2022年度 第1回研究会 【 TALK TIME】

日 時:2022年4月23日(土) 17:15 – 19:00
会 場:オンラインZOOM開催      

テーマ:「英語教育 情報交換会」
【概 要】
TALK内容:
1人当たり10−15分ぐらいで英語教育に関する「オススメ図書」について, ざっくばらんに紹介プレゼンをしていきます。発表は必須ではなく発表を聞くだけの参加だけで大歓迎です。


発表者後記
おすすめ図書:佐藤雅昭. (2013). 『流れがわかる英語プレゼンテーション』
英語プレゼンテーションへの不安を軽減させてくれる一冊。「黄金の7行ルール」など英語スライドを作る際のコツは必見です。【肥田和樹】

おすすめ図書:『小学校英語指導者のポートフォリオ』J-POSTLエレメンタリー教職課程における活用実践』 http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/J-POSTLE_KyoshokuKatsuyo.pdf 私が編集者の一人となり、科研費を使ってweb上での掲載と印刷を行いました。当日は、教職課程における小学校外国語指導法で目指す理想とその現状をごく簡単にお話しました。安田さんから「校務分掌などにも英語教師のやりがいがあるのではないか」とコメントを頂きまして、教職課程履修生にそのような視点でも折に触れる必要性を感じました。【山口 高領】

おすすめ図書:H・リン・エリクソン, レイチェル・フレンチ, ロイス・A・ラニング(2020).『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践―不確実な時代を生き抜く力』
国際バカロレアの教育手法の中核となっている「概念型学習」の理論と具体的な「概念型カリキュラム」に基づく授業計画, 単元設計や評価方法を学ぶことのできる教科書的な1冊。
教科内容を教えるとともに, 学習者の批判的, 創造的, 概念的思考力を涵養するための指針を示す1冊だと思います。【安田明弘】

おすすめ図書:David Crystal. 2017. Making Sense — The Glamorous Story of English Grammar. PROFILE BOOKS LTD.
David Crystal のsense of humor が魅力的な、読んでいて楽しい本です。英語史と(たぶんお子さんの)小さなSuzieの文法習得の経過の物語や、英国の学校での文法指導の変遷をたどりつつ、”Clarity and weight”, “Clarity and order”やsemantics, pragmatics, style等が文法と密接に魅力的に関わっていることを語ってくれています。翻訳書(下記)が『英語教育』で紹介されていて知った本です。
デイヴィッド・クリスタル著、伊藤盡・藤井香子訳『英文法には「意味」がある』大修館書店. 2020年【望月眞帆】


2022年度   第2回研究会 【 講演】

日 時:2022年5月21日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:湯舟 英一 氏(東洋大学)

テーマ:『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 L&R』と大学生向け読解ストラテジーテキストの開発

講演言語:日本語

司 会:山口 高嶺 氏(秀明大学)

【概 要】
 『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 Listening & Reading』(IIBCより2021年10月19

日発売)は、テスト開発機関のETSが本番のテスト制作と同じプロセスで作成した問題
(公式問題)を搭載し、言語習得の土台となる基礎学習スキルを動画形式で紹介したの
ち、鍵付きのレッスン構成で、<例題を解く→例題解説(動画講義)→問題演習>のラ
ーニングパスを経て、TOEIC L&Rのパートごとに基礎スキルを学びます。また、初中
級者の動機付けを促進する仕掛けとして、進捗に応じて獲得できる5種のアチーブメン
トメダル、スキマ時間用の学習コンテンツや、学習進捗を可視化できる仕組みを導入し
ています。また管理者機能でも、学習者の進捗をグラフや表で確認でき、学習を促す自
動送信メール機能を搭載しています。 発表では、この教材の中心的トレーニングであ
る「チャンク・イメージング」や「チャンク音読」の概要や学習理論背景、2021年度秋
学期に導入した授業でのTOEICスコアや読解速度の事前事後効果測定などについても触
れたいと思います。
 一方、時間に余裕があれば、今年2月に刊行した大学生向け英語読解ストラテジー教
材について簡単にご紹介できればと思います。この教材は、パラグラフレベルでの7つ
の読解ストラテジーと6つのパラグラフ構造パターンの理解に基づいて、グローバル情
報社会に関する話題の短いパッセージを読む演習を通して、「読む」スキルを中心に「
聞く」「話す」「書く」のスキルを統合的に習得することを目的とした大学生向け英語
教材です。他教材との差別化ポイントや教材開発の最近のトレンドなどについてもお話
できれば幸いです。


【司会者後記】

オンライン教材『TOEIC 公式eラーニング 基礎編 Listening & Reading』のお話を通じて、緻密に設計された様々な工夫を感じました。その一つは、 問題演習に進むためには、  動画解説を視聴することが求められるというもので、まるでロールプレイングゲームをしているかのようでした。また、全文ディクテーションではなく、部分ディクテーション課題を多く実装している点にも、このオンライン教材の良さがあると感じました。言語音声からイメージ化を促し、自動化までを求めるという方針にも強く共感しました。私は、英語音声のあとにイラストや写真をふんだんにとりいれるともっとよいのではと質問をしたところ、通信回線の現状ではなかなか難しいが、5Gの時代が到来すればそうしたタスクも可能になるかもしれないとのことでした。このように、今回のお話は、オンライン教材の仕掛けを具体的に学びましたが、これは従来型の対面授業にもすぐに取り入れられるものが多いという感想を持ちました。目標を示しつつも今ある課題を攻略すれば、次のコンテンツがunlockされるということは、学習者に満足感と達成感を持たせる対面授業での配慮に通じるものがあります。全文ディクテーションは時間がかかり、学習ターゲットがぼやける可能性がありますが、部分ディクテーションであれば、効率よく授業が進みます。音声を聞かせて、その内容のイメージに近いものを選ばせるというタスクは、パワーポイントなどを使えば授業が活性化するはずです。参加者全員から意見をいただき、オンライン教材からオフライン教材・学習・指導を考えさせる貴重なTALKとなりました。
文責:山口高領


2022年度   第3回研究会 【 実践報告・研究発表 】

日 時:2022年6月25日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:赤塚 祐哉 氏(早稲田大学 本庄高等学院 ・情報教育研究所)

                    安田 明弘 氏(武蔵高等学校中学校)

テーマ:『国際バカロレア(IB)の教育諸理論を適用した英語授業実践・教材開発とその評価』

講演言語:日本語


【概 要】


発表者は国際バカロレア(IB)で採用されている教育諸理論を適用した英語授業の実施と教材開発を行い、日本の高等学校・大学における英語教育の文脈で実施した場合に想定どおり機能するかどうかを検証してきた。IBプログラムの理念には、国際的視野の育成、批判的思考の育成、創造的な思考の育成等といった複数の方略の実現のために、様々な学習理論の融合により成り立っている(成田 2020)。赤塚ら(2022)では、『逆向き設計論』(Wiggins & McTighe 2005)と『概念型学習』(Erickson 2008)、ブルームら(Bloom et al, 1956, Anderson & Krathwohl 2001により改訂)による高次思考レベルの問い、そして『多重論理』(Paul 1987)に基づく対話型の学びといった4つの学習理論が、学習者の批判的思考を駆動する可能性を示した。本発表では(1)適用した学習理論の概説、(2)学習理論を適用して作成した英語教材の紹介、そして(3)教材の効果測定として行った学習者の批判的思考の深まりに関する研究を紹介する。


【司会者後記】

国際バカロレア(IB)に取り入れられている教育諸理論を非常に精密に紐解き, 英語授業・教材開発に取り組まれてきた赤塚先生の足掛け5年以上の軌跡をお聞きしているような発表であった。特にIBの「(相手が答えをもっている)質問」でも「(教師が答えをもっている)発問」でもなく「(教師も生徒も答えを知らない)問い」を授業の中で組み込むことの重要性, それらが学習者の高次の思考(Bloom et al, 1956, Anderson & Krathwohl 2001により改訂)の発達を促すことに繋がる点は今後の教育においてとても大切な視点であると感じた。また, ただ「問い」を投げかけるのではなく, 学習者の概念理解を促す『概念型学習』(Erickson 2008), 到達すべき目標から逆算して授業を組み立てる 『逆向き設計論』(Wiggins & McTighe 2005), そして異なる意見をぶつけることで対話型の学びが生まれる 『多重論理』(Paul 1987)といった理論をもとに, 教師によって意図された目的をもった「問い」を適切なタイミングで投げかける授業・教材デザインの重要性も示唆された。赤塚先生自身が, 答えのない「問い」に向き合い続け, 常に「リフレクティブ」に理論をもとにした授業・教材を発展させ続けているからこその発表であったと感じた。(文責 安田明弘)


2022年度   第4回研究会 【 講演 】

日 時:2022年7月9日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:松坂 ヒロシ 氏(早稲田大学・秀明大学)

テーマ:言語観と英語指導・英語教材

講演言語:日本語

司会:久保 岳夫 氏(開成学園講師)


【概 要】


英語指導が行われたり、英語教材が作成されたりする際、そうした作業の背後に教師や教材執筆者の言語観、すなわち、言語とはこういうものだ、という理解が存在し、その言語観が、教師や執筆者の知らないうちに学習者のアタマに注入される可能性があります。本発表では、発表者自身のこれまでの英語学習、英語指導、教材作成の経験の一端を述べ、言語に関するどのような考え方がその基盤にあったかを振り返ります。発表者が学習者として利用したり教師として担当したりしたNHKの英語教育番組、発表者が執筆者としてかかわった検定教科書などに言及し、一般に、さまざまの英語指導活動が実は大なり小なり教師の言語観の反映であることを例示します。


【司会者後記】

 本発表は, 2021年12月のTALK例会で発表者によってなされた「英語発音指導に関する20の主張」と題する発表の中で言及された「教師は言語観を持て」という主張における「言語観」についてさらに考察した内容の発表である。言語観,すなわち「言語とは要するにこういうものだ」という理解には,「言語はルールの体系である」といった伝統的なものから,「言語は場面と一体である」,「言語は社会的いとなみの一環である」といったものまで,実に様々なものが存在するという。どのような言語観であれ,英語教師は,知らず知らずのうちに自分の言語観を自分の教育を通して生徒の頭に注入する可能性があるため,このことの重みをわきまえていなければならない,という考えが冒頭で述べられた。本発表では,こうした言語観について多くの例が紹介され,発表者自身がどのように英語教育と関わってきたのかがよくわかる内容であり,参加者に考察の機会を与える内容であった。以下にその要旨を掲載する。
 最初に,発表者が学習者として過去に利用していたNHKの英語教育番組「テレビ英語会話初級」(田崎清忠氏担当)と「テレビ英語会話中級」(國弘正雄氏担当)に込められた言語観について触れられた。田崎氏の番組は,1つの場面には1つの表現を当てはめ,文法解説はあまりなく,substitution drillに移っていくといういわゆるオーディオリンガル・メソッドに基づいたもので,番組制作の背景には「言語は場面の中から覚えていくものである」,「言語は口を動かして習慣を作って覚えるものである」という言語観を窺い知ることができるのではないかと述べられた。また,こうした言語観は,中学生であった当時の発表者にとっても情意面で大きな安心感を与えてくれたという。
 國弘氏の番組では,しばしば英語表現に美しい日本語訳がつけられ,「言葉の理解のベースは母語である」という言語観があったのではないかということが述べられた。また,同番組では,諸分野の専門家をゲストスピーカーとして招いたインタビューコーナーがあり,現在のESP(English for Specific [Special] Purposes)教育を思わせる内容であったことが述べられた。このことから,同氏が担当した番組は「あらゆることばは何かの分野のことばである」という言語観に基づいて制作されていたのではないかとの考察がなされた。
 次に,発表者が携わったNHKの英語教育番組「ラジオ英語会話」(1976-1978年度: 月〜木:東後勝明氏担当;金・土:松坂ヒロシ氏担当)と「テレビ英語会話Ⅱ」(1985年度:松坂ヒロシ氏担当)に込められた言語観についての話があった。東後氏の番組は,イントネーションのディスコース上の役割に焦点を当てており,明示的な音声指導を表に出したという意味では画期的な番組であったということが述べられた。番組は「言語の本質は音声である」という東後氏の言語観に基づいて制作されていたのではないかという考察がなされた。
 また,発表者が1985年度に担当した「テレビ英語会話Ⅱ」では,英語インタビューの完全なtranscriptがテキストに載せられており,「言語の実態(=原稿のない状態で話された言い淀みなどを含むことば)を学ばない限り,言語学習は完結しない」という言語観に基づいて制作されていることが紹介された。関連して,不完全な言語形式を修正する能力の重要性についても述べられた。
 次に,同じく発表者が担当したNHKラジオ「英語リスニング入門」(2002-2004年度)では,番組のスキットの読み上げの録音を吹き込み担当者に自由に自然なスピードで話すよう指示し,くずれた音を含む「音声の実態」に焦点が当てられていたということが述べられた。この番組の制作背景には,「オーラルコミュニケーションにおいてやり取りされるのは,そもそも崩れた音である(くずれていない音など存在しない)」という発表者自身の言語観が存在していることが述べられた。
 さらに,発表者が2015年に担当したNHKの発音指導中心のテレビ番組「ニュースで英会話プラス」についての話がなされた。この番組の制作は,学問的な発音の精密な分析と教える際の明示的指導は分けて考える必要がある,という考えに基づいており,「ことばの発音は順序立てて示せば明示的に教えることができる」という発表者の言語観が込められていることが紹介された。
 次に,発表者が執筆に携わった英作文の文科省検定教科書『CROWN』(1989年)には,多くの暗唱用の文章(e.g.「ししおどし」についての英文)が提示されていたことが述べられた。クリエイティブに英語を使う場合でも,すでに覚えている英語を使ったり応用したりすることが多く,執筆背景には「作文力は暗唱によって身につけるべきである」という言語観が込められているという話が紹介された。
 次に,発表者が取り組んできたディベート教育に込められた言語観についての話があった。発表者は,ディベートの指導において,主張の背後に隠れている前提をトゥールミン・モデルに基づいて崩していく批判的思考訓練を学生に課していた,という話が紹介された。こうした指導の背景には,「議論力が不十分な者は言語力も不十分である」という発表者の言語観が込められており,議論ができる英語学習者を育てていく重要性についても述べられた。
 最後に,英語「指導」ではなく,英語「学習」に関する考察も述べられた。非英語母語話者である英語学習者は,言いたい内容(アナログ世界の存在)を有限の数の表現の可能性から選んだ項目(デジタルな世界の存在)に当てはめながら表現していかなければならず,その選択肢は母語話者に比べてはるかに少ない。よって,言いたい表現を習得していくためには,類義語辞典などを使い,複数の表現を参照するような努力をしないと,コミュニケーションで最適な表現を探していくことはできない,ということが述べられた。
 さらに,上記の話と関連し,英語学習の「上級者」に関するコメントが付け加えられた。日本の英語教育においては,初級・中級の指導と異なり,上級者への教育があまり充実していないが,帰国生をはじめとする上級者を扱う場面に立つこともあるので,こうした上級者に教える準備をしておく必要がある,という考えが述べられた。
 本発表は,教師が英語を教える際に,知らず知らずに学習者にすり込んでしまっていると思われる「言語観」に関して,参加者に様々な観点から考察を促す大変示唆に富んだものであった。発表後には,何名かの参加者からの質疑がなされ,有意義な意見交換がなされていたように感じる。なお,発表者から「板書において,國弘正雄先生のお名前の漢字が間違っていました。また,第二強勢への言及の際のuniversityの第一強勢をズレた位置に置いてしまいました。以上2点,お詫びして訂正いたします。」とのメッセージが後日寄せられた。(文責:久保 岳夫)

参考文献:

  1. Chapman, R. L. (1977). Roget’s International Thesaurus, 4th ed. Thomas Y. Crowell
    Company.
  2. Gove, P. B. (Ed.). (1973). Webster’s New Dictionary of Synonyms.
    Merriam-Webster.
  3. Rodale, J. I. (1978). The Synonym Finder. Warner Books.
  4. Stein, J., and Flexner, S. B. (Ed.). (1984). Random House College Thesaurus.
    Random House.
  5. 大野晋、浜西正人. (1985). 『類語国語辞典』角川書店. 

2022年度 夏合宿

日時:8月23日(火) 14:00-17:00

発表スケジュール

14:00-14:50 久保 岳夫 氏

本発表では,発表者が現在勤務している中学高等学校で実践している,英語落語動画を利用した「正確に聞き取る活動」に重点を置いた授業実践の一部を紹介しました。英語落語がどういったものかという説明から始まり,教材に設定された場面に関する記憶や語彙・語法・文法の知識を手掛かりにした「英文を正確に聞き取る活動」の一連の流れを紹介しました。英語落語を授業で扱うメリットは高いと考えていますので,同様の授業実践を共有できる先生方が増えていってくれたらうれしく思います。

15:00-15:50 浅利 庸子 氏

現在私は,慣用句や定型的言語表現(formulaic sequence)の習得及び使用がどのように英語非母語話者(NNS)の流暢さに関係しているかについて調べています。本発表では,NNSのlexical phrasesの使用頻度と種類について報告しました。Lexical phrasesはFSの種類ですが,その定義は少し曖昧であるため,夏合宿の参加者には今後,lexical phrasesをどのように定義すべきかなどについて相談させていただきました。いただいたコメントは今後の研究に活かしたいと思います。

16:00-16:50 安田 明弘 氏

本発表では,参加者の皆さまに事前に「学習スタイル診断(Self-Portrait)」を実施して頂き,発表では学習スタイル認定コーチである発表者が,学習スタイルの5つの項目について簡単に説明をし,それぞれの項目について参加者の皆さまの実感や感想をお聞きしました。その後,英語学習における本診断の利用方法や,本診断を英語教育研究にどのように発展させられるかという切り口で参加者の皆さまからざっくばらんな意見を頂いくことができ,とても貴重な機会となりました。


2022年度   第5回研究会 【 講演 】

日 時:2022年9月10日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:林 剛司 氏(横浜商科大学)

テーマ:英語教師にとっての「多読」

講演言語:日本語

司会:久保 岳夫 氏(開成学園講師)


【概 要】


英語学習において「多読」の必要性を否定する教師や学習者はいないでしょう。言語の習得には大量のインプットが不可欠だからです。しかし、その方法や効果については意見が分かれるところです。教師として多読授業を行う場合には、教授法以前に、まずは教師自身が多読を充分に行い「楽しむ」必要がある、と発表者は考えています。多読を(主に高専や大学での)授業で導入したり、Asahi Weekly紙上において多読図書を紹介・解説したり(2015年~現在に至る)、自分自身の英語学習の一環として多読を実践してきた経験から、多読の重要性、効果、そして(これこそが本発表の要になるかもしれませんが)多読の「魅力」についてお話しします。また、時間が許す限り、学習者や英語教育関係者、連載記事の読者等から寄せられる質問(例「GRとLRの違いは?」「オススメの(人気がある)多読図書とその特徴は?」「辞書や文法訳読は時代遅れか?」「音声面について」…)と発表者の回答も紹介したいと考えています。そこから、発表者の(主に多読を通じての)ささやかな言語観にまで話を発展させることができれば幸いです。


【司会者後記】

 本講演では,英語学習における多読(extensive reading)の重要性について,講演者自身の英語教員としての経験,英語多読に関する書籍を出版した経験,そして多くの英書に触れてきた経験を通して,具体的な内容の発表であった。
 まず,講演者が高等専門学校で英語を教えていたときに,90分の授業のうち15分を多読活動にあてていたという授業実践の紹介がなされた。多読の授業を実践するためには,図書館の協力が不可欠であることも述べられた。
 次に,講演者が2015年から日本の英字紙で連載しているコラムや現在まで出版されている英語多読関連書籍の紹介があった。英語多読に関して潜在的に興味のある一般の読者が多いことが窺える内容であった。
 続いて, retold版の英書には,Leveled Readers (LR)とGraded Readers (GR)の2種類があるという話がなされた。LRとは英語を母語とする児童向けの絵本を指し,GRとは(英語が母語でない)英語学習者用の段階別の読み物を指すということが説明された。LR,GR共に,異なった出版社から出版されている具体的な図書(e.g., Oxford Reading Tree, Longman Literacy Land Story Street, Oxford Bookworms, Oxford Dominoes)の紹介がなされ,それぞれの特徴が紹介された。GRについては,出版社別のそれぞれのシリーズにおける語注についての特徴の紹介・比較がなされ,語注の利用についてrewriteを担当している著者の中では「語注はできれば使用してほしくない」といった意見があることも紹介された。
 次に,retold版の作品をいくつか例に取り,どのような表現が使われ,どういった配慮がなされて執筆されているかという話がなされた。学生に,原文で使われている表現とretold版で使われている表現の違いなどに着目させて英語表現について深く考察させる授業実践なども紹介された。
 最後に,近年文学作品が英語教育の現場で以前よりも遠ざけられている実情について言及され,「言語の真髄(genius, essence)を感じさせるものというのは,やはり文学にある」という國弘正雄氏の言葉が紹介され,retold版であっても,文学は教育現場で利用する価値が高いということが述べられた。また,すでに日本語で読んだことのある作品の英訳作品を読むことで定型表現(formulaic expressions)にも注目することができ,効果的な語彙の学習にもつながる,ということが述べられた。英語多読は読者の自発性が重要なため,教育現場で強制的に図書を読ませるような活動には限界があることについても言及され,この点に関しては誤解がないよう多読を推進する必要があるという慎重な意見も示された。
 本講演は,講演者自身の英語の書籍を読むことに対する情熱や,多読を意識して出版されたLRやGRの魅力について多くのことが伝わってくる内容の講演であった。本講演を通して,参加者は,英語多読に関して多くの示唆が得られたのではないかと感じる。(文責:久保 岳夫)