2019年度 第1回研究会(講演)

日 時: 2019年4月27日(土)17:00~19:00
(17:00~17:15 総会/17:15~19:00 講演)
会 場: 早稲田大学早稲田キャンパス14号館403教室

発音指導の心・技・体: 心と技を中心に
講演者: 靜 哲人 氏 [大東文化大学 外国語学部]
司会者: 久保 岳夫 氏 [開成学園(非常勤講師)]

【概要】
 日本語ネイティブの生徒の英語発音は不十分なことが多い。それは教師の側に発音指導の「心・技・体」のどれか、あるいはすべてが欠けているからだと考える。
 ここで「心」があるとは、日本語ネイティブに英語を教えるときの発音指導の重要性をきちんと認識し、かつ目の前の生徒の発音を少しでも良くしてやりたいと心の底から思っていることを言う。自分で確信がないこと、本当はそれほど強くは思っていないことは、熱を込めて指導できるはずがない。この部分が足らない教師は多い。

 次に「技」とは、自分の発音技能を40名の生徒たちに伝えるための指導技術を指す。いくら「心」があっても40名を相手にして、結果的に生徒の発音が改善しないのであれば「心」がないのと同じである。たとえば教科書の「発音コーナー」だけで発音練習をしたり、思い出したように時々発音について言及したりするだけでは、40名の発音技能は変わらない。また発音が焦点でないやりとり活動のときには発音には触れない、という態度であるならば、生徒たちの発音は決して変わらない。この部分が足らない教師はさらに多い。

 最後に「体」とは教師自身の発音技能である。発音技能の低い教師は、生徒の発音技能の低さがそれほど気にならないはずだ。汚部屋に住む人は、他人の部屋の汚さにそもそも気づかないのである。自分の部屋が清潔ならば、そうでない他人の部屋に対して何かを感じないのは難しい。日本語ネイティブの英語教師には「体」が足らない場合も多い。しかし「体」だけは完璧でも「心」と「技」がなければ生徒の発音は全く変わらないのは、多くの英語ネイティブ英語教師の授業を受けても、生徒の発音はほとんど変化しないことからも明らかである。

 本研究会の会員にはおそらく「体」は十二分にあると思われるため、本講演では「心」と「技」を中心に論じたい。技のなかではとくに「グルグルメソッド」と「歌の利用」を取り上げる。

参考文献
靜哲人(2009)『英語授業の心・技・体』(研究社)
靜哲人(2019)『日本語ネイティブが苦手な英語の音とリズムの作り方がいちばんよくわかる発音の教科書』(テイエス企画)

【司会者後記】
 英語の先生で自分自身の英語の発音に自信がある人は多くいらっしゃると思いますが,それがどのようなメカニズムで行われているか正確に理解し,また,その知識・技術を自分自身のためだけに留めておいている先生も多いかと思います。講演者の靜哲人先生はご自分の大学の授業で,学生の英語の発音矯正に励んでおられます。講演の中では,集団授業の中で,効率的にフィードバックを行うテクニックを実際の授業の様子を見せながら紹介していただきました。目の前の生徒・学生の発音を直してあげようという気持ちがある(心),集団授業で発音指導ができる(技),先生自身の発音も上手である(体),と「心・技・体」について語ってくださいました。「体」や「技」があるのに「心」がない教師は最も疑問符を投げかけるべきではないか,という問題提起は非常に考えさせられるものでした。
[文責:久保 岳夫]


2019年度 第2回研究会(講演)

日 時: 2019年5月11日(土)17:15~19:00
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

英単語の綴りを活用した発音指導
講演者: 手島 良 氏 [武蔵高等学校中学校]
司会者: 安田 明弘 氏 [武蔵高等学校中学校]

【概要】
 発音指導というと、音声学を学んだことのある人ほど「発音記号の活用」を思い浮かべがちであるように思います。けれども、発音記号は専門家のための道具であって、学習者には“凶器”に映るかもしれません。
 たとえば、yet [jet], jet [dʒet]、あるいは、vine [vain], vain [vein], vein [vein]—これを見たとき、たいていの生徒は「(やっと覚えたアルファベットのほかに)新しい文字をまた覚えなくてはならないのか!?」と新奇な文字の登場に困惑すると同時に、[ ]の有無で文字の価値が変わることに絶望します(歓喜するのは、私を含めた“発音オタク”だけでしょう(笑))。

 私は、発音指導に最も都合が良いのは、英単語の綴りだと確信しています。そもそも英単語は、表音文字で綴られているのですから、当たり前といえば当たり前です。ただ、ラテン語の表記に最適な文字を、無理やり英語に“適用”している上、歴史の“悪戯”もありますから、英単語の綴りは一筋縄では行きません。つまるところ、「文字・綴りと発音の関係の指導(phonics)」を行なう中で、正しい発音のしかたを身につけさせるのが、一番の近道だと考えています。その際、忘れてはならないのは「弱く・短く・“いいかげん”な音」の指導です。

 中学・高校における実践をもとに、英単語の綴りを活用して、どのように発音を指導するのかについてお話します。子音間に母音が介入しないようにする指導法、swimのsを発音する際に唇を尖らせておく方法、playのpを発音する際に舌をlの構えにしておく方法などについてもご紹介します。

【司会者後記】
 5月の例会では、綴りと発音指導に関するご著書も多く、語学教育研究所でもご活躍されている手島先生からご講演いただいた。ご講演のメインは、個々の「綴り」とそれに対応した「正確な音」をどのように指導していくかという視点で、実際にデモンストレーションを通して解説していただいた。スモールステップで1つ1つの綴りと音のつながりを獲得していくことにより、新たに見た単語も自然と発音できるようになる魔法にかかったような体験であった。しかしそれを可能にしているのは、指導の中で既に学習者が知っているルールを把握し、適切なタイミングでのキュー出しをするといったまさに名人芸のような手島先生の技術を感じるものであった。また、文字指導の観点からも、単語をいきなり全て綴らせるのではなく、既に習った音と綴りに焦点をあてて単語の一部のみの書き取りから練習させるという活動もご紹介いただき、このようなステップを踏んだ練習は特に初学者の学習負荷やつまづきを減らす上でも非常に大切な視点であると感じた。1時間半の講演は、終始高名な漫談家の演目のようで、終始聴き入ってしまうものであった。
[文責:安田 明弘]


2019年度 第3回研究会(TALK TIME)

日 時: 2019年6月22日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

次回の授業から使えるactivity案
話題提供者: 肥田 和樹 氏 [早稲田大学 教育学研究科
 修士課程修了生]

【概要】
 授業内で行うactivityは、生徒たちが学んだ英語の知識を、実際に使える言語能力へ発展させるための1つの方法だと考えることができます。しかし、教員が生徒たちにとって魅力的・効果的なactivityを考案することは簡単なことではありません。本イベントでは、数名の中高の先生より、実際に行ったactivityを提供していただき、それらのactivityをさまざまな指導環境(中・高)にどのように応用できるかについて参加者全員で考えていきます。
 話題提供者の先生には、実践されたactivityの中で、生徒たちから比較的反響があった、または個人的に愛着が強いactivityを20分程度で発表していただきます。そのactivityを中学・高校、参加者自身の指導環境においてどのように応用できるかをグループ内で意見交換を行います。その後、グループごとの考えをフロア全体で共有し、議論をさらに深めていきます。

 本イベントを通して、「次回の授業から使えるactivity案」として参加者の皆様にお持ち帰っていただけたら幸いです。

【後記】
 獨協埼玉中学高等学校の杉内先生に中学生を、早稲田大学本庄高等学院の望月先生に高校生を対象としたactivityを紹介していただきました。
 杉内先生のactivityでは、教科書の文章を参考に、生徒たちに1分程度の要約をプレゼンさせるという内容でした。教科書に含まれる絵を黒板に貼り、それを見ながら生徒がreproductionするというactivityを参考に、活発なディスカッションが行われました。「自分の言葉で言い換えたり暗唱させたりと、目的を変えて1つの題材を使用できる」「様々な題材(日記・絵本・インタビューなど)を使用でき、それぞれの文章の持つ特徴を学ぶこともできるのではないか」など、建設的な意見交換が行われました。

 望月先生のactivityでは、星型☆を使用したプレゼンテーションを、模擬授業という形式で共有していただきました。望月先生が速読の授業で経験された内容を、高校生のプレゼンテーションへ応用されたactivityに対し、こちらも幅広い意見を交換することができました。そのなかでも「この星型シートを使って、他の生徒のプレゼンの改善点を伝えることができる」「魅力的なプレゼンテーションとはどんな形式かを考えさせるきっかけになる」などの意見がありました。

 また、このようなTALK TIMEが開催できればと思っております。

[文責:肥田 和樹]


2019年度 第4回研究会(講演)

日 時: 2019年7月6日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

英語プロソディ指導の普及へ向けて
講演者: 磯田 貴道 氏 [立命館大学]
司会者: 小林 潤子 氏 [神奈川県立横浜南陵高等学校]

【概要】
 本発表は肩肘張ったガクジュツ的な講演というものではなくて、私が英語を学ぶ立場、教える立場、英語で業務を行うユーザーの立場で経験したことを中心とした話にしてみたいと思います。
 英語のプロソディ(本発表では音節、強勢、リズム、イントネーションを扱います)は、コミュニケーション上の重要性が指摘されながらも、捉えにくい、教えづらいという理由からあまり指導されていないというのが現状です。しかしながら、日本語を母語とする学習者にとって、英語のプロソディは指導されなければ英語学習を難しくしてしまう要因になってしまいますし、伝わる英語を身につけるためにも重要な側面ですので、もっと授業に取り込まれてしかるべきものだと思っています。プロソディ指導が普及するためには、教育的な視点からプロソディを捉える枠組と、普段の授業の中で行える指導方法を開発することが必要と考えています。こういったことに最近は取り組んでいるのですが、教育的な枠組としては、プロソディのミニマムエッセンシャルズを示すことを目的に「3つの原則」というものを提案し、この3つの原則に基づいて、投げ込みの教材ではなく手持ちの教科書の文章を使って行える指導方法を開発してきました。その中身や背景を紹介したいと思います。

 その後で、話をひっくり返すことになるかもしれませんが、そもそもプロソディを指導する必要はあるのかということについて考えてみたいと思います。上記の取組は、母語話者の英語を基にしたものですが、英語がLingua Francaとして用いられることが多い現代で、母語話者の英語を基にした指導が必要なのかという点は慎重に検討すべき課題です。「3つの原則」は母語話者の英語の中からこれだけは必須だと思うものを、私なりに学習者としての経験と教員としての経験を基に抽出したものですが、様々な言語を背景とする人々と英語でやり取りする上でも必須なものと考えています。この考えは英語ユーザーとしての経験から来ているのですが、その経験を紹介しつつ、皆さんのお考えを共有していただいて、プロソディを指導する必要はあるのかということを議論できればと思います。


2019年度 第5回研究会(修士論文中間報告会)

日 時: 2019年11月23日(土)18:00~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

司会者: 浅利 庸子 氏 [東京理科大学]

研究発表
発表題目: Potential Use of Repeated Monologic Speech in Fluency Development
発表者: 芝本 大希 氏 [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]
概要:
This study investigates whether and to what degree repeated practice of uninterrupted monologic speech improves oral fluency in English as a Foreign Language (EFL) speaking. Subjects, Japanese university students, are to be engaged in the “4/3/2” activity (Maurice, 1983) as a means to produce three continued stretches of speech on each given topic. It is predicted that, by virtue of repeating narratives on one topic, both an immediate gain of fluency and the long-term retention of such possible development will be greater than if the equal number of speech is produced on a different topic each time (de Jong and Perfetti, 2011). Such result, if substantiated, can be claimed to be partly due to proceduralization of lexical items and possibly grammatical structures used. Therefore, the analysis includes examination of the linguistic features repeatedly used over the speech sequences and their relation to the subjects’ fluency development.


2019年度 第6回研究会(実践報告)

日 時: 2019年12月21日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

「コミュニケーション英語Ⅰ」と「家庭基礎」の教科横断型授業実践
発表者: 細 喜朗 氏
望月 眞帆 氏 [早稲田大学本庄高等学院]
[早稲田大学本庄高等学院]
司会者: 安田 明弘 氏 [武蔵高等学校中学校]

【概要】
 勤務校では「コミュニケーション英語Ⅰ」で『児童労働』、「家庭基礎」で『食文化と社会』を扱います。そのことから細(英語科)が同僚の棚橋知之さん(家庭科)に提案し2回実践したテーマ型教科横断学習『チョコレートと児童労働』について報告します。
【2018年度】
 2020年度に施行される新学習指導要領は、各学校にカリキュラム・マネジメントの推進を求めている。その総則では、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくことを通して、各学校の教育活動の質の向上を図っていく必要性(文部科学省, 2019)を示している。
 細による本実践では、安達、阿部、北野、諸木(2018)の「チョコレート・プロジェクト」の CLIL(内容言語統合型学習)実践を参考にし、教科横断的な授業を目指すため、 英語科と家庭科のCLIL型授業を設計し、計7時間(2019年2月~3月に英語科4時間、家庭科3時間)実施した。対象は「コミュニケーション英語Ⅰ」と「家庭基礎」を受講する1年生42名である。
 目的は「高等学校において英語と家庭科のCLIL活動がうまく実施できるか」、「CLIL活動を通じて生徒の学習に対する意欲が高まるのか」とした。

【2019年度】
 「コミュニケーション英語Ⅰ」を担当する望月が実践を引き継いだ。年度初めから企画できる利点を生かして、3人で相談し両方の科目の年間授業計画を考慮しながら以下の点を変更した。

実施時期を2学期に(事前事後指導の時間の確保、バレンタインデー前の実施)
チョコレート作り実習の方法の変更(カカオ豆を摺る工程はブレンダーを使用)
共通テーマの学習を意識した英語授業計画(2学期は「大西洋奴隷貿易」「食品の価格を決めるもの」「児童労働の背景」「フェアトレード」という順で学習)
「コミュニケーション英語Ⅰ」での主要教材は検定教科書を活用し、必要に応じてYouTube上の動画を使用した。また2019年度は学校全体の国際交流行事の一環としても位置づけた。
 共通テーマを設定し複数教科が連携することで広がる授業の可能性、検定教科書の素材の活用、特別な学校行事と通年の授業を連携させる方法について、皆さんと意見交換させていただくことを楽しみにしております。

【司会者後記】
 12月の例会では、早稲田本庄高等学院の細先生と望月先生から、英語科と他教科の教科横断の実践発表として直近2年間の勤務校での家庭科とのコラボ授業についてご発表をしていただいた。
 発表の前半では、2018年度に細先生が家庭科の先生と立ち上げた「児童労働」についての英語の単元と家庭科の「チョコレート作り実習」のコラボについてお話いただいた。授業の大きなねらいとして、児童労働という一見生徒にとって遠い世界のことを「自分ごと」として考えるための機会を考えていた際に、家庭科の先生にカカオからチョコレートを作ることは体験できないかと相談したのがきっかけだったと話されていた。教材を生徒にとっていかに「自分ごと化」するかというところに常にアンテナを張っておられる細先生の熱意が形となった実践であると感じた。
 また、発表後半では細先生の実践を2019年度に引き継ぎ行った実践について、望月先生よりご発表していただいた。望月先生の授業哲学である「生徒の授業内での英語のAuthentic Useを最大化する」、「検定教科書を使い倒す」という視点が最大限盛り込まれた授業実践で終始圧倒されてしまった。SGHの活動とも連携し、海外の提携校の生徒が来校した際に、生徒が英語でチョコレートの作り方ついて説明をしながら、一緒に作るという実践はまさに「英語をコミュニケーションの道具」として使う生徒にとって貴重な経験になったと想像する。
 まとめとして細先生が、他教科の先生を含め、色々な先生に授業について話している中でアイディアが生まれ、コラボが現実化していくと仰っていたのが印象的で、同僚の先生方と日常的にコミュニケーションを取っていくことの必要性を感じた。また、教科横断の規模がより大きなものになるだけ、それに関わる先生方が増え、様々なリソースの成約がかかり、全ての生徒に平等に機会を提供することの難しさも感じた。
[文責:安田 明弘]