日 時:2020年7月25日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

話題提供者1:久保岳夫(開成学園)

テーマ:LMSを使ったオンライン授業実践報告:中学校,大学での例
   
話題提供者2:残間 紀美子(東京都立富士高等学校)

テーマ:リモート授業実践報告~オンライン・オフラインでの工夫~公立中学校,高校での例

司 会:浅利 庸子(早稲田大学)


【概 要】


1. 久保岳夫 氏

コロナ禍の中でLMSを活用しながら手探りで実践してきた授業実践の一部をご紹介します。Learnning Management System(LMS)には様々なものがありますが,Google社が教育機関に無償で提供しているG suite for Educationのサービスを使った中学校,大学における取り組みについてお話しします。また,zoomビデオ会議システムを使った授業動画作成やライブ授業の実践例についてもお話しします。

2. 残間 紀美子 氏

今年度当初から、新型コロナ感染症の拡大により突然の旧交を余儀なくされた学校現場において、休校が解かれるまでの2か月間、勤務校(都立高校)で生徒の学びを継続させるために行った試行錯誤を振り返り、そこから繋げてきた教育実践の現在の状況までをご報告します。オンラインやオンデマンドを用いた授業の工夫、今後のブレンディング授業への可能性等について、皆様と意見交換ができればと考えています。さらに、コロナ禍だからこそ実現した外部機関との連携によるプロジェクト型の教育実践とその可能性についてもご紹介いたします。


【参加者後記】

久保さんはICTの活用の経験と関心が深く、視聴覚メディアの特長を深く探究して、それぞれの年齢層の学習スタイル、生徒・学生のICT環境やメディアリテラシーを考慮に入れた授業を2020年4月から展開した。各メディアを思い切り活用しながら、学習者が事前→授業中→事後に取り組むべきことを明確に提示し、質の高い学習の機会を迅速に提供された見事な実践例だった。今後の課題として、学習者(特に中高生)にメディアリテラシーとモラルを徹底して教える機会を設けてオンライン学習に安心して取り組めるようにすること、および定期考査の平等性を高めるための検討継続が重要との提言をいただいた。

「ほんっとうに大変でした!」で始まった残間さんの発表は、3月から7月までのご勤務校での状況を活写するものだった。学びを止めてはいけない、の一念で先生方が個々でできることから動き出したこと、次々に出てくる課題に精一杯対応し続ける「カオス」の中で、先生方の情報共有や学び合い、ICT環境整備が急ピッチで進んだことを具体的に語っていただいた。発表の中で言及されるLMSや学習支援サイトの多様さも印象的だったが、それ以上に個々の生徒の心身の健康状態や家庭の状況を細かく見守り、様々なコミュニケーションの手段(対面、LMSでのやりとり、従来型の「宿題」、オンデマンド授業、ライブ配信授業、登校日の確認テスト)を組み合わせるようになっていった経緯が圧巻だった。個々の教師の試みから学校全体の試みに広がったアクションリサーチと呼んでもいいだろう。従来の授業の質を維持するだけでなく、今までは会えなかった人ともオンラインで「会える」という発想の実践も紹介された。個々の生徒の状況に注意を払い、それぞれの生徒の学習が続くように支援を継続することが教師と学校のミッションだということを再認識させられるお話だった。

発表後の意見交換では、長期の自習に適応できる力の個人差、学習内容の定着への懸念、前例のない授業づくりのためのワークロードが話題となった。学習者の自習への適応の個人差とオンライン授業への対応力の個人差は、各教育機関で継続して注目していくべき課題の一つと感じた。また今年度後半はテストの実施方法や成績算出で、実施方法や公平性の担保の工夫が大きな課題となってくる。参加者の事後コメントでも、試験や評価の方法を例会で扱ってはどうかというアイデアもいただいた。

TALKでは例年通り4月下旬に2020年度第1回の企画を進めていたが、1会場に集っての例会が実施できなくなった。7月にオンラインでの第1回例会となったが、海外を含めた各地から18名の会員が参加された。スクリーンの中だけとはいえ、距離を問わずに「会って」話ができる嬉しさは大きい。当面はオンライン開催となるが、豊かなtalkingができる運営の工夫を続けていきたい。


<久保岳夫氏の発表内容>

Ⅰ 大学1年生対象の実践例

背景:春学期は対面15回から12回のオンライン講義に変更になった。

対象:40名強×2クラス、週1回

内容:TOFEL ITP対策 (Reading, Listening, Grammar)

授業方法とツール:オンデマンドの演習2回、オンライン・ライブ授業10回

– LMS:Google Classroom(事前・事後に教材や動画を配信)

– ライブ授業:Zoom

– 事後課題(単語テスト、英文和訳、アンケート等):Googleフォーム

授業実践:

①オンデマンドの演習:動画(1時間弱)で演習問題の解説、事後課題

②ライブ授業:グループワークはZoomのBreakout roomsで実施。

 演習問題の解答確認(グループワーク)→教員による解説→指名してグループの回答を共有 →事後課題(各自)

Ⅱ 中学校3年生での実践例

背景:学年や教科によって状況が異なるが、中3生には4月から可能な限りオンライン・ライブ授業を提供することになった。3月から教員同士の任意の研修、オンライン始業式、2週間の慣らし期間を経て4月20日から本格的にオンライン授業を開始。

対象:中学3年生全員(約300名)一斉授業、週1回

内容:ネット上の動画教材を活用したリスニング、語彙、文法の力の向上

授業方法とツール:オンライン・ライブ授業(50分)

– LMS: Google Classroom (事前に教材や動画を配信)使用、

– ライブ授業:Zoom

– 動画サイト:the Dodo, storyline online (英語の絵本の朗読動画)

– 事前「学習セット(語彙、文法)」:Quizlet およびワークシート

– 事後の確認クイズ: Kahoot!

授業実践:

①事前配信:動画のURL、ワークシート、Quizletで作成した「学習セット」を配信し、自力でも英語動画の聞き取りができるように学習を支援する。

②授業内:動画を一緒に鑑賞、ワークシートの解説

③授業後:Kahoot!で確認クイズ。個々の得点がスコアボードに表示される。

④中間考査:Google フォームで実施。リスニングテスト含む。


<残間紀美子氏の発表内容>

Ⅰ 突然の一斉休校指示と緊急対応

3月から新年度開始まで:生徒への課題配布と指示

– 春休みの課題ハンドアウトを配布

– 新年度の教科書販売はできた

– 始業式に新学年の課題ハンドアウトを配布、Classiを定期的に見るように指示

新年度開式期の試行錯誤:生徒の様子を把握し、学びを止めないために

– 生徒のICT環境調査実施

– 毎日の健康調査と生活状況のアンケート配信:Classi

– 学習継続のための都からの指示:スタディサプリ

– 校内での様々な試み:Zoom、 Edmode、 YouTube等を試行

Ⅱ 新たな課題への対応

– 学年や担当教員間で授業実施状況にばらつき

– 生徒のICT使用状況のばらつき。自宅で家族全員がネットを使って勤務や受講をしている家庭も。

– 新入生がICTに不慣れ

– 各種アプリやLMSのリスク

– 担任の日々の業務量が急増

対応①:教科書、問題集、デジタル教材、LMSの長所を組み合わせた対応

– 問題集の解答は配布して活用

– LMS配信で生活習慣維持、生徒とのコミュニケーション維持

対応②:授業をオンラインで配信

– Zoomを使ったライブ授業(参加可能だった生徒は限定的)

– ライブ授業を録画し、YouTubeで限定公開(オンデマンド教材化)

– オンデマンド教材を視聴した後に確認テスト実施(休校解除後)

対応③:普段の授業のスタイルでオンライン授業

– explanation, oral drills, shadowing, worksheet

– teachers’ presentations using the white board in the classroom

対応④:学校および都の支援

– Zoom使用申請

– YouTube学校限定チャンネル開設、動画配信

– Teamsの導入

Ⅲ 教員の「学びを止めない」努力がもたらしたもの

– 個々の教員の試行錯誤でスタートしたが、学ぶ機会の提供を絶対に止めないという意思は共通だった。「動画作成委員会」が発足するなど、次第に学校全体がチームとして動くようになった。

– 自主学習を支援できるような教材と配信方法の工夫が進んだ。

– 反転授業の合理化と効率化が進んだ。

– ICT活用への教員の意識が変わった。動画、外部の学習コンテンツも活用された。

– オンラインで世界各地と接続できる状況を生かし、著名人の講演会も実施した。

– 海外大学の講義やSTEM Projectsなど、外部団体による高度な学習活動に参加する生徒もいた。

– 納得のいく授業準備に時間を費やせたのは良かったと言える。

<意見交換>

1 継続的な自習への取り組みは生徒間で個人差があるように感じるが、どうか。

– 個人差は明らかにあった。

– 課題を出す際は、習熟度が中央集団からかなり離れている生徒たちでも意欲的に取り組めるように工夫した。

– より手厚いサポートが必要な生徒の存在を事前に想定して、必須の課題は全員がこなすようフォローした。

– 大学のe-learning course場合は、単位取得のthe minimum requirementを明示した。

– 動画の授業は、最初は関心を引くが慣れると飽きてくる。オンデマンドの方が工夫次第でよく取り組んでくれた。

– つまずいている学習者には補習をした(中学・高校では対面、大学ではTAによるオンライン補習)。ライブ授業終了後に希望する学生対象に、自由に話せる時間を作ったら好評だった。

– 中学・高校での期末考査の結果では、例年の1学期の到達度よりも低めで学習者間の到達度の開きも大きい。特に1年生にその傾向が強い。

2 Blendedの授業で、対面とオンラインをどう組み合わせたか。

– 各学年の担当教員が(クラス・グループごとの)対面とオンライン授業のスケジュールを組んでくれた。

– インプットはオンラインまたは自習、確認と練習は対面で実施した。

3 この期間のワークロードはどうだったか。

– 勤務校指定のLMSの機能を短期間で把握するためにかなり睡眠時間を削った。

– 自宅勤務期間中、パソコンから終日離れられなかった。

– 教材の配信は夜間の方がスムーズなので、毎日夜半まで作業をした。

– 休校期間中は部活指導も休みになり通勤もなく、大変ではあったが授業づくりのためにとことん時間を使うことができた。

(文責:望月眞帆)