2014年度 第1回研究会(ワークショップ)

日 時: 2014年4月19日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 22号館 617教室

英語教育が変わる『言語教師のポートフォリオ』(J-POSTL)とは何か

発表者: 神保 尚武 氏 [早稲田大学]

久村  研 氏[田園調布学園大学]

司会者: 山口 高領 氏       [早稲田大学]

【概要】

21世紀に入り、「英語が使える日本人の育成」の戦略構想(2002)が発表され、行動計画(2003)によって中等学校の英語教師に対する悉皆研修が実施されて、本格的にコミュニカティブな英語授業への移行が叫ばれてから10年余りが経過しています。しかし、英語が使える日本人は育成されているだろうか。先生は変わったか。英語授業は変わったか。これらの命題に対する検証なしに、小学校5・6年に英語活動が導入(2013)され、さらに、6年後(2020)には英語活動が小学校3年に降ろされ、5年生から必修科目にすることが検討されています。一方、中学・高校ではCan-do形式での到達目標を明示することが求めてられています(2012-13)。英語学習を早く導入すれば効果が上がるか。小学校教師に英語授業を任せて大丈夫なのか。Can-doで授業は変わるのか。はたして、先生方はCan-doの意味を理解しているのか、等々。疑問や課題が山積みです。

この現状を打開するには、英語教育の新しい枠組みが必要です。新しい制度設計が必要です。しかし、上述の通り、トップダウンでの変革は不可能であるように思えます。ガラパゴス化した英語教育(小池編、2013)から脱却するには、ボトムアップによる変革以外にはありえないように思われます。それにはまず、先生が変わることです。ガラパゴス化の原因は、学校の期末試験や英検・TOEICでいい成績をとる。入試に合格する。仕事で使える、などといった、いわば短・中期的目標設定で教育を行っていることにあります。これらはまた、外的な動機づけにほかなりません。先生方が、長期的目標設定に繋がる内的動機づけの重要性に気づき、教育の方向性を変える、つまり、授業方法を根本的に変えることから、ボトムアップは始まります。このための教育実践ツールが『言語教師のポートフォリオ』(J-POSTL)です。

本ワークショップでは、J-POSTL開発の背景、理念、目的、構造・構成、などを解説し、実際にどのように活用するかを参加者と共に議論します。そこで、参加する方にお願いですが、すでにJ-POSTLはJACET教育問題研究会のホームページにアップされているので前もって読んでおいていただきたいと思います。アドレスは以下の通りです。

JACET教育問題研究会:http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/

【後記】

最初の1時間ほどは、講演のスタイルをとり、英語教育の最近の動向を俯瞰したのち、課題解決への方向が示された。その方向とは、「安易な」英語教育早期化などの制度設計を急ぐことではなく、教育の効果が最も現れる英語教員の授業力・指導力の向上を図るための装置(ツール)の開発と普及である。教員養成課程における質保証に関するカリキュラムや指導方法の改善などへの要請、現職英語教員の授業力・指導力の向上を図るための研修・免許・評価制度の導入などが矢継ぎ早に実施に移されている。しかし、それらの政策や制度を展開させるための具体的な装置はこれまで提案されてこなかった。この講演は、養成課程における学修や教育実習、現職教師の授業実践や研修において、他と協働しながら主体的に取り組み、自律した省察的実践家への成長が期待されるポートフォリオの導入を提案するものであった。

このポートフォリオは、『言語教師のポートフォリオ』 (Japanese Portfolio for Student Teachers of Languages (J-POSTL)) (JACET教育問題研究会, 2014)である。このポートフォリオは、ヨーロッパ評議会(Council of Europe)の主導で開発された、言語教師の省察ツール:European Portfolio for Student Teachers of Languages (EPOSTL) (Newby 他、2007)を原作として、その理念と構成を踏襲し、日本の教育環境に翻案化したものである。

EPOSTLにもJ-POSTLにも共通する理念は、主として行動志向の言語観(Action-oriented view of language)と生涯学習(Life-long learning)である。前者はCLT、後者は教師の自律を目指し、それを具体的に表現したものがポートフォリオの核心をなすcan-do形式の自己評価記述文である。

こうした理念を基に、J-POSTLの主な目的として、次の5点が示された。

英語教師に求められる授業力を明示する

授業力とそれを支える基礎知識・技術の省察を促す

同僚や指導者との話し合いと協働を促進する

自らの授業の自己評価力を高める

成長を記録する手段を提供する

残りの1時間では、言葉を教えるといった立場の参加者が多かったということもあり、ワークショップの形態をとり、5つのグループに分かれて、それぞれのグループにて、J-POSTLの個々の記述文を構成する1セクションを、教育環境・教授法・授業計画・自立学習・評価といった5つのセクションから重ならないよう選び、そこに含まれる記述文の表す意味を考えた。その後、グループで話し合われた要点が参加者全員で共有された。この共有化の際に、「例えば、この記述文中に示されている活動とは、このような活動でしょうか」といった意見が出されたのが、印象的だった。記述文の表す具体的な意味を考えていく過程そのものに、教育理念と実践とが融合されていく様子を感じたからである。

References

Newby, D., et al. (2007). European Portfolio for Student Teachers of Languages – A reflection tool for language teacher education. ECML, Council of Europe. Retrieved from http://www.ecml.at/tabid/277/PublicationID/16/Default.aspx

JACET教育問題研究会, (2014). 『言語教師のポートフォリオ』 Retrieved from http://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/JPOSTL.htm

[文責:山口 高領]


2014年度 第2回研究会(講演会)

日 時: 2014年5月10日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

日本の学校英語教育における長期的な英語ライティング能力育成:技能統合型ライティング・タスクを用いたライティング指導と評価

発表者: 澤木 泰代 氏       [早稲田大学教育・総合科学学術院 教授]

司会者: 浅利 庸子 氏       [早稲田大学大学院教育学研究科博士課程]

【概要】

日本の英語教育において、英語で自分の考えを話し、あるいは書いて表現したり論理的に説明したりする「発信型」の英語力の重要性が指摘されるようになって久しい。その反面、小・中・高校、また大学をも含めた学校での英語教育で最終的に目指すべき英語力の定義や、その目標達成に必要となる具体的施策については、今後さらに議論を深める必要がある。本セッションでは、英語での学位取得や研究・ビジネス活動への従事など、高度な英語力が必要とされる場面に十分対応できる英語力の育成を長期的に目指すライティング指導・評価のあり方を考える。まずセッション前半では、学校での英語教育の最終到達目標の目安の一つとして、国内外で留学生選抜や団体・企業等で人事等に広く活用されている様々な大規模英語外部テストでのライティング能力の定義を、学習指導要領や、日本の英語教育における英語到達度指標として近年開発されたCEFR-J等と比較しながらまとめる。また本セッション後半では、近年特にアカデミック・ライティングにおける重要性が認識されるようになり、大規模テストでもテスト・タスクとしての使用が広がっている、英語で資料を読み(あるいは聴き)、その内容を英語で要約する技能統合型ライティング・タスク (integrated writing task) に焦点を当てる。そのようなタスクを十分にこなすために必要な英語力の多面性を、近年の研究の動向を紹介しながら解説し、integrated writing taskをベースとした、長期的・段階的な指導・評価の方向性を提案する。


2014年度 第3回研究会(講演会)

日 時: 2014年6月21日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 4階 610教室

Second language speaking proficiency: 

Reviews, results and implications of empirical studies

発表者: 斉藤 一弥 氏       [早稲田大学]

司会者: 森田 彰 氏           [早稲田大学]

【概要】

As English increasingly becomes the primary vehicle of international communication, particularly among non-native speakers, developing adequate second language (L2) oral proficiency takes on a role of great importance, especially for learners who wish to use the language to achieve career- and academic-related goals. The first component of the lecture provides a state of the art review on L2 speaking research focusing on (a) “ideal” learning goals that many foreign language learners, such as Japanese learners of English, typically have (i.e., speaking an L2 like a native speaker); and (b) “realistic” learning goals that researchers actually suggest, drawing on empirical evidence (i.e., using the L2 as a successful non-native speaker). Subsequently, I would like to introduce three L2 speech projects that I have been involved with.

Evaluating the pedagogical potential and limitations of EFL education in Japan

My research team at Waseda University has aimed to establish benchmarks for adult Japanese learners of different levels of L2 oral ability. In particular, our project focuses on examining (a) the extent to which Japanese learners can improve their speaking skills after six years of EFL education in Japan at secondary schools (e.g., approximately 900 hours in total); and (b) how their performance differs not only from native speakers of English (i.e., an ideal goal), but also from experienced Japanese learners in Canada who use English on a daily basis for professional purposes (i.e., a realistic goal).

Measuring important linguistic correlates of L2 oral proficiency

My research team at Concordia University (Canada) and University of Bristol (England) has aimed to identify which aspects of language?pronunciation, fluency, vocabulary and grammar?are relatively important for improving L2 oral proficiency. In conjunction with spontaneous speech samples from 120 Japanese learners of English in Canada, we have analyzed how phonological (segmentals, word stress, intonation), temporal (speech rate), lexical (appropriateness, density, variation, abstractness, frequency, sense relations), and grammatical (accuracy, complexity) variables interact to influence native speakers’ impressionistic judgements of beginner, intermediate and advanced-level L2 speaking proficiencies.

Teaching second language speaking

I have examined how integrating form-focused instruction into meaning-oriented classrooms can impact the development of L2 speech perception and production skills by conducting several classroom intervention studies with more than 100 ESL and EFL students in Canada and Japan. The project has shed light on when, how, and to what degree a combination of contextualized input- and output-based activities can lead L2 learners to enhance the rate and ultimate attainment of L2 speech acquisition.

【後記】

前半で扱ったテーマは、英語非母語話者のアクセント(accentedness)と、そうした人たちの喋る理解のしやすさ(comprehensibility)の関係であった。印象的と感じた1点目は、相手にアクセントがあると理解しづらいという素朴な意見が世にあるが、今回の発表ではそれを定量的に否定し、アクセントと理解のしやすさが比較的独立関係にあることである。この知見は早くもETSの発話評価にて取り入れられているとのことである。

もう1つは、言語学などの素養もなく、外国人とも接したことがないようなカナダ在住の英語母語話者に評価者になってもらい、日本人の喋った英語を、アクセントと理解のしやすさで判断してもらったところ、アクセントは数秒で判断できることが多く、理解のしやすさは時間と労力のかかる作業だとのことである。人は見た目ですぐ判断されるというが、アクセントも数秒でばれてしまうといったことであろうか。

前半の話で最も印象的だったのは、88人のカナダに移民した成人日本人の中で、家庭でも仕事でも英語を使うと考えている人に、数枚の個別の写真を見せて、それぞれ5秒のみ考える時間を与えて、その後英語で描写してもらうというタスクを行った後、その発話音声を、先に述べたようなカナダの英語母語話者に、アクセントと理解のしやすさを判断してもらうという実験であった。その一方、日本人の大学1年生の中でまったく海外経験のない日本人に対しても同様なタスクを行った後、同様のアクセントと理解のしやすさを判断してもらった。この時点で、日本人の到達可能な英語使用音声への評価と、日本人大学新入生の英語使用音声への評価が集まったことになる。さらに、同時に行ったアンケート結果を統計的に絞り込んで8要因と仮定して、どの要因が、そうした理解のしやすさと関係が強いかを検証したところ、高校時代の塾を含めた英語の学習時間という要因が一番大きく、2番めに大きい要因が、大学新入生になってから日本人以外の学生との交流時間という要因であったという。

後半では、前半でも出てきた、日本人の英語発話音声のアクセントと理解のしやすさそれぞれに対して、言語的な大きな4要素(発音のよさ・発話の流暢さ・語彙・文法)がどの程度対応するのかを検証する研究が述べられた。理解のしやすさには、語彙の正しさ・文法の正確さが大きく相関し、一方、アクセントには、文法・語彙には相関がなく、発音のセグメントが大きく関連するという結果が紹介された。また、得られたモデルとサンプルを用い、英語で喋って伝える能力が高い(comprehensibilityの高い)点で、初級者・中級者・上級者を分けたところ、次のようなスケッチができるとのことであった。初級者には、流暢さ不足・不適切な語彙・プロソディに改善の余地あり・個別セグメントにも問題・文法の弱さといった特徴があり、これが中級者になると、流暢さの上昇・適切な語彙ができてくる・プロソディ改善・個別セグメントはまだ・文法もまだ改善の余地ありといった特徴があり、上級者になると、プロソディがさらに改善・個別セグメントも改善・文法も改善といった特徴があったとのこと。

発話の理解しやすさといった実際の英語教育でもこれからますます重要視される分野の国際的研究の最前線を走っている斉藤先生の講義をきいて、全員が大きな刺激を受けたはずと強く感じた。

[文責:山口 高領]


2014年度 第4回研究会(研究発表)

日 時: 2014年7月26日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

第二言語学習者による文法形態素の解釈の非一貫性:

日英語のアスペクトとテンスの習得についての実験的研究

発表者: 山崎 妙 氏           [跡見学園女子大学]

司会者: 山口 高領 氏       [早稲田大学]

【概要】

本発表では、生成文法理論に基づいて、日本語母語話者の英語と英語母語話者の日本語を対象に、アスペクトとテンスの解釈を調査した研究を報告します。

第二言語習得研究の分野では、学習者が発達させる目標言語の知識がどのようなものなのかについて議論がされてきました。第二言語習得過程に普遍文法が機能するという前提に立つ研究者の間で、母語話者と同様に抽象的な言語知識を習得できるという主張と、できないという主張があります。形式素性(例えば、名詞の複数形に付与されていると考えられる[+plural]や動詞の過去形に付与されていると考えられる[+past])の習得に目を向けると、前者の主張では目標言語のいかなる素性も習得が可能になります。しかし、学習者の文法形態素の使用には一貫性が見られない、つまり使用したり使用しなかったり、間違ったものを使ったりすることが多く報告されています。この立場をとる研究者たちは、その原因を、学習者が目標言語で形式素性と適切な形態素を結びつけられないからだと考えており、それができないのは学習者の情報処理能力が欠如しているからだとしています。一方、後者の主張をする研究者は、第二言語学習者は特定の形式素性しか習得できないと考えています。そのため、習得できなかった素性と結びつく文法形態素を産出することはできないと説明します。

本研究はこの議論に貢献することを目的としています。この議論は主に産出データを元に進められてきたのですが、本研究ではよりパフォーマンス要因の関与が減少すると考えられる解釈のデータに注目しました。まず、アスペクトに関してですが、英語の単純現在・過去形とbe+-ing形、日本語のル/タ形と-テイ(ル/タ)形の意味を正しく解釈できるかを調べるため、容認性判断テストを行いました。その結果、目標言語の素性の習得は必ずしも不可能ではないけれども、母語で選択されない素性は習得が非常に困難であることが明らかになりました。また、習得の初期に母語の影響によって間違って結びつけられた素性と形態素の結びつきを変更するのはとても困難であるため、上級レベルの学習者の知識にも、正しい結びつきと間違った結びつきが共存するという結果が示されました。これらの結果を情報処理能力の欠如という観点のみから説明することはできませんでした。次にテンスについてですが、英語と日本語の従属節の過去形・非過去形を正しく解釈できるか調べるために、容認性判断テストを行いました。その結果、母語で使われる形式素性の習得は容易に行われること、目標言語の規則を新しく習得するよりも、関連する母語の規則を知識から捨て去るのに困難が伴うことが示されました。以上の結果から、第二言語学習者は、目標言語で正しいとされる素性と形態素の結びつきを「常に」選択することができないために、一貫性のない解釈が行われるのだという結論に達しました。これは、前述の議論のうち特定の素性が習得できないという主張とも、非一貫性の原因は情報処理能力の欠如だとする主張とも一致しない、新たな提案につながるものになります。

【後記】

発表の中心は、発表者の行った実験研究の一部であり、生成文法理論の中でも主にアスペクト諸理論の関わるいくつかの言語表現を、学習者が、与えられたコンテクストの中で妥当かどうか(5件法)を解釈するというテストを行い、その量的データの平均を、先の理論に基づく予測と比べることによって、第二言語習得についての諸仮説の妥当性を判断する研究であった。

生成文法などの言語理論を言語習得研究に適用することによって可能になるのは、今回の研究にもあったように、例えば英語と日本語の特定の文法項目を共通の枠組みで記述し、日本語母語話者の英語使用と、英語母語話者の日本語使用においてその文法項目の習得過程で起こることを同じレベルで比較することにより、第二言語習得に関する理論の妥当性を検証できるという点である。

今回の研究を踏まえての発表者による提案は、従来から唱えられている素朴な二分法の対立ではなく、それを克服するものであった。すなわち、母語にない機能範疇や形式素性の習得は困難であると唱える欠損形式表示説(Impaired Functional Representation view)は、上級者になれば習得(今回の研究では適切さを正しく解釈できるという意味であるが)されている事実から矛盾するし、もう1つの説、機能範疇や形式素性の習得は可能であると主張する完全形式表示説(Full Functional Representation view)に対しては、上級者によっても習得されない部分がある理由を説明する妥当な方法が見つからないため不十分だという考察がなされた。

結論として、L2学習者の初期段階では母語の影響を受け正しくない素性を使う傾向が強いが、発達後期に至っては、正しい素性と正しくない素性が混在するといった仮説が提案された。

今後は、生成文法理論だけでなく、言語使用実態の分布も踏まえた視点(Usage-based view)からも研究されるとのことである。母語と目標言語の共通点と相違点は、習得に関連する要因であろうが、言語使用実態、簡単に言えば、ある言語表現の頻度も習得に影響を与えるのだろう。

発表者から、アスペクト理論の基本書の中で日本語で書かれているものを紹介してもらった。『アスペクト』(Comrie著、山田小枝訳)むぎ書房である。

[文責:山口 高領]


2014年度 第5回研究会(研究発表)

日 時: 2014年9月27日(土)17:15~19:15

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室

コロケーションの研究成果を教育現場へ応用するには

発表者: 小屋 多恵子 氏    [法政大学]

司会者: 大石 文雄 氏       [法政大学非常勤講師]

【概要】

日本でも2000年代初めよりコロケーションがコミュニケーション能力向上に重要な要素であることが広く周知され、様々な角度から研究が行われています。しかしながら、現在その研究成果が教育現場にうまく活かされているとはいいがたい状況です。今回のTALKでは、日本におけるコロケーションの基礎研究を概観し、その結果を反映させたコロケーションの効果的な指導法や教材の可能性をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

【後記】

今回の小屋氏の発表は、「コロケーションの研究成果を教育現場へ応用するには」ということで、1.コロケーションとはどのようなものか、2.なぜコロケーションが重要なのか、3.コロケーション指導は現在どのように行われているか、4.コロケーションにはどのような指導・教材がよいかの4点について発表・質疑応答・討論という形で進められた。

1の「コロケーションとはどのようなものか」については、”the tendency of a lexical item to co-occur with one or more other words” (Backlund, 1973他) 及び「コロケーションとは,語と語の間における、語彙、意味、文法等に関する習慣的な共起関係を言う」(堀, 2009) という Definition を引用し、語彙的コロケーション及び文法的コロケーションについて例を示された。また、コロケーションと呼べる語と語のつながりは、objective and subjective criteria が拠り所となるものの、研究者の間では「何をもってコロケーションとするかについては曖昧な点もある」と述べられた。参加者からもいわゆる「連語/成句/熟語」あるいは「選択制限」とコロケーションとどのような差異があるのかという発言もあった。

2の「なぜコロケーションが重要なのか」については「学習者に本当に必要なコロケーションを選択して提示すること。それがコミュニケーション能力、つまり流暢で適切な言語を使用する能力にプラスになる。」という考えを提示された。またコロケーションの使用実態にも触れられ、母語話者のコロケーション知識に関するデータから、コロケーションの重要性について言及した。また「既知語と新出語からなる2語のコロケーションが新出語を覚えるための有効な提示方法である」という発表もあった。

3の「コロケーション指導は現在どのように行われているか」については「学習指導要領」「教科書」の分析によって指導の現状について話があり、参加者からも授業における指導法について意見が出された。

4の「コロケーションにはどのような指導・教材がよいか」に関しては「コロケーションを使った単語間のネットワーク構築」についてと『英語語彙指導の実践アイディア集-活動例からテスト作成まで』(相澤一美・望月正道編著 大修館書店, 2010) 記載の具体的な指導例についての話があり、参加者からは「音声でコロケーションを覚える手立て」「コーパスの中での連語関係の指導」「日本人が間違いやすいものから、コロケーションを考えていく」等の具体例が示された。

司会の不手際で、参加者全員からお話を伺うことができなかったが、コロケーションという視点で学習指導をしていくことの重要性がわかる発表であった。

[文責:大石 文雄]


2014年度 第9回研究会

(KLA・TALKの第13回合同セッション)

日 時: 2015年1月25日(日) 14:00~17:15

場 所: 早稲田大学 早稲田キャンパス 3号館 405教室

講 演 者:           片山 晶子 氏 (KLA)

[東京大学 教養学部グローバルコミュニケーション研究センター 特任講師]

発表者1:           杉内 光成 氏 (TALK)

[獨協埼玉中学高等学校]

発表者2:           佐藤 洋一 氏 (KLA)

[東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程]

司会者: 佐藤 之美 氏 (KLA)

【講 演 者】片山 晶子 氏

【講演題目】A mixed-method study of English users in Japan: A Progress report

【講演概要】

This presentation reports on an ongoing mixed-method study about English users in Japan. The study aims to investigate the realities of the use and users of English in Japan in order to acquire essential knowledge for English education policymaking. The presentation also touches on some theoretical and practical issues regarding mixed method studies in applied linguistics.

The present mixed-method study started with a secondary analysis of a large social study database, JGSS 2002-2010, to grasp the social characteristics of English users in Japan. Based on the profiles provided by the statistical analysis, six participants for the narrative part of the study were selected. The three male and three female English users were interviewed two to three times each about their language learning and education as well as general life histories.

The data are currently being analyzed based on Bourdieu’s concept of capital. This notion of capital highlights the learners’ own assessment of the investability of second language learning (e.g., Peirce, 1995). In the discourse of globalization, English is identified as the international language of economic opportunities, and education policies, particularly in expanding-circle nations, reinforce that discourse. However, the statistical and narrative data in the present study so far indicate that, in Japan, English proficiency becomes capital only for a small minority and under conditions which involve complex accumulation and trading of other forms of capital, including areas of residence and educational background. The data indicate that the neoliberal discourse of English as capital seems to be disconnected from the lived realities of the Japanese.

【司会者後記】

 片山氏は日本人英語使用者のmixed-methodの研究について英語で発表された。前半では研究の進行状況が報告された。この研究ではIs English proficiency capital for the Japanese?というリサーチクエスチョンのもと、「外国語に時間や労力をどれだけ学習者がつぎ込む価値を見出しているか」というBourdieuのcapitalという概念に基づいて質的量的の両方から研究が行われた。量的な研究では20代から70代(以上)の日本人男女に「仕事上」「友人同士や家族内」「趣味」などでどのくらい英語を使用しているかアンケートを取り、その傾向を分析された(Terasawa & Katayama, 2013)。結果は日本人の英語使用者は約10%、20-30代の高学歴女性が最も多かったが、仕事上ではなく趣味や友人同士など個人的な目的であることがわかった。質的研究では40代の英語熟達度の高い専業主婦(3人)と仕事を持つ男性(3人)に数回に渡ってインタビューを行った。女性はいずれも帰国子女か留学経験者で、子供をきっかけに英語能力は仕事で稼ぐためのものではなく旅行や趣味などでお金を使うためのもの、仕事に戻りたいが条件が合わないと感じていたという。

 後半では、後半はmixed-method research(MMR)の応用言語学における研究という内容であった。「2種類(またはそれ以上)の異なったデータソースを使用することを正当化できること(Brown, 2014)」、「複合的なデータセットは単に列挙されるのではなく、相乗効果が現れるはずである(Jang, et. Al., 2014)」などからMMRの実用性が述べられた。応用言語学ではテスティング、プログラム/カリキュラム評価、モチベーション研究などへの応用が考えられる。

 司会者後記ではパワーポイントをもとに実際に発表された内容をまとめたが、性差による違いが浮き彫りにされていて、根深い社会問題であることを改めて感じた。当日は質疑応答も全て英語で行われ、活発な意見が交換された。

[文責:佐藤 之美]

【発表者1】杉内 光成 氏

【発表題目】The effect of segment- and suprasegmental-focused teaching on perceived comprehensibility

【発表概要】

This study was designed to see what effects segment- and suprasegmental-focused teaching methods have on the comprehensibility of learners’ English as perceived by their interlocutors.

These teaching methods were conducted in two classes of first-year high school students. Each class consisted of 40 students. One of the two classes was taught in a segment-focused way, and the other was taught in a suprasegmental-focused way. Phonological features dealt with were ones suggested in Amalgam of NS English (Cruttenden, 2008). The students received instruction on each phonetic item at every one of the 50-minute sessions of the class during the period of about two months. Before and after the treatment, students recorded their own English pronunciation by reading aloud a diagnostic test. These data were evaluated in terms of perceived comprehensibility on a scale of 1 to 5 by three native speakers of English.

The results show that both programs of instruction seem to be efficient for Japanese high school students for enhancing their perceived comprehensibility. Also, if we can take the score of effect size in the independent t-test into consideration, segment-focused teaching can be said to be more efficient for Japanese high school students for elevating their perceived comprehensibility.

Although conclusive evidence has not been obtained, there are several possibilities. First, specific methods of pronunciation teaching in the classroom can raise perceived comprehensibility. Second, more specifically, segment phonemes affect the comprehensibility of the students’ English more than suprasegmental features, at least at early stages of their pronunciation training.

【司会者後記】

 今回TALK側からの発表は杉内氏による英語の音声指導に関する研究発表であった。/t/ /f/などの音素に焦点をあてる指導と、英文のストレスパターンやイントネーションに焦点をあてる指導のうち、どちらがその学習者の話す英語を聞く側からより理解してもらえるようになるかという比較研究である。この研究結果により、音声指導にあまり時間の割けない授業の中でも効果的に音声指導を行う提言ができるだろう。

 対象は海外経験のない日本人高校1年生2クラスで、10週間に渡って実験授業の報告がなされた。segment-focused teachingでは主に特定の音素(/s/ vs. /z/)を含んだミニマルペアの文を使い明示的な説明と練習、suprasegmental-focused teachingでは文の中のイントネーションを矢印などで視覚的に示した上でターゲット項目を考えさせた上での練習であった。pre-test / post-testでは被験者の録音された音声データを3名のアメリカ人が5点満点で審査をして、その結果を複数のt-testで検証した。結果として2者間にはっきりとした有意差は見られなかったものの、英語の聞きやすさからすると音素に焦点をあてた練習の方が効果的であった可能性が高いと杉内氏は考えている。音素指導の方がわかりやすく間違いを直しやすいことからpost-testで点数を上げたのではないか分析している。

 この研究を通じて、日本の英語教育にsegmentの指導もsuprasegmentalの指導も授業にもっと取り入れることを提唱して発表を終えた。杉内氏のプレゼンテーションはわかりやすく、授業での教え方も想像できるとても良い雰囲気であった。

[文責:佐藤 之美]

【発表者2】佐藤 洋一 氏

【発表題目】“I agree with you mostly, but…”:Consensus and disagreement by Japanese within English-speaking workplace discourse

【発表概要】

This study investigates how harmony-oriented mind-set of Japanese, or WA (和, harmony), develops miscommunication among Japanese English speakers, particularly when a consensus is achieved and when disagreement is euphemistically expressed. This study focuses its analytical attention on the context where English is used as a lingua franca in business discourse. The author employs an ethnographic approach to discourse analysis based on the data retrieved through stimulated conversation. Drawing on the result of data analysis, this study consequently suggests some pedagogical implications of how Japanese business communication issue in relation to face-threatening act (FTA) should be addressed in future corporate in-house training program conducted in global companies.

【後記】

 最後の発表は数年間この合同研究会を共に企画してきた佐藤氏による発表である。英語による発表で会場内を飛び回りフロアと対話をしながら、プレゼンテーションの楽しさを教えてくれた。ここでは佐藤氏自らが後記として日本語で発表内容を提供してくれたので、佐藤氏に敬意を表しそのまま掲載する。

 本研究は、日本人ビジネスパーソンが英語を媒介としたミーティングを行うディスコースに焦点を置き、集団的意思決定を行う際、どのような英語使用が発生するのか(その一端)を明らかにすることを目的とする。日本人の英語使用について、これまで様々な分野で研究がなされてきている。今後、社内英語公用語化政策が実施されている企業内等で、日本人社員同士で英語を使って会議等を行っているビジネス現場に着目し、どのような英語使用のプラグマティックスが観察されるかを国際コミュニケーション研究の研究課題として取り上げていく必要が認められる。

 現在、日本企業において、外国籍の社員がいる場合だけにとどまらず、日本人社員同士でも英語で会議等を行っているビジネスシーンは増えつつある。そこでは、英語母語話者を基準とした言語使用能力は求められず、むしろ業務を遂行することが自然と第一優先となる。このような英語使用のあり方はBusiness English as a Lingua Franca (BELF)と呼ばれる。BELF使用の成功基準は非常に複雑ではあるが、本研究では、“[T]he most important issue in business is not language ability, but the experience and ability to dynamically manoeuvre within the communities of practice which business people inhabit”(Handford, 2010, p. 145)という主張に基づき、集団的意思決定を形成することを、成功と定義付けた上で、分析を試みる。また、日本人同士がビジネスコミュニケーションを行う際、純粋な業務の遂行以外(本稿では、集団的意思決定と同義)にも、グループ内での集団的意識を重んじ、所属集団内での「和」(In-group harmony)の形成に価値をおくことは、日本人のマインドセットである。このため、ミーティング内でも自然と対話者同士での対面を脅かす行為(face-threatening act, 以下FTA)をできるだけさける傾向がある。以上の点を、分析の観点に据えて、談話分析を試みる。

 筆者は、企業トレーナーとして、海外OJT赴任前研修をCrescendo社(仮名)にて長期的に実施してきている。カリキュラムの一環として、日本人の話す英語のプラグマティックな特徴に目を向け、異文化コミュニケーションに関する意識を高めるトレーニングを実施した。具体的には、五人の参加者にタスクを与え、集団的意思決定を行うロールプレイを行ってもらい、この様子をビデオ録画した。本稿で取り上げるディスコース・データはその時得られたビデオデータを、参加者の許可を得た上で、書き起こしたものである。本研究では、「明確化リクエスト」、「婉曲的な不同意」、「沈黙を用いたコンセンサス形成」という3つのパターンに焦点を当てた。

 分析の結果、明確化リクエストの受け手は、立場や場の権力関係によって、あたかも不同意を示されているように感じてしまうこともあることが報告された。また、この誤解によって、コミュニケーションに必要以上の不安が生じる可能性がある。更には、このようなコミュニケーション(主に言語能力に関する)不安は、事情を知らないものにはビジネススキルや経験値に対する不安の表象と映る場合もある。不同意やコンセンサス形成については、立場の弱いものや、権力関係で下に位置してしまうものがコミュニケーション資源として活用できるようなプラグマティック・パタンが観察された一方、これらの言語行動は日本人の話す英語になじみの無い話者にとっては、意味をなさない可能性が高いことも示唆された。

 今後の企業研修の方向性として、これまでのような総合的な英語力の伸張と平行して、問題や誤解を引き起こしがちな日本人英語のプラグマティック・パタンの明示的な教授と、それに対するアウトカム・ベースでの対処をカリキュラムとして組み込んでいく必要があるだろう。また、これらの知見をコミュニケーション方略の教授の際、どう具体的な言語表現に落とし込んでいくかも鋭意検討していく必要がある。

[文責:佐藤 之美]


2014年度 第10回研究会(講演会)

日 時: 2015年3月13日(土)17:00~19:30

会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 11号館 6階 606教室

Language teacher learning: the challenge of bridging the gap between theory and practice

発表者: Ms. Barbara Mehlmauer-Larcher

(Centre for English Language Teaching (CELT), Department of English, University of Vienna, Austria)

司会者: 山口 高領 氏       [早稲田大学]

【概要】

All language teaching practice is based on some kind of theories of language, language teaching and language learning. Pre-service teachers’ theories might be very subjective theories, based on ideas, assumptions and common sense derived from some limited teaching experience or years of observation carried out as language learners themselves at secondary and tertiary level.

Teacher educators who regard future language teachers as professionals aim to help student teachers of languages develop validated theoretical knowledge and integrate this academic knowledge into their subjective theories of language teaching and learning. Consequently, in pre-service teacher education, teacher educators have to meet the challenge of initiating learning processes which have an impact on student teachers’ cognition and their theoretical concepts of language teaching and learning as well as on their actual teaching behaviour.

To start with I will provide a conceptual framework of teacher education with a focus on closing the gap between theory and practice in language teacher education programmes, followed by concrete examples of how this can be put into practice at the level of course design and concrete activities in teacher education courses. As a document which assists this kind of language teacher education, the use of the EPOSTL (European Portfolio for Student Teachers of Languages) will be demonstrated as a tool for supporting student teachers at the various stages of their learning processes, both on a theoretical and a practical level.

※Barbara Mehlmauer-Larcher先生ご紹介のページ

http://www.univie.ac.at/Anglistik/ang_new/staff/staff_ped_teach.html

【後記】

At the beginning of the presentation, Prof Barbara Mehlmauer-Larcher asked the audience if we could trust a trainee dentist to fix our tooth. We expect knowledgeable professionals to take care of us when we go to the dentist, the hospital, or the police. When parents send their children to school, they also expect professional teachers to be there. EPOSTL can help student teachers become professional teachers. The presentation focused on what the EPOSTL is, how the EPOSTL can be used, and why the EPOSTL should be used. EPOSTL is a document intended for students going through pre-service teacher education to (1) acquire theoretical knowledge and practical skills necessary to teach a language, (2) help assess their own instructional decisions, and (3) monitor and reflect on their progress.

During the presentation, Prof Barbara Mehlmauer-Larcher gave us a worksheet which gave us an idea of how the EPOSTL can be used. We picked a descriptor that read, “I can evaluate and select tasks which help learners to use new vocabulary in oral and written context”. We had to come up with classroom exercises that would meet the goal and at the same time be able to explain why it would work theoretically. After completing the exercise it made me think of my instructional decisions and how appropriate they are for my students. At the end of her presentation, I realized that one of the keys to conducting a successful class might be to always ask myself, “Will this methodology work theoretically and pedagogically?” And this certainly is not as easy as it sounds for every class. Although the EPOSTL is exclusively designed for student teachers, I believe it is useful for all foreign language teachers in developing their teaching skills and professionalism.

[文責:Yoko Asari (浅利庸子)]