一般の読者が多いことが窺える内容であった。
 続いて, retold版の英書には,Leveled Readers (LR)とGraded Readers (GR)の2種類があるという話がなされた。LRとは英語を母語とする児童向けの絵本を指し,GRとは(英語が母語でない)英語学習者用の段階別の読み物を指すということが説明された。LR,GR共に,異なった出版社から出版されている具体的な図書(e.g. Oxford Reading Tree, Longman Literacy Land Story Street, Oxford Bookworms, Oxford Dominoes)の紹介がなされ,それぞれの特徴が紹介された。GRについては,出版社別のそれぞれのシリーズにおける語注についての特徴の紹介・比較がなされ,語注の利用についてrewriteを担当している著者の中では「語注はできれば使用してほしくない」といった意見があることも紹介された。
 次に,retold版の作品をいくつか例に取り,どのような表現が使われ,どういった配慮がなされて執筆されているかという話がなされた。学生に,原文で使われている表現とretold版で使われている表現の違いなどに着目させて英語表現について深く考察させる授業実践なども紹介された。
 最後に,近年文学作品が英語教育の現場で以前よりも遠ざけられている実情について言及され,「言語の真髄(genius, essence)を感じさせるものというのは,やはり文学にある」という國弘正雄氏の言葉が紹介され,retold版であっても,文学は教育現場で利用する価値が高いということが述べられた。また,すでに日本語で読んだことのある作品の英訳作品を読むことで定型表現(formulaic expressions)にも注目することができ,効果的な語彙の学習にもつながる,ということが述べられた。英語多読は読者の自発性が重要なため,教育現場で強制的に図書を読ませるような活動には限界があることについても言及され,この点に関しては誤解がないよう多読を推進する必要があるという慎重な意見も示された。
 本講演は,講演者自身の英語の書籍を読むことに対する情熱や,多読を意識して出版されたLRやGRの魅力について多くのことが伝わってくる内容の講演であった。本講演を通して,参加者は,英語多読に関して多くの示唆が得られたのではないかと感じる。(文責:久保 岳夫)


2022年度   第6回研究会 【 講演 】

日 時:2022年11月12日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催
   
発表者:片居木純太(栄光学園中学高等学校)

テーマ:符号付きメタ言語フィードバックを取り入れた高校での自由英作文指導: 理論と実践とその両立

講演言語:日本語

【概 要】

英作文指導の際、訂正フィードバックの与え方は多忙な教師を悩まします。本発表では、学習者および教師の両者に優しい訂正フィードバックとして「符号付きメタ言語フィードバック」をご紹介します。このフィードバック手法を取り入れつつ、「プロセスライティング」と「フォーカスオンフォーム」の考えを基にした私の授業計画と実際の授業実践をご紹介します。また、同フィードバックが学習者のメタ言語能力(明示的知識)と自由英作文の正確性(暗示的知識)に与える影響と、これら2変数間に存在する因果関係を調査した私の研究(「符号付きメタ言語フィードバックが高校生のメタ言語能力と自由英作文の正確性に与える影響」『第33回英検研究助成』)についてもご報告します。統制群を作らずに効果検証をする上で、私の教室環境と相性の良かった分析手法である「潜在曲線モデル」についても簡単にお話しします。英作文指導、第二言語習得、実践と研究の両立について一緒に考える機会となれば幸いです。

(ご参考)EIKEN BULLETIN vol.33 2021
https://www.eiken.or.jp/center_for_research/list_1X/33/


2022年度   第7回研究会 【 講演 】

日 時:2022年12月10日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:木村 大輔(早稲田大学)

テーマ:Polysemy of the “E” : Perspectives from ELT, ELF, and Science Communication

司会者:肥田 和樹(早稲田大学)

講演言語:英語

【概 要】

In this talk, I explore the diverse conceptualizations of the “E” in ELT, drawing from my own previous research on English-medium study abroad in Thailand (Kimura, 2019), English as a lingua franca communication (Kimura, 2020, 2021), and interactions in microbiology research meetings (Kimura & Canagarajah, 2020). While the E obviously stands for English, learners, teachers, and other stakeholders orient to it in quite variable, and at times, conflicting manners. The term English today represents various images and values associated with domains such as Anglophone countries, British and American literature, entertainment, intercultural communication, and academic research. Conceivably, this “polysemy” of the E bears critical implications for ELT since misaligned orientations can give rise to tensions that may hinder learning/teaching. As such, the questions of “what is English” and “why we learn, teach, and research English?” are of heightened importance for us in the ELT profession. To facilitate discussions about this important issue, I present synopses of my previous studies and first-hand experiences as an English learner, teacher, and researcher to highlight the tensions between different conceptualizations of the E. It is hoped that this presentation will serve as a springboard for continued reflections in pursuing improved alignment of orientations among the stakeholders involved and in helping learners become globally competent users of English who can communicate their ideas effectively to diverse audiences.

Works cited

Kimura, D. (2019). “Seriously, I came here to study English”: A narrative case study of a Japanese exchange student in Thailand. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 4(1), 70-95.

Kimura, D. (2020). Enacting and expanding multilingual repertoires in a peer language tutorial: Routinized sequences as a vehicle for learning. Journal of Pragmatics, 169, 13-25.

Kimura, D. (2021). Cooperative accomplishment of multilingual language tutorial: An intercultural pragmatics study. The Modern Language Journal, 105(3), 655-678.

Kimura, D. & Canagarajah, S. (2020). Embodied semiotic resources in Research Group Meetings: How language competence is framed. Journal of Sociolinguistics, 24(5), 634-655.


【司会者後記】

 ご講演者の実体験や研究を通して、English language teaching (ELT)における“E”とは何を意味するのか、について改めて考える素晴らしい機会となりました。講演では、①タイへ留学した日本人大学生について②ご自身と論文査読者とのやりとりについて③英語使用環境における空間レパートリーの役割について話されました。
私は特に、タイへの日本人留学生のお話しを聞いて、“E”に対する接し方について改めて考えることができました。その学生はネイティブの英語への憧れを抱いており、英語を“英語を話す”コミュニティの言語と捉えていたそうです。“英語”といっても皆が同じ意味、イメージを共有しているとは限らないため、“英語”に対する認識のずれが、学習に深刻な障害を引き起こす可能性があることについて述べられました。
教員として学生に“英語”を教えるときに、どのように“英語”捉え、どのような“英語”を教えるのか、また学生はどのような認識を抱いているのか。“英語”指導は教員だけが行うものでななく学生との協働作業であることを、再認識するとともに、英語学習者として、今後どのような“英語”と、どのように、接していくのか、改めて考える素晴らしい機会となりました。(文責:肥田 和樹)

KLA/TALK 第 21 回合同セッション
日時:2023 年 3 月 4 日(土)14:00 –17:10 (終了後懇親会)
会場:オンラインZOOM開催

タイムテーブル:
14:00 開会の辞
松坂ヒロシ氏(TALK 会長)

14:15-15:00  研究発表
発表者:久保岳夫(TALK 会員)
テーマ:AI 技術がもたらす外国語教育実践への影響の考察:実践例の紹介と教員の反応
発表言語:日本語

【概 要】
AI技術を駆使したサービスが注目を集めている。2022年末に登場したOpenAI社の対話型AIのChatGPTをはじめ,ユーザーの質問に対して検索結果を要約して示すPerplexity,テキストを任意の声や感情で音声に変換できるElevenLabs社のPrime Voiceなどの登場によって今後の教育実践方法が大きく変わるのではないかと,期待や不安がささやかれている。本発表では,こうしたAI技術が教育実践へ及ぼしうる影響について,具体例を参照しながら考察し,現段階での学校教員等の反応についてまとめる。

まず最初に,現在公開されているいくつかのAI技術を利用すると,どのようなことが可能であるのかを概観し, AIが得意なことと苦手なことについて事例を見ていく。また,発表者自身がAI技術を用いて作成した教材やインターネット等で公開されている実践(案)の例を紹介し,現在のAI技術を教育に応用して得られる利便性について考察する。次に,現在世間で最も話題になっていると思われるChatGPTに対する教員の認知度と反応を概観し,その異なった反応にどのような意味が込められているのかを考察する。

最後に,AI技術が教材作成に与えうる影響について,「創造性」という観点を考察する。外国語教員の多くは,テキストに掲載された文章など既存の言語材料を利用して補助教材(配布物など),小テスト,定期考査などを作成することが一般的であることを考えると,教材等の作成は「材料探し」から「加工」という手順を踏むのが一般的であると言える。AI技術を利用すれば,今後はこの教材の「材料探しの幅」と「加工の幅」が大きく広がり,書き下ろし教材作成のような,より創造的作業にまで時間を割り当てることのできる教員が増えてくるのではないかと考えられる。こうした創造的な教育作業に従事する際の注意点についても検討する。AI技術は今後,教員の優秀なアシスタントとなり,教育の質を向上させる可能性がある。


15:15~17:00  パネル・ディスカッション
テーマ:博士論文:2021 秋以降に学位を取得された 4 人が語り合う「博論完成への道のり」
【パネリスト】
山村公恵 (KLA 会員)
戸田博之 (KLA 会員)
黒川智史 (KLA 会員)
深田芳史 (KLA 会員)
【司会】
河内山晶子(KLA 会員)
KLA のガリー先生は、本年度 3 月に東京大学をご退官ですが、この 2 年あまりの間にガリーゼミから 4 人の方々が、博士号の取得を達成されました。その長い道のりを語り合い共有することが、現在あるいはこれから博士論文に挑戦しようという方々にとっての有益な糧になればとの趣旨で、パネル・ディスカッションを開催いたします。

このパネル・ディスカッションの趣旨は、博論執筆過程での奮闘ぶり、すなわち、「各パネリストが執筆中に遭遇した様々な問題を、どのようにのり越えて博論完成に至ったのか」を浮き彫りにすることです。その理解を深めるためには、各研究についての概要を知っておくほうがよいと思われますので、まず初めに、お一人 5 分程度で、ご自分の研究を簡潔に説明していただき、その後、司会者からの質問をもとに議論を展開していきます。 Q&A タイムはフロアからの活発なご発言をお待ちしております。

各パネリストの博士論文題目は以下の通りです。
博士論文題目(提出順)
山村公恵(2021.9)
Alloplastic amalgamation of linguistic occurrences: A non-anthropocentric
qualitative study at a science resource center(言語現象の異種形成性に関する考察:科学実験支援施設における非人間中心主義的アプローチを用いた質的研究)

戸田博之(2022.1)
国際ビジネスにおける実効的コミュニケーションを成立させる能力モデルの構築 ―効果的で適切な英文ビジネス E メールライティングに注目して―

黒川智史(2023.1)
大学入試における「英語で話すこと」の考察―英語民間試験導入経緯を中心に―

深田芳史(2023.1)
International Students’ Co-construction of TL-mediated Socializing
Opportunities in Their Affinity Spaces: A Longitudinal Situated Qualitative Study(親和空間における留学生の目標言語を介した社会的やり取り機会の相互構築:縦断的状況証拠に基づく質的研究)

17:05 閉会の辞
トム・ガリー氏(KLA 会長)

17:10-
懇親会


2022年度   第8回研究会 【講演】

日 時:2023年3月25日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:斎藤 裕紀恵 氏(中央大学国際情報学部准教授)

テーマ:EdTechを使ったリスニングとスピーキング指導と学習:自律した学習者の育成のためのEdTech活用とChatGPTの活用の可能性

講演言語:日本語

司 会:小林 潤子 氏(駒澤大学(非常勤講師))

【概 要】
大学入試へのスピーキングを含む英語4技能入試の導入に関しては頓挫したが、加速する情報化社会で英語をコミュニケーションツールとして学ぶ必要性、また4技能を学ぶ必要性は変わっていない。またCovid-19禍、英語の授業を提供し続けるためにもICTの活用が不可欠であることが明確になった。英語4技能学習を効果的に進めるためにも積極的なEdTech(Education×Technology)の活用が期待される。本発表では英語のリスニングとスピーキングの背景にある第2言語習得理論、理論と関連付けながらリスニング力とスピーキング力向上のために利用できるEdTechサービスやツールを紹介する。

教室内で週に一度だけ英語を学ぶだけでは、英語学習としては十分ではない。また日本は英語を外国として学ぶEFL環境であるが、EFL環境では日常的に英語に触れることができる機会は限られている。しかしながら、TED talkを毎日聞く、オンライン英会話で毎日英語を話すことによって、EFL環境でも英語に日常的に触れることが可能となる。その点からもEFL環境で英語に頻繁に触れるためにもEdTechを効果的に使用することが期待されている。また学生が自宅でもEdTechを使って自分で英語学習をすることができれば、学習者の自律性にも繋がる可能性がある。本発表ではEdTechを使った学習を通しての自律した学習者の育成についても提案する。最後にOpen AIが提供する生成AIの技術を使用したChatGPTの教育への利用が議論となっているが、自律した英語学習の育成のために、どのようにChatGPTがリスニングとスピーキング指導と学習に利用できるかについて検討する。

【講演者紹介】
斎藤裕紀恵略歴:中央大学国際情報学部准教授。コロンビア大学ティーチャーズカレッジで修士号(英語教授法)、テンプル大学で博士号(応用言語学)を取得。言語教育政策や第二言語習得理論、語用論、CEFRの日本の英語教育への応用、EdTech(Education & Technology)を研究テーマとしている。最近では特にVR(Virtual Reality)を使用した英語学習の可能性に関する研究を進めているVR英語教育・学習プラットフォームImmerse社のStrategic Advisor(戦略アドバイザー)を務め、Facebook(現Meta)社の「XRプログラム・研究基金」から研究支援を受けている。

【司会者後記】
 今回の斎藤先生のご講演は、EdTech(学習用のアプリケーションなどを用いた教育)を使用することによって自律した学習者を育成すること、とChatGPTの活用の可能性という内容でした。
 松坂先生が、「教師は多くの引き出しを持つべきである。」そして、これからは、活用できるアプリやサイトを提示できる「引き出し」が必要ではないかと述べていらっしゃいました。斎藤先生が新しいアプリケーションを提示くださるたびにまさに「新しい引き出し」が開く感覚でした。
 また今教育界でも話題となっているChatGPTの活用については、その機能を積極的に利用してリスニングやスピーキングの教材に活用する方法をご紹介頂きました。また、自律した学習者育成のためのEDTECH活用のステップもお話頂きました。
ご紹介頂いたものをあげておきますので参考になさってください。

発音・リスニング:
・British Council Phonetic Chart  
・Pronuncian.com
・Language Reactorの映画サイトやYouTubeなどの活用
・CNN10
・English Listening Lesson Library Online (ELLLO)
リスニングの総合学習:
・Randall’s ESL Cyber Listening Lab
・Voki, Lyricstraining (歌の聞き取り)
スピーキング:
・ELSA Speak
・AI Speakersの活用
・Hollo Talk(他言語話者とつながる)
・Mondly VR(Virtual Reality)
・インターアクション仮説に基づいたEdTechを使ったスピーキング学習

(文責:小林 潤子)