2013年度 第1回研究会(実践報告)
日 時: 2013年4月27日(土)17:00~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室
「グローバル人材を育てる英語教育・国際教育の展開」
発表者: 溝口 悦子 氏 [東京都立国際高等学校]
司会者: 望月 真帆 氏 [早稲田大学本庄高等学院]
【概要】
グローバル化が進展するなかで、若者の海外への関心の低下が問題視されるようになり、政府は2011年5月には「グローバル人材育成推進会議」を設置し、同年6月には「中間まとめ」を、2012年6月には「グローバル人材育成戦略 審議まとめ」を公表するに至った。もはやグローバル人材育成は焦眉の急の課題と捉え、まず、政府が公表した資料をもとに、グローバル人材育成推進会議が設置された背景、グローバル人材とは何かの概念を整理し、現在、全国各地で展開している高校や大学での事例を概観していく。
次に、グローバル人材育成を目的として設立された東京都立国際高校(公立)と大阪千里国際高校(私立)の2校を取り上げ、同校卒業生からみた、英語教育と国際教育の成果と課題を報告する。本調査では、以下を課題とした。 (1)同校で受けた教育内容は、卒業してすでに就労している当事者にとって真に有効で ありえたかどうか。 (2)帰国生徒・外国人生徒・一般生徒がともに学ぶことは、何をもたらしたか。
アンケート調査による有効回答42事例をキャリア形成過程の視点から質的分析した結果、被験者には3つのグループが存在した。すなわち、それぞれの学校での教育内容を高く評価し、それと関連性の高い職業に就く傾向のあるグループ、同校の教育内容を客観的に判断し、関連性が高いとも低いともどちらとも言えないと考えられる職業に就く傾向のあるグループ、同校の教育内容に馴染めず関連性が低いと思われる職業を選択する傾向のあるグループである。
教育内容の有効性に関しては、被験者がどのグループに属するかによって見方が異なることを明らかにした。さらに、3つのグループが生じた要因を探ることを試みた。また、新設の兵庫県立芦屋国際中等教育学校(公立中高一貫校)の現地調査も実施し、教育内容と卒業後の進路にどのような関連が推定されるかについても検討した。その結果、学校の教育内容に馴染めないグループの数が、高等学校だけの場合よりも少ないと予想し、そこに中高6年一貫校型の存在意義が見出せると論じた。最後に、これらアンケート調査と現地調査の結果に基づき、教育現場の進路指導に役立てる方策を呈示した。
【後記】
溝口悦子さんが今回の発表で強調されたことは、「グローバル人材を育てるには」英語教育と国際教育を「セットで取り扱うべきである」という点だ。発表要旨にもあるように、発表前半では「グローバル人材」に期待される能力の概念と「グローバル人材育成」の潮流の紹介があり、後半では新国際学校での1989年からの先駆的教育実践を経験した卒業生の追跡調査研究からの知見が披露された。発表後のディスカッションでは、「グローバル人材」に必要とされる対人(交渉)能力と英語力の関係、およびこの2つの力を「セットで」育成するための各学校のカリキュラム(授業、課外活動、学校文化)をめぐって意見交換が行われた。
溝口さんからはまず、「グローバル人材育成」の定義は政府による見解に準じて「国際教育」「国際理解教育」と同等に使うとの説明があった。「グローバル人材」の概念の紹介では、政府が期待する3つの要素と、そのうち測定が比較的容易な「要素Ⅰ(語学力・コミュニケーション能力)」の5段階のレベルが提示された。政府は「会話レベル」(旅行~日常生活~業務連絡)の能力育成は着実に進んでいるが二者間・多者間の「折衝・交渉レベル」の育成が日本の「経済・社会の発展にとって極めて重要」と考えていることを指摘された上で、新聞雑誌でも英語+αの力を備えた「タフな人材」の必要性が報じられていると紹介された。また、「折衝・交渉レベル」で必要なスキルは多岐にわたることを溝口さんご自身の体験を交えて語られた。
発表後半は溝口さんの『卒業生の追跡調査からみた新国際学校の教育効果に関する事例研究』(平成16年科研費 奨励研究)に基づいている。20歳~28歳になっていた被験者候補を追跡調査し、有効回答42事例が3つに大別できることを明らかにされた労作である。この部分の骨子は発表要旨をご参照いただきたい。3つのグループが生じた要因を溝口さんは「(1)キャリア形成における語学習得目的のとらえ方の差異 (2)異文化交流に対する興味関心の深さ (3)学校行事、部活動、校風に対する愛着度の差異」と分析され、「同校の教育内容に馴染め」なかった傾向を示すグループ(2割)の回答からは、心情の根底に「高校で感じた英語への劣等感」や「教育システムからの疎外感」を持つ可能性を指摘された。さらにこの知見から、国際中等教育学校の方が中高一貫の英語力養成カリキュラムや高校入学時の進路変更の余地がある分、「馴染めない」生徒を減らせる可能性があると論じられた。
ディスカッションの論点の1つ目は「折衝・交渉レベル」の英語コミュニケーション能力は学校カリキュラムのどの部分で育てられるのかということだった。多文化理解を深める機会も含む課外活動の重要性も語られたが、英語力を幅広くとらえ直した上で授業の中で育てるシラバスを研究すべきとの知見が提示された。実践例としては、ロバート法に基づいた英語ディベートや英語MCの能力育成、海外でのフィールドワークと卒業プレゼンテーションを必須としたカリキュラムの紹介があった。
論点の2つ目はグローバル人材養成のためのプログラムの有効性である。溝口さんからは政府の教育政策の一環として国際バカロレア導入の推進についての紹介があった。先駆的事例の資料からは可能性の素晴らしさが読みとれたが、普及の実効性については疑問視する意見が出た。また、対人関係構築や経験から学ぶ能力は個人の資質や生活経験に負うものも大きく、学校で育成できるのかという疑問も提示された。
例会終了直後は、筆者は溝口さんの「英語力と国際理解教育はセットで」というフレーズから、車の両輪をイメージしていた。英語の授業をさらに充実させ、適切な課外プログラムを要所要所に配置することで、両輪を備えた「タフな人材育成」に少し近づけるのではないかと考えていた。しかし本稿をまとめるために溝口さんが配布された多くの資料を再読するうち、政府と産業界が要請しているのは4輪駆動のハイブリッドカーの増産ではないかとイメージが変わった。多様なニーズへの対応、動力源の切替(=場面ごとのコミュニケーションスキルの使用?)、「燃費」のよさ(=学習と効果?)、価格の設定(=教育の効率とコスト)など、課題が多い。英語の教員には、コミュニケーション能力を「国際レベルに」伸ばす場の提供と、個々の学習者への支援の両方が求められている。柔軟な視点はもちつつも英語教師のミッションの優先順位を考えるよい機会を溝口さんにいただいた。
末尾になったが、発表の最初の方で溝口さんは、ご自身の英語へのあこがれをまっすぐに追求するうちに、すばらしい業績を挙げながら都立高校7校で勤めあげられたご経歴を語ってくださった。Steve Jobs があの Stanford speech 冒頭 “Connecting dots”の部分で語ったのと同じことを語る方がここにもいる、という感慨をもった。溝口悦子さんのご研究の進展をお聞きする次の機会を楽しみにしたい。
[文責:望月 真帆]
2013年度 第2回研究会(研究発表)
日 時: 2013年6月1日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室
日本人高校生英語学習者のautonomyの測定
~測定尺度MILLAの実践利用についての一考察~
発表者: 下川原 広樹 氏 [日本大学附属第二中・高等学校]
司会者: 鈴木 久実 氏 [東京都立戸山高等学校]
【概要】
本発表は発表者が昨年9月に英国ノッティンガム大学、MA tesolコースに提出された修士論文「Exploring the Usefulness of an Instrument for Measuring Japanese High-school EFL Learners’ Autonomy」の内容に基づいてご報告させていただくものです。
このテーマを選ぶにあたっての問題意識が生まれたのは、早稲田大学大学院教育学研究科に提出した修士論文「Foreign Language Learning Motivation of Japanese High School Students: A Study from the Perspective of Self-Determination Theory」の中で扱った、自己決定理論(Self-Determination Theory) がきっかけと言えます。この理論によれば、autonomyが高い状態は、内発的動機づけが高い状態と位置づけられます (Deci & Ryan, 1985)。この考え方から、学習者のautonomyを高めることができれば、そのことは学習者を動機づけることに繋がるのではないかという仮説が生まれました。
しかし、「autonomyを高める」とはどういうことでしょうか。これまで現場の教師が感覚的に捉えてきたものにほかなりません。高めようとするからには、教師が、現状学習者がどれほどautonomousなのか把握することが不可欠あるように思います。そこで、autonomyを測定するという考えに至ります。
近年、このテーマについて、日本の英語学習者を対象に行われた研究がMurase (2010)です。彼女は日本の大学生英語学習者のautonomyを測定するために、Measuring Instrument for Language Learner Autonomy (MILLA, 英語学習における学習者オートノミ―尺度)というアンケート形式の尺度を開発しました。しかし、Murase本人が言っている通り、MILLAはオートノミ―という概念の構成要素をより深く理解するのを目的として、研究用に開発されたものであり、実際の教育現場で、教師が日常的に使えるツールとしての可能性は深く考察されていません。そこで本研究では、MILLAの教育現場での応用可能性を、高校の英語教育の現場に特に焦点を当てて考察します。
この研究課題を考えるにあたって、まずは単純に高校の先生方7人、大学で英語を教えている先生方2人にMILLAの概要を説明し、実施をお願いしてみました。すると、全ての先生方からMILLAの項目数の多さや、内容の一部が生徒の現状に即さないなど、様々な問題点から「教室での実施は難しい」というご回答をいただきました。そこで、これらの問題を解決するため、信頼性を低めないように留意しながらMILLAの質問項目や構成などの見直しをはかり、最終的に2つのバージョンのMILLAに編集しなおしました。
これら2つのMILLAはそれぞれ異なるコンテクストのもとで実施され、その後、実施して頂いた2人の先生方に、MILLAの内容やその実施に関する記述形式のアンケートにお答え頂きました。
その結果、2つのMILLAのアンケート結果については、いずれもある程度の信頼性係数の値を得ることができ、2つとも共通して、自律性の1つの側面であるTechnical autonomyの得点が有意に低いことを示していました。このことから、2つのMILLAは、教師が学習者のautonomyについて考察し、またautonomyについて意識して指導することに役立つ可能性を示唆しています。一方、記述形式のアンケート結果は、2つのMILLAを教室で日常的に使っていくには、まだ改良が必要で、今の段階ではまだteacher-friendlyではないということを示していました。
本発表では最後に、研究結果を通して、日本の高校の英語教育の現場において、どのようにautonomyを測り、それを日々の指導に活かしていくべきなのかを、現場の教師の視点から提案したいと思います。
References
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. New York: Plenum Publishing Co.
Murase, F. (2010). Developing a new instrument for measuring learner autonomy (PhD). North Ryde: Macquarie University.
【後記】
「学習者に自律性がなければ、高校で英語力を伸ばすことはできない」と、いつも同僚と話をしている高校教師の私にとって、今回の発表は非常に興味深いものであった。EFLの環境で英語を学習する日本の高校生にとって、英語力を伸ばすのに教室でできることは限られている。大切なのは授業外の時間に、いかに多く英語に触れるかである。受け身で勉強させられているうちは、伸びる英語力には限界があると感じている。学年英語科のスローガンは「自分の英語力には自分で責任を持つ!」である。
今回の研究で使われていたMILLAというアンケート形式の尺度をうまく授業の中に、あるいは学年や学校が取り入れることができれば、発表の中で述べられていたとおり、学習者が自律性を意識し、教師が授業改善に生かすことができると思う。教師は日々の授業をこなすのに忙しく、生徒も日々の授業をこなしテストを乗り切ればよいという現場では、学習ということをあらためて直視し、いかに学習力をあげるか、英語力を高めるか、ということをきちんと考える場面があまりない。MILLAの質問紙でアンケートを行うことで、教師が生徒に対し「自律的な学習が大切だ」というメッセージを送ることができるし、生徒も質問に答えながら、自分の学習を振り返る、すなわちメタ認知能力を引き出すことができる。しかし、それには条件がある。教師がこの調査の意味をよくわかっていること、その意味をきちんと生徒に伝えること、この2点がなければ、ただ調査をして適当な数字が出て終わってしまうだろう。
教育はローカルなものであるといわれている。その国、その文化によって教育観も教育方法も異なる。だから、発表の中で、文化の違いを配慮する必要があり、元のMILLAのままでは日本では使えないため改良した、という話があったが、それは大切なことだと思う。さらに言えば、学校によって、教える生徒によって、何を生徒に求めるかが異なる。到達目標も異なる。このMILLAの質問紙は、各学校の教師が自分の生徒のために質問を改良し、行うべきものだと思う。そのためには、教師は自分の生徒たちの到達目標を意識し、そのためにどのような学習が必要かということについてはっきりとしたイメージを持っていなければならない。
教師が生徒に、これだけの英語力を身につけてほしい、だからこれだけ勉強しなければならないと提示し、生徒が自分はこのくらい英語ができるようになりたいから授業を利用してこのくらい勉強していきたいと考えられるような学校になると、学習の自律性ということが自ずと出てくるだろう。与えられた教科書を、教師も生徒もただこなしていく学校には、「自律性」という言葉は無縁である。
[文責:鈴木 久実]
2013年度 第3回研究会(研究報告)
日 時: 2013年7月6日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室
音声言語情報処理・自然言語処理技術・ツールの
英語教育分野における利用方法の提案
発表者: 鍔木 元 氏 [国際情報通信研究科、
国際情報通信研究センター 招聘研究員、
ものつくり大学 非常勤講師]
司会者: 山口 高嶺 氏 [早稲田大学]
【概要】
日本人英語学習者が生成する音声並びにテキストの特徴を、標記の技術・ツールを用いて、どのように抽出及び分析することが可能でしょうか。また、抽出された特徴、分析結果を、どのように英語教育にフィードバックしていくことが可能でしょうか。実際にツールを動かし、次の内容を発表しようと考えております。発表を通しまして、ご指摘、コメント等を頂けましたら、幸いです。よろしくお願い致します。
日本人英語学習者の英語音声分析
音声波形、基本周波数、フォルマントの分析
ツール:wavesurfer、praat
発話時間長、発音誤りの分析
ツール:HTK(Hidden Markov Model Toolkit)
適用事例(研究事例)紹介
日本人英語学習者の英語テキスト分析
統計的自動翻訳技術を用いた日英翻訳文の分析
ツール:(未定)
分析対象:訳語選択
非線形回帰モデルを用いた英作文の分析
ツール:v8an(JACET 8000収録)、R(統計分析フリーソフト)
適応事例(研究事例)紹介
AESOP(Asian English Speech cOrpus Project)プロジェクト
アジア言語話者の英語発話コーパスの構築と研究への応用
収集データから見る、日本語話者の英語発話の特徴
2013年度 第4回研究会(実践報告)
日 時: 2013年9月28日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室
言語使用と言語学習をつなぐための教師の仕事とは
発表者: 望月 真帆 氏 [早稲田大学本庄高等学院]
司会者: 杉内 光成 氏 [早稲田大学大学院教育学研究科]
【概要】
今回のTALKでは、Ushioda(2011)が論じたWeb 2.0時代の動機付けと教師の仕事について、参加者の皆さんと意見交換をしたいと考えています。授業シラバス作成および授業運営でのapproachにかかわる話題です。
Ushioda (2011)の概要は『英語教育』の「海外論文紹介」で竹内理氏によって紹介されています。いくつかの論点の中で特に、(1)Integrated MotivationがNS(文化)への憧れからサイバーワールドへの参加へと変化していること、(2)学習者を多様な背景を持つ発信者として見る視点が必要とされること、 (3)学習者の発信型活動と言語の学習を概念的に結びつけるのが教師の重要な仕事になること の3点に関心を持ちました。
例会前半では、Ushiodaの知見および関連する1,2の論文の知見を皆さんと共有したのち、望月が高校での英語上級者を対象に2011年度・2013年度に行った通年の授業(高校3年生選択科目)の実践報告をします。聴衆の存在を強く意識する真正のディスカッションの場を3つのマイルストーンとして計画した授業です。例会後半ではUchidaの上記(3)の点に焦点を当て、この知見を実践に移す場合どのような可能性や限界があるか、参加者の皆さまと実践例やご意見の交換をしたいと考えています。
<参考文献>
Ushioda, E. 2011. “Language learning motivation, self and identity: Current theoretical perspectives.” Computer Assisted Language Learning, 24(3), 199-210
竹内理 「SelfとIdentity: CALLと動機付け理論」(海外論文紹介)『英語教育』61巻第12号(2013年2月号)p.90
【後記】
9月のTALKは早稲田大学本庄高等学院(以下学院)の望月真帆氏による実践研究の発表であった。
前半はUshioda(2011)が論じた動機付けと教師の役割の重要性について述べたのち、学院での授業実践を発表された。望月氏は2010年度から3年選択『英語コミュニケーション(上級)』を3年間担当されており、Academic discussion skillsを身につけるという目的のもと、ポスターセッションや英語の検定教科書についてのディベート、さらに修学旅行についてグループプレゼンテーションを行なわせるなど、学習者の発信型活動を重視した授業実践を行なっている。年度の終わりには、「英語を使う機会があって良かった」や「英語を使って発表することや、意見交換するのはとても楽しい」などの感想が生徒から寄せられる。しかし、望月氏は「生徒の中で学習活動中の言語使用経験と言語学習が明確に結びついていないのではないか?」という問題提起をされた。この点に関しては、Ushioda(2011)を『英語教育』で紹介した竹内理氏が、「学習者の発信型活動と言語の学習を概念的に結びつけるのが教師の重要な仕事になること」との指摘があると紹介している。
後半は実践研究全体やその課題に関することを中心にして、活発な意見交換が行われた。議論されたトピックとして以下のものが挙げられる。
発信型活動を重視した実践の効果
英語を使う際の不安を低下させる
英語を使う目的を生徒に与える
生徒が生き生きと自分の意見を発表する
英語で意見を言うことに慣れる
Writing活動は受験にも効果的
発信型活動を重視した実践における教師の役割
言語指導をどのように行なうか
言語指導をする際の教育技術が不足している
教師の英語能力に大きく関係してくる
発信型活動を重視した実践の問題点
生徒の英語力に大きく左右される
検定教科書との両立
今回のTALKによって、望月教諭が抱かれた疑問が解決されたわけではない。しかし、生徒の英語によるコミュニケーション能力を向上させるために、私たち英語教師は何をどのようにすべきなのかを考えることは今後の英語教育のために大変有意義なことである。
[文責:杉内 光成]
2013年度 第5回研究会(講演)
日 時: 2013年10月12日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 16号館 301教室
「英語圏で外国語としてのJapaneseを教える―21世紀型言語教育を目指して」
発表者: 松田 結貴 氏 [テネシー州立メンフィス大学]
司会者: 松坂 ヒロシ 氏 [早稲田大学]
【概要】
アメリカでは、外国語として教えられている言語のうち、日本語は、受講生の数において第5位である。日本語を含む外国語教育の国家基準(National Standards)が作成されており、3つの様式、すなわち Interpersonal(相互の情報のやりとり)、Interpretive(情報の解釈)、Presentational(発表) においてコミュニケーションの力を伸ばすことが目標となっている。それぞれの目標の中身は非常に具体的に規定れており、たとえば、大学生レベルの「相互の情報のやりとり」については、口頭発表、論文発表をしたり、文学や社会問題について議論したりすることが挙げられている。
松田先生は、AP(Advanced Placement、高校生のための大学教育先取り制度)プログラム作成に関与された。AP日本語コースでは、単に文法・単語についての知識を増やすことを目的とせず、言語運用能力、コミュニケーションスキル、批判的思考分析スキルを伸ばすことを目指している。
松田先生は、しかし、APがカバーする教育内容だけでは十分ではないと考えておられる。先生が実践しておられる日本語教育は、ヴィゴツキーのZPD(Zone of proximal development、最近接発達領域)の考え方を出発点とした、社会活動参加を重視した言語習得理論に基づいている。具体的には、先生の教育の場であるメンフィスという都市の特徴を活かし、日本のビジネス・コミュニティーと地元コミュニティーとのそれぞれのニーズを対応させ、日本語学習の場を設ける、という努力をされている。日本のビジネスコミュニティのニーズは、日英通訳・翻訳できる人材の確保、日本の文化を深く理解して日本人とうまくやっていける人材の確保、地元の日本に対する理解の促進であり、また、地元コミュニティのニーズとしては、日本企業をもっと誘致したい、日本語、日本文化が学べる機会が欲しい、日英バイリンガル人材がほしいといった要望がある。そこで、先生は、こうした状況に基づき、社会とつながる教室活動を実践されている。たとえば、作文の課題をとっても、従来型の作文課題は「夏休みの思い出について書きなさい」といったものであるが、社会とつながる課題としては「メンフィスの観光局が日本人をターゲットにメンフィスをPRしたがっています。この春、日本からメンフィスにやってくる観光客に、メンフィスで何ができるかを紹介する目的で、ウェブに載せる記事を書いてください。」といったものが考えられる。
いまや、松田先生の教え子が日本語教師として活躍するようになった。松田先生が構築した日本語教育が教え子世代に受け継がれている。
(松坂記)
【後記】
松田結貴先生は、講演で、アメリカでの日本語教育を概観され、ご自身の具体的な日本語教育実践について詳しく説明して下さった。TALK会員の多くがたずさわっている英語教育においては、コミュニカティブな教室活動がひとつの眼目となっているが、松田先生がなさっている日本語教育は、そうした活動を超えて、学習者に社会活動参加型の言語活動を行わせるという先進的なものであった。
日本の英語教育、とくに学校教育におけるそれにおいては、入試への対応以外には、具体的なゴールが設定されていない。松田先生の日本語教育は、この点の改善を迫るものであった。すなわち、われわれ英語教師のタスクの設計や課題の設定に工夫の余地が大いにあること、また、教育を教室のなかに限定せず、教室の外の世界に存在している言語学習の資源を利用すべきであること、などの貴重な示唆を与えるものであった。
[文責:松坂 ヒロシ]
2013年度 第6回研究会(修士論文中間発表会)
日 時: 2013年11月16日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 14号館 6階 610教室
司会者: 小林 潤子 氏 [神奈川県立横浜南陵高等学校]
研究発表1
発表題目: 英語リズム習得におけるシャドーイングの効果
発表者: 重政 真有子 氏 [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]
研究発表2
発表題目: The effect of Graphic Organizers upon L2 reading comprehension
発表者: 紀伊 雄太 氏 [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程1年]
研究発表3
発表題目: The effect of a segment- and suprasegmental- focused teaching on perceived comprehensibity
発表者: 杉内 光成 氏 [早稲田大学大学院教育学研究科修士課程2年]
【研究発表1概要】
重政 真有子 氏
現在の中学校・高等学校における発音指導は、柴田ほか(2008)による調査の結果、「教師は音声指導自体の重要性はある程度認識しているが、音声指導は難しいものだと感じており、またこのことは実際の指導へも影響を与えている(p.55)。」と報告されたように、英語教育の大きな課題の1つとなっている。西田ほか(2010)は、このような現状の下においては、「実現可能でありかつ効率的な指導はどのようなものか(p.37)」を追求するべきだと述べている。そのため授業内で音読活動として一般的に行われているリピーティングや、近年注目され始めたシャドーイング練習により発音が向上すれば、先に述べたような問題は解消されると考えられる。
リピーティングとは「一定量の言語音声(e.g.文など)を聞いてもらい、その後十分なポーズ(pause)をあけ、その間に学習者に聴取した言語音を繰り返す(repeat)ことを求める活動」(門田,2007, p.28)と定義されている。それに対してシャドーイングは、「『耳から聞こえてくる音声に遅れないようにできるだけ即座に声に出して繰り返しながらそっとついていく』という学習法」(門田,2007, p.11)である。門田(2012)はリピーティングと比べて、シャドーングを行っている際は学習者の注意は提示される音声に常に向けられ、結果として音声知覚の自動化が達成されるのではないかと主張している。
シャドーイングが音声知覚能力に影響するのであれば、授業内でシャドーイングトレーニングを行うことは効果的かつ効率的な発音指導法になると言えるだろう。以上の仮説を元に、本研究では高校生を対象として英語リズム習得におけるシャドーイングの効果を調べた。被験者には12名の高校1年生を選び、シャドーインググループとリピーティンググループ(各6名ずつ)の2つのグループに分けた。各グループ共に1度音声のリスニングをした後に3度の音読練習を行った。練習の前後に各生徒に原稿を音読させたものを録音し、分析・比較を行った。分析にはPraatを用いて、強母音に対する弱母音の長さの割合を計算することで、トレーニング前後でのリズムの変化を調べ、シャドーイングの有効性について考察した。
【研究発表2概要】
紀伊 雄太 氏
This research investigated the effect of the use of graphic organizers (GOs) for collection of points in gist and comprehension in L2. A GO is a visual representation of the content of a text depicting (a) its discourse structure, also known as the text structure or the hierarchical text structure, i.e. a framework employed by the writer to organize the text in a coherent manner (Jiang, 2012) or (b) a more abstract structure of the information conveyed by its discourse structure. A GO can thus be used as an instructional tool that facilitates reading by providing visual and spatial representations of the text (Robinson, 1997). On the basis of the previous findings about the efficacy of discourse and information structure instruction, the effect of GOs was hypothesized in this study to improve collection of points in gist and comprehension by facilitating construction of a coherent mental model of the text.
In this research, two groups of Japanese grade 12 English learning students were given a task based on a text depicting developments of events, but not necessarily in chronological order.
One group was provided with a task intended to make the reader follow the points in the text in the order in which they are mentioned ( non-GO group); the other group was provided with a task in which the reader was made to use a GO intended to represent the information structure of the same text (GO group). Results of this study showed no statistical differences between the two groups, failing to support the aforementioned hypothesis.
【研究発表3概要】
杉内 光成 氏
This study was designed to see what effects segment- and suprasegmental-focused teaching methods have on the comprehensibility of learners’ English as perceived by their interlocutors.
These teaching methods were conducted in two classes of first-year high school students. Each class consisted of 40 students. One of the two classes was taught in a segment-focused way, and the other was taught in a suprasegmental-focused way. Phonological features dealt with were ones suggested in Amalgam of NS English (Cruttenden, 2008). The students received instruction on each phonetic item at every one of the 50-minute sessions of the class during the period of about two months. Before and after the treatment, students recorded their own English pronunciation by reading aloud a diagnostic test. These data were evaluated in terms of perceived comprehensibility on a scale of 1 to 5 by three native speakers of English.
The results show that both methods are significantly effective to enhance perceived comprehensibility, possibly because segment-focused pronunciation teaching helps reduce the number of phonological errors and, on the other hand, suprasegmental-focused teaching helps students to convey the structure of information. Also, the results indicate that although there is no significant difference between these methods, segment-focused class was more efficient than the other class in terms of effect size.
Although conclusive evidence has not been obtained, there is a possibility that specific methods of pronunciation teaching in the classroom can raise perceived comprehensibility and, specifically, segment phonemes should be taught to students with no experience of living abroad at the early stages of their pronunciation training.
2013年度 第7回研究会(TALK TIME)
日 時: 2013年12月21日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 14号館 6階 610教室
「自律的学習者を育てるためのしかけ」
話題提供者: 山口 高領 氏 [早稲田大学]
【概要】
自律的学習者を養うための工夫には、様々なものがありますが、以下のようなキーワードを、参加者のみなさまと意見を深めていけたらと考えています。「理想はそうなんだろうけど、現実的にはねえ。。。」といったところで思考停止しないよう、山口が事前に調べた資料を元に意見交換ができたらと思います。「この本は今回のTALKに関係するから読んでおくと良いよ」という山口への個人的な注文もどうぞお寄せ下さい。
キーワード:プロジェクト型学習、ティーチングポートフォリオ、
ラーニングポートフォリオ、協同学習、協働学習
【参加者後記】
今回の山口氏のご発表は、自律的学習者を育てるためのしかけとして、ご自身の授業の中でreader’s theaterを使った音読練習を報告して下さった。学習の目的や最終目標を明確にすること、グループワークをする際の適当な人数の模索、毎時間の学習の記録やfeedbackの必要性、繰り返し音読の効果など、様々な面から学習者を自律的学習者へと導く術(すべ)を探りながら授業を進めていく。中でも、感情を込めた音読練習やコーラスリーディングは先行研究が少ないため、興味深いものであった。
発表後の意見交換の中で、特筆すべき2点を挙げることができる。1点目は、reader’s theaterのような音読練習では、聞き手がどのような気持ちになって欲しいかを設定した上で音読練習をすべきであるという意見である。つまり音読の目標を明確にすべきであるということであろう。これまで私が音読練習を指導する際には、音読する文章の意味を理解した上で、個々の発音・意味の区切り・イントネーションやアクセントといったprosodyに注意を向けさせたが、聞き手の感情を設定することは考えたことがなかったので新鮮だった。2点目は、自律学習は学習形態のことではないということである。とかく、自律学習と言えば、一人で勉強することと安易に考えがちであるが、授業を受けている時でも友人と勉強している時でも、自らが考えて学習できる能力のことをいう、との指摘が興味深かった。
大学の英語授業数がかなり限定されている状態にある現在、どのような授業を提供したら学習者は自ら考えて学習してくれるのだろうか、と気持ちを新たに模索始めるよい機会になった。
[文責:小屋 多恵子]
2013年度 第8回研究会
(KLA(元FLTA)との第12回合同セッション)
日 時: 2014年2月2日(日) 14:00~17:00
場 所: 東京大学 駒場キャンパス 18号館 4階 コラボレーションルーム3
講 演 者: 湯舟 英一 氏 (TALK) [東洋大学]
発表者1: 寺沢 拓敬 氏 (KLA) [国立音楽大学非常勤講師]
発表者2: 浅利 庸子 氏 (TALK)
[早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程]
司会者: 山村 公恵 氏 (KLA) [東京大学]
【講 演 者】湯舟 英一 氏
【講演題目】音読の認知科学:理論と実践
【講演概要】
近年、外国語教育の現場では、音読やシャドーイングが盛んです。やり方によってその効果は様々ですが、認知的に一定の負荷を掛けた状態での繰り返し訓練を通して、徐々にそれら低次の処理が高速化、自動化することが、外国語運用能力の習得を助けると考えられます。当日は認知科学に基づいた効果的な外国語の習得法とそれらを可能にする e-learning 教材の幾つかをご紹介したいと思います。
Key words:
音読、シャドーイング、ワーキングメモリ、チャンク、e-learning
【参加者後記】
今回の講演「音読の認知科学」で湯舟氏は理論と実践をバランスよく発表したかったということであったが、1時間という短い時間で理論を中心に発表され、実践については配布資料をもとに質疑応答の中で補足説明という形になった。
音読の効果については様々な研究がなされているが、実践として大量音読による「黙読速度の向上(鈴木, 1998; Miyasako, 2008)」、「センター試験得点の有意な向上(鈴木, 1998; 安木, 2001)」などが紹介された。理論から見た音読の効果として、音読練習をした後は記憶力や空間認知力が20-30%向上(川島, 2003)、音読することで、学習に主体的な関わりが生まれ、エピソード記憶として経験化できる(湯舟, 2007; 2008)、などがあげられた。
実際の音読指導については、効果的なタイミングや方法は指導目的に応じて考えるべきで、その他教材の難易度やジャンルなどについても述べられたが、学習者の「動機付け」がないとどのような活動を行っても効果が期待できないので学習者という面からも考えなければ、というフロアからの声が印象に残った。
次に湯舟・山口(2013)「音読が語彙とコロケーションの記憶定着に及ぼす影響」について発表がなされた。目的は「音読」または「黙読」練習をした後に、「語彙の意味」「コロケーション」の記憶定着度に違いがあるかを調べることである。結果の中で「特定のコロケーションを学習するよう指示していないにも関わらず、チャンク単位で音読や黙読をしたことで1~3週間後に学習が成立している」、「コロケーションの潜在学習の後、黙読群で定着率が有意に落ちたのに対し、音読群では3週間経過しても定着率に有意な変化がなかった」という点が興味深かった。
後半に予定していたWeb版の教材を使ったリーディング授業、チャンク音読とシャドーイング練習を通して学ぶTOEICテストリスニング練習の話は、時間の関係で資料についての質疑応答の中で議論された。音読は効果があると誰もが考えると思うが、理論実践の両方の面から音読の効果を研究することはとても意義深い。中学高校、大学だけでなく一般社会人も外国語を学ぶ際に役に立つ有意義な講演であった。
[文責:佐藤 之美]
【発表者1】寺沢 拓敬 氏
【発表題目】『なんで英語やるの?』の戦後史 ―《国民教育》としての英語、その伝統の成立過程―
【発表概要】
現代でこそ、全中学生が外国語(英語)を学んでいる状況は自明なものだが、戦後しばらくの間は、けっして自明ではなかった。新制中学校の英語は当初「選択教科」だったからである。こうした「選択教科」の過去は、1950年代・60年代に「事実上の必修教科」へ徐々に移行することで忘却され、その結果、現代の私たちにとってごく自然な「《国民教育》としての英語」が成立したのである。しかし、英語の《国民教育》化を促したのは、社会の英語ニーズや、政府の英語教育政策、英語教員たちの働きかけなど、英語教育に関係が深い要因ではなかった。むしろ、戦後初期の「偶然の要因」の影響が大きかった。本発表では、この偶然の要因を、当時の史料・統計を総合的に検討することで明らかにする。
【参加者後記】
意外なことに、中学校で外国語が必修教科になったのは2002年の出来事である。しかし、その前から英語は事実上必修化されていた。寺沢氏は、中学校英語の事実上の必修化は(1)いつ・どのように (2)なぜ起こったのかを歴史的なアプローチを取り、実証的に検証を行なった。その研究成果を著書「なんで英語やるの?」の戦後史 __《国民教育》としての英語、その伝統の成立過程にまとめており、本発表はその著書の概要についてである。
まず、寺沢氏は英語教育の分野では馴染みの薄い歴史的アプローチの意義を説明した。このアプローチは英語教育史・英学史研究の分野で多く取り扱われており、「たくさん集めて読み漁る」のが基本的な方法論である。利点としては、過去の文献との比較により「現代の当たり前」と見なされている事象を相対化することができ、さらに実験ができない/許されない現象にも過去に先例があれば比較可能となるといった点が挙げられる。
次に、寺沢氏は《国民教育》としての英語の成立過程を以下のようににまとめた。
・1940年代―名実ともに選択科目
・1950年代―事実上の必修化。ただし、「全員が1度は学ぶ」
・1960年代―「全員が3年間学ぶ」
そして、英語の事実上の必修化は「教科の必然的な発展」のような分かりやすい要因ではなく、様々な「偶然の要因」が複合的に作用した結果として生まれたと寺沢氏は検証している。例えば、全員にニーズのない科目は必修化すべきではないという「社会の要求」が必修化阻害要因となっていたが、それがいつの間にか教養としての英語を求めるという「社会の要求」に読み替えることによって阻害要因を解消していた。このように、様々な阻害要因が何らかの形で解消されていったのではないか、と寺沢氏は考察している。最後に、必修化は、英語科にとって外在的な要因の相互作用の結果であり、偶然の産物であるとまとめた。
英語のニーズがますます大きくなる昨今において、多くの人が一度は考えるであろう「なんで英語なんてやるの?」という問い。本発表は、その疑問への答えを探るための大きな示唆を与えてくれるものであった。
[文責:杉内 光成]
【発表者2】浅利 庸子 氏
【発表題目】Reexaming corrective feedback: How, when, and to whom to provide recasts
【発表概要】
Investigation has been undertaken to explore various corrective feedback (CF) types and their roles in SLA (Second Language Acquisition). While recasts, a type of implicit CF, have been acknowledged as theoretically and pedagogically beneficial for L2 (second language) learners, some researchers have criticized them as being ineffective. They argue that the lack of clear indicators of negative evidence may lead learners to overlook the intention for correction and thus may not lead to learners’ interlanguage restructure. However, more recent research has pointed out that there are numerous factors that influence the efficiency of recasts. The real question then is not whether recasts contribute to learners’ L2 development but rather how recasts’ efficacy can be maximized. Motivated by this question, I have been conducting a line of studies to reexamine recasts and to pinpoint some of the aforementioned factors. In this regard, three factors were found to have a determining role; saliency, learners’ developmental level, and teachers’ L1 background. In my presentation, I hope to share findings that might help EFL teachers better understand 1) how recasts should be provided so that the effect of the positive and/or negative evidence in recasts can be enhanced, 2) what types of learners particularly benefit from recasts, and 3) the way in which non-native speaking teachers and native-speaking teachers provide recasts so that different strategies for providing recasts can be learned and applied more effectively to the instructional settings.
【参加者後記】
本研究の目的は「リキャストが学習者のL2習得への効果をどのようにして最大限の効果を上げるか」を研究することであり、3つの研究実験を通じて幅広い角度から発表された。なお発表は英語で行われた。
学習者の間違い(ここでは対話の中での発言)をどのように気づかせ、正しい形に直させるかという問題はどの外国語教師にとっても日々の授業の中で直面して対処している。発表ではElicit Correction, Elicitation, Clarificationなどの例が示された。その中で間接的で明示的でないリキャストは研究者によっては「理想的なツール (Long, 1996)」という意見もあれば「気づきや最公式化の不足 (Lyster, 1998; Mackey et al., 2010)」という意見もある。そこで本研究では効果があるかないかを研究するのではなく、最大限の効果をあげるにはどうしたらよいか、という点に絞ったということである。
研究1では1)成人の英会話学習に見られるリキャストの特徴、2)学習者のuptakeや修正に関するリキャストの特徴とレベル、について研究された。結果はこの研究で教師たちは「短く、部分的な、強調していない、叙述的な」リキャストを与える傾向があり、特に重要なuptakeを導く特徴は見られなかった。
研究2では「学習者が間違いをした時、どのくらいすばやくリキャストが与えられるべきか」という疑問から1)リキャストのタイミングは学習者の修正活動を決めるか、2)この能力は学習者の上達度レベルによって異なるか、という2点について研究がなされた。結果は1)初級学習者はリキャストのタイミングによる影響を受けた、2)初級学習者は間違いとリキャスト間に入る言葉が2語以上になると修正することが減る、ということであった。「学習者の言語上達度はワーキングメモリと関係している(Mackey et al., 2010)」とも合致していた。興味深かったことは中級学習者が最も修正が多かった(63 %)のに対して、初級者(51 %)と上級者(54 %)は少なかった。初級者は言語能力以上のことで余裕がなかったのに対し、上級者は「自己表現がある程度できるようになっているので修正をしなくなった(Hammond, 1998)」という先行研究から説明できるのではということであった。レベルに応じてリキャストの与え方を変えることで効果が期待できるという点で有意義な研究であったと感じた。
研究3では英語が母国語である教師(NS)と英語が母国語ではない教師(NNS)について、学習者に与える Corrective Feedback (CF) のタイプが異なるか、またリキャストの与える分量が異なるか、というリサーチクエスチョンを検証する研究であった。結果はNNSの教師はNSの教師よりも指摘しないことが多い(32.94 % と 16.07%)、NNS教師はNS教師に比べて間違いを含む訂正をすることが多かった (35.5 %, NSは2.55 %)。「間違い訂正の失敗や間違った訂正を与えることは間違いの化石化(fossilization)につながる可能性がある (Vigil and Oller, 1976)」という指摘もあった。ディスカッションでは学習者側と教師側から見たリキャストの視点が異なっていることも述べられ、視点の違いも考慮に入れることの大事さを感じた。
長期間にわたるリキャスト効果の量的研究やリキャストを与える際の教師の認知過程を活用する質的研究、学習者の上達度を定義するためのより有効で厳格な測定方法の研究などが今後の課題ということで締めくくられた。45分の発表時間の中に活発な質疑応答も含まれ、時間の延長にも気づかないくらいとても有意義な発表であった。NNSの英語教師としても、また一人の英語学習者としても日々の授業の中に役に立つ内容であったと思う。
[文責:佐藤 之美]
2013年度 第9回研究会(実践報告)
日 時: 2014年3月22日(土)17:15~19:15
会 場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 22号館 617教室
大学英語における「反転授業」の試み:文法指導とリスニング指導
発表者: 下山 幸成 氏 [東洋学園大学]
司会者: 小屋 多恵子 氏 [法政大学]
【概要】
「反転授業」とは、従来多く行われてきた授業と宿題の役割を「反転」させた授業形態であり、近年注目を集めている。授業内に説明していたことはオンライン教材として宿題にし、宿題として与えていた復習内容を教室で行う。本発表では、大学の英語授業で反転授業を取り入れるに至った背景や学習者の行動の変化に触れつつ、英文法とリスニングに関する実践例を紹介する。
【後記】
限られた授業時間数の中でいかに多くのことを効率よく学習させられるか?これは、教師が直面する永遠の課題であろう。これに対する効果的な方法として最近注目を集めているのが、今回のトピック「反転授業」である。下山氏は、「反転授業」の説明をした後、文法指導とリスニング指導における「反転授業」の実践例を報告した。
「反転授業」とは、いままで授業中に行われていた講義の部分を授業前に行い、宿題となっていた応用の部分を授業内に他の学生と共に学習することであり、昨今の技術の進歩と新しい学習形態へのニーズにより発展したMOOCs(Massive Open Online Courses:大規模公開オンライン講座)の登場から注目されているとのことである。e-Learning分野で言われるblended learningの一形態として「反転授業」が取り上げられることが多いが、下山氏は次のような定義が「反転授業」として適切であるとして紹介した。
A flipped classroom is where students receive the key instructional elements at home. Then in the classroom, they apply the knowledge. Instruction can be provided through videos, podcasts, websites, DVDs, CDs, or any other form that provides a clear instructional message. In the classroom, students work together under the guidance of the teacher in applying the instruction to complex problems.
(Educational Technology Tips – The Flipped Classroom: Teaching Strategies より引用。引用部下線は筆者による)
この定義では、指導形態は多様であり、ポッドキャストやウェブサイトを活用したものだけでなく、DVDやCDまたその他の形態でも実施できるとしている。例えば、紙媒体でもOKという解釈も可能である。これによって、最新のICT技術に詳しくなくても多くの教員が「反転授業」を実施することが可能になる。また、授業では教師の指導の下で学生が共に学習できることが指摘されている。授業でしか行えない活動と授業でこそ扱うべき内容を授業中に実施することを目的としていることがうかがえる。
次に、どのように「反転授業」を実施しているかの説明があった。文法指導では、以前授業内で行っていた説明をPDFや動画にし、スマートフォンで見てもらい、説明に基づいて和文英訳課題をすることを授業前に実施する。授業内で扱っていた説明時間を、ターゲット文を用いたスキットをペアで作成したり文脈の中でターゲットの文法項目を使ったりする時間に充てることができるようになり、スピーキング活動とリンクさせた学習をメインとする授業が展開できる。リスニング指導では、どうしても説明せざるを得ない語彙、場面設定、音声変化、チャンクとしての処理などは選択肢のあるリスニング問題としてスマートフォンで学習する。その後授業で回答結果を踏まえたスピーキング練習を中心に行う。このことにより、聞く活動から話す活動へと移行した学習が可能になる。
このように、反転授業により、学習時間をより確保し、本来の活動を授業で実施できる長所があるが、そこには考えなければならないポイントがある。何を提供するか?どのくらいの時間をかけた学習を授業外で行わせるのか?どのように学習させるのか?そして学習意欲が低い学生にどうやって授業外学習をさせるのか?特に学習の原動力となる「学びたい」という気持ちを持たせるような仕掛けづくりが重要であるとの指摘があった。
発表後に強く感じたことは、学習者にあった反転授業を考えることの重要性である。下山氏が報告した反転授業例は、比較的英語力の低い学生を対象としたものであった。そこでは、2,3分の短い時間で学習でき、授業で説明していた内容をアニメーションを利用した動画として活用することで視覚的にわかりやすく説明でき、次への活動意欲を高めるための工夫が施されていた。また、授業では説明を1回しか聞くことはできないが、動画であれば、何回でもわかるまで視聴することができるメリットがある。
下山氏は今回の報告は自分の授業を受ける学生にとっては有効であるが、同じ方法がすべての学習者に有効とは限らないと言う。英語力がある学生にとっては、内容もさることながら、もう少し長い資料や材料を提供しなければ学習への興味が削がれてしまうかもしれない。ポイントは、学習者の英語力や学習意欲によって提示するコンテンツや方法を変えなければならないということであろう。授業開始前のシラバス作成時から最終目標を念頭に授業案を練っていき、授業を実施しながらも学習者に応じて修正を加えて授業を実施したり、その前段階の授業外活動の資料を作成したりすることが更に重要であると感じた。
さらに、忙しい教師はいかにたくさんの授業外資料を作成できるか?どのように学習意欲を高める効果的な資料を作成できるか?学習意欲の低い学生をいかに授業外学習に取り組ませるか?どこまで教師が手をかけて資料を作成すべきか?自主的に学習する習慣形成を損ねることにならないのか?効果的なweb教材やvideo教材をいかに簡単に作成することができるか?など様々な疑問が考えられる。反転授業という形態を効果的に活用するには、あとは教師が悩みながら学習者に合わせて準備し作りこむしかない。whatとhowに焦点を当てて、ひとまずやってみてはどうか。
[文責:小屋 多恵子]