2024年度 第1回研究会 【 トークタイム 】

日 時:2024年5月11日(土) 

    TALK総会  :17:00 – 17:10

    第1回研究会:17:15 – 19:00

会 場:ハイブリッド開催(早稲田大学早稲田キャンパス3号館710教室,及び,Zoom)

コーディネーター:山口 高領(秀明大学)、望月 眞帆 (早稲田大学本庄高等学院)

テーマ:L2リスニング指導の理論と実践 ー意見交換Part 2ー

概要:教育現場でカジュアルに交わされる「リスニングをやらせている」という言葉は、実は多様な目的や手段を包括しているのではないでしょうか。

たとえば、中学や高校などで同じ科目を担当する教員間で交わされるなにげない会話、

A:「1単元あたりのコマ数足りないですよねー。教科書のこの部分使っていますか?」
B:「そこはリスニングでやらせています。でも練習問題のパートは宿題にしちゃいました。」

のBさんのセリフ部分は、「リスニング活動」であっても本当のターゲット・アプローチ・outcomeは多様と思われます。

今回の研究会ではこの点をみなさんでshare & reviewし、「L2リスニング指導の理論と実践」について改めて意見交換をしてみようと考え、TALK TIMEとして企画いたしました。前半ではTALK役員の数人の話題提供者から、以下の5点を軸に実践報告をいたします。 

①リスニング活動の目的 
②対象学習者
③対象授業および時間帯
④一番紹介したい点(内容、工夫など)
⑤学習者の反応、または学習者の変化など

後半はTALK TIMEならではの、ご参加のみなさんとの意見交換の場です。話題提供者の実践に対するコメントや、ご自身または英語教育に携わる方々の実践例について、大いにご発言ください。

みなさまとのディスカッションを楽しみにしております。

【司会者後記】
「リスニングをやらせている」の内容が年間のシラバスデザインから特定のリスニングスキルに焦点を当てたスモールステップまでの多岐にわたることを再認識したTALK TIMEとなった。山口さんが日頃実践しているリスニング活動は、小学校教員養成という目的が明確な講座で、近い将来に教壇に立つ学習者が自信を持って英語らしい発話ができる力ができるためのインプットである。久保さんからは、ディクテーション活動を通じて上級の学習者がAccuracyをさらに磨く講座のシラバスデザインの報告があった。学習体験を今後の自主学習でも活かしてほしいという願いのこもった講座の作り方が紹介された。望月は、山口さんと久保さんが授業内で実践されている段階的支援を、高校生対象に更に細分化させた工夫の例を紹介した。3つの報告の要点は後述する。

3人の話題提供のあとのディスカッションでは、参加者の方々からリスニング活動とアウトプット活動をつなげる実践例や中学生対象の段階的支援の例などのご紹介があった。

◆報告者1:山口高領
①リスニング活動の目的:
(1)文字に頼らず音声のみから聞く体験の充実。
(2)小学校の授業での教師の英語発話に最終的につながるインプット活動

  • 音声面:発話の強弱のリズム・イントネーション・音の連結が英語らしいものになるように。
  • パフォーマンス:自分の話し方やジェスチャーをコントロールしつつ児童の様子を観察できるまでの自信と余裕をもてるようになってほしい。

②対象学習者:教員養成課程の大学学部生(1年生から3年生がほとんど)。
③対象授業および時間帯:「初等英語科教育法」(小学校免許に必要な科目)の毎回の授業
④一番紹介したい点(内容、工夫など):

  • 教材:使用教科書にある、小学校の教室での先生と児童との対話。
  • 工夫:学習者がリスニング活動に飽きないようにねらいと活動内容を多様にする。
  • 活動内容:教科書準拠のCD音声のリスニング、教師からの発問や英語発話の実演、ペア練習(ロールプレイ)、小学校教師の「なりきり」練習等。

⑤学習者の反応、または学習者の変化など:
英語力自体が大きく上がっているとは思えないが、学習者は楽しそうに意欲的に取り組んでいる。

◆報告者2:久保岳夫

聞き取り中心の授業作り−TED-Edを活用した授業−

①リスニング活動の目的:
(1)TED-Edの細部まで正確に聞き取る学習体験を積むことで、この方法の長所を理解し英語の自主学習の際に活用する力をつける。
(2)正確な聞き取りには音声の知識・語法・文法・文脈の知識すべてが必要であることを体得する。
(3)授業での「正確な聞き取り」は正確なディクテーションができるレベルを達成目標とする。

②対象学習者:大学生の「英語上級コミュニケーション」受講生30人
③対象授業および時間帯:14回の授業。うちTED-Edのリスニング活動は8回
④一番紹介したい点(内容、工夫など):

  • 1回の授業のメインのリスニング活動はディクテーション(各自で20〜30分)。
  • ディクテーションをさせる部分は6箇所で、すべて文レベル。
  • ディスカッションタイムを段階ごとに設定し、自力で「解答」にたどり着けるよう計画する。
  • 段階ごとに「正確な聞き取り」のためのヒントを出して支援。最後に語法や音声の特徴などを解説。
  • 最後の4回の授業はグループプレゼンテーションに充て、自分が興味を持ったアカデミックトピックについて既習事項を活かしながら英語で説明させる。

◆報告3:望月眞帆

①リスニング活動の目的:
(1)各単元のテーマおよび主要表現を音声で導入する(教科書準拠の活動)。
(2)Gist Listeningで文脈概要を把握させ、Detailed Listeningで主要表現に触れさせる。

②対象学習者:高校1〜3年生 約40人の普通クラス
③対象授業および時間帯:高校必修科目「論理・表現」Ⅰ〜Ⅲ 各単元のテーマおよび主要表現の導入時④一番紹介したい点(内容、工夫など):
教科書では新しい話題の導入時は対話形式のリスニング教材が用意されている。対話自体は内容も表現も緻密に工夫された良いものであり、教師用のデジタル教材(PPTスライド)もすぐに授業で使えるようになっている。しかしListening skillsを育てる観点から見ると、指示は“Listening for gist”とあっても教科書とスライド上ではキーワードを数カ所の空欄に書き取らせる活動 (Listening for detail)として提示されている。

1ラウンド目のGist listeningでは学習者が概要把握に集中できるように、スライドを編集してメインポイントに関する包括的な問い( “Where did they go?” / “Does Speaker 1 like her job?”など)を2つのみ記載した。次のラウンドはDetailed Listeningとし、既製のスライドを使った。リスニングのラウンドごとにペアで話す時間をとり、把握したことを相互で確認させながら進めた。

⑤学習者の反応、または学習者の変化など:
既製のままの教材では学習者は空欄を埋めることのみに集中し、習熟度の低い生徒は「わからない」と言って取り組みを最初から放棄する様子も見られた。Gist Listening とDetailed Listeningを明確に分けると、相互確認のやり取りが「教え合い」として機能する様子が見られた。(文責 望月眞帆)


2024年度 第2回研究会 【 講演会 】

日 時:2024年7月6日(土)17:15〜19:00    

会 場:ハイブリッド開催:早稲田大学早稲田キャンパス3号館710教室,及び,Zoom 
             (早大正門から入り、右手にある2番目の校舎)

発表者:鬼頭 和也 氏(国際基督教大学)

テーマ:知の共有を可能にするナレッジベースアプリを用いたリーディング指導

司 会:久保 岳夫 氏(国際基督教大学)

概 要:リベラルアーツ教育において、リーディング指導に携わる教員は多くの課題に直面していると思います。本発表では、実践的な授業準備する際のステップと授業での活用例を紹介し、ナレッジベースアプリの活用を提案します。近年、海外の研究者は、リンクベースのメモアプリを用いて知識の蓄積、管理、そしてアウトプットにつなげる試みを行っています。このアプローチを応用して、教員の授業準備から授業中の実践に至るまで、創造的な知の共有と発展を可能にすると考えています。デジタルホワイトボードのように活用しつつ、発展的な知の再利用が期待できます。このようなアプリを活用したリーディング指導における将来的な可能性について考察します。

【司会者後記】
本発表では,リベラルアーツ教育における英語リーディング指導の一環として発表者が活用しているObsidian,Google NotebookLMと呼ばれる2つのナレッジベースアプリの利用方法が具体的に紹介された。発表者が所属するリベラルアーツ英語プログラムでは,すべての授業が英語で行われ,予習ベースの反転型のリーディング授業が行われている。授業は基本的に学生間でのディスカッションを中心に行われるため,教員はディスカッションを促し,話し合いの結果をまとめていくことが求められている。本発表で紹介されたナレッジベースアプリは,提示されている情報を流動的に展開できるので,ディスカッションを終えたばかりの学生にとって直感的に内容の展開を追いやすいものになっていると感じた。板書やスライドなどを使う伝統的なやり方に慣れている教員にとっても,より効果的な情報の提示方法とは何かという問に向き合うよい機会となる発表だったのではないかと思われる。(文責:久保 岳夫)


2024年度 夏合宿【 輪読会・ワークショップ 】

日 時:2024年8月31日(土) 10:00 – 16:00 

会 場:早稲田大学早稲田キャンパス 11号館504教室

課題図書: 『議論学への招待―建設的なコミュニケーションのために 』 フランス・H・ファン・エイムレン,  A・フランシスカ・スヌック・ヘンケマンス (著)、松坂ヒロシ, 鈴木健 (翻訳) 2018.大修館書店.

【タイムテーブル】

10:00〜10:50 :1章〜5章

10:50〜11:10 : Coffee Break

11:10〜12:00 : 6章〜10章

12:00〜13:30 : Lunch Break

13:30〜15:30 : 松坂ヒロシ先生によるワークショップ

15:30〜16:00 : 片付け・撤収

【参加者後記】
 Amazonのレビューには、「教育的効果の高い論証重視型ディベートのテキストがほとんど出版されていない中、本書は貴重な道しるべであり、学生にとっても教員にとっても最適な良書」とあります。まさにそう感じました。
 私がさらに驚いたのは、原著者が、従来の単純化された議論構造の紹介をするだけでなく、現実社会での議論のはじまりから終わりまでを射程に入れているその網羅性でした。わたしたちは実社会で議論を立ち上げることや終えることに躊躇うことがあります。本年度の夏合宿では、こうした点まで考えるためのヒントを与えてくれる本書に出会えました。(文責:山口高領)


2024年度 第3回研究会 【 講演会 】

日 時:2024年9月28日(土)17:15〜19:00

会 場:ハイブリッド開催  早稲田大学早稲田キャンパス3号館605教室,及びZoom
    (早大正門から入り、右手にある2番目の校舎)

発表者:西村 秀之 氏(玉川大学教育学研究科 教職専攻 准教授)

テーマ:「児童生徒の自己表現力を育む5ラウンドシステムの英語授業」

司 会:中村 優香 氏(玉川学園教諭)

【概 要】第二言語習得理論などを踏まえ考案された、教科書を1年で5回繰り返す「5ラウンドシステム」についてお話します。横浜の公立中学校で始められた取り組みが現在では把握しているだけでも全国で100校を超える小中高等学校で実践されるまでになっています。今回は、各ラウンドの展開やウォームアップの活動など授業の具体についてワークショップ形式で体験してもらうと共に、現在行われている実践からその成果についても例示しながら、参加者の皆さんと授業改善について考えていきたいと思います。

【司会者後記】
 本講演では、玉川大学の西村先生に、横浜市の公立中学校で英語教員としてご勤務されていた際に編み出された「5ラウンドシステム」の英語授業についてお話しいただきました。
 西村先生は、「中学3年生になったら自分の思いや考えを自分の言葉で語れる生徒を育成したい」という目標のもと、第二言語習得理論に基づき、言語材料に何度も触れられるスパイラル型の学習を実践したいという思いから、このシステムを考案されたそうです。
 5ラウンドシステムの授業は、最初に15~20分の「帯活動」を行い、その後30~35分かけて教科書の学習を進める構成となっています。後者の活動は、音声のみの内容理解、複数のリスニング活動、さまざまな形態の音読活動、そしてリテリングといった緻密なプロセスに分かれています。
 このシステムのポイントは、児童生徒が最大限英語を活用し、意味のある繰り返しを行うことにあります。さらに、「生徒の活動量を増やす」という、教員の役割に関する発想の転換も重要な点として挙げられました。
 また、帯活動では、生徒と教師がチャットやスモールトークを積み重ねることで、最終的には生徒たちが「話したことを書く」力を育むプロセスが説明されました。
 講演を通じて、西村先生の生徒たちへの熱い思いが、5ラウンドシステムの根底にあることが伝わってきました。現在、このシステムは多くの学校で採用されていますが、今後は他の学校での実践についてもお話を伺い、生徒たちの英語力がどのように伸びているのか知る機会があればと感じました。(文責:中村 優香)


2024年度   第4回研究会 【 読書会 】

日 時:2024年12月21日(土)17:15〜19:00
       
会 場:ハイブリッド開催
    早稲田大学早稲田キャンパス3号館605教室, 及び,Zoom
    (早大正門から入り、右手にある2番目の校舎)

課題図書:Erlam, R., Philp, J., & Feick, D. (2021). Teaching Languages to Adolescent Learners: From Theory to Practice. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781108869812
 https://www.cambridge.org/core/books/teaching-languages-to-adolescent-learners/2FEB18731CA4356C04A21D9F58584F71

進行役:望月 眞帆(早稲田大学本庄高等学院 教諭)
      
概 要:今回の輪読会ではChapter FourとChapter Sixを取り上げ、それぞれの要旨を踏まえて
ご参加のみなさんと意見交換をしていきたいと思います。

■Chapter Four “Opportunities for Language Output”
 PDFでは pp.64-88
Introduction
The Importance of Output
The Benefits of Output
Pushed Output
Communicating with Language Output
Supporting the Learner
Supporting Students to Write as Well as Speak
Scaffolding Learners to Communicative Success

■Chapter Six “A Place for Practice in the Language Classroom”
 PDFでは pp.113-134
Introduction
Why Practice?
How to Practice?
[1 Mechanical Drills 2 Meaningful Practice 3 Communicative Practice]
Ortega’s Optimal Practice
And What Did the Students Think?

【参加者後記】
Teaching Languages to Adolescent Learners: From Theory to Practiceの2回目の読書会は、この本の秀逸さを改めて認識する会ともなった。表現は平易ながら外国語学習の基本的な知識の再確認がしやすい構成で編集されており、特にオンライン版は引用文献の情報にも簡単に参照できる作りになっている。また、タイトルにもあるようにAdolescent Learnersの心理や人間関係の機微への配慮が要所要所で言及され、教室内の「あるある」事例も思い起こさせられる読書体験ができる本である。

今回の輪読で扱ったChapter 4とChapter 6の概要を、3人のコメンテーターの発表内容に沿って以下に整理する。

◆ Chapter 4 “Opportunities for Language Output” 概要 (発表担当:久保岳夫さん、山口高領さん)

この章ではNation’s (2007) バランスの良い授業が備えるべき4つのStrandsのうち、Meaning-focused outputに焦点を当てる。

Outputは、伝えたい内容と自分が使える言葉とのギャップに気付き、試しに何とか表現してみること体験となることで、言語習得上では重要なステップになる。また、学習者の潜在能力への信頼をおいて行うPushed Outputは、今使えるレベルよりやや高めの発話をするよう仕向け(られ)ることで能力向上のために効果があるとされる。ただし、特に思春期の学習者に対しては情意面の配慮が欠かせない。安心してOutputができる環境を整え、個々の興味関心や知識を活用しつつ学習コミュニティの良き人間関係構築にも利するように、教師は授業を運営していく必要がある。授業作りでは学習内容やタスクが足場架けのプロセスとなるように吟味するだけでなく、授業内の教師と学習者間のやり取りそのものが学びを促進させることも理解して計画する。授業中は相手の発言にしっかり関心を払い、対話が続くように励ましつつ必要なフィードバックを与えることで、Outputから得られる学びが充実していく。

◆Chapter 6 “A Place for Practice in the Language Classroom” 概要 (発表担当:湯舟英一さん)

 この章では授業内のPracticeの重要性について “Why practice? How to practice? How much practice?”の3つの基本に沿って吟味する。特にEFLの環境下では教室外では機会が乏しいspeakingの練習に焦点を当てる。

 Practiceは学習者が、自分が使っている言葉を理解している時に最も効果が高まる。従って練習内容は学習者の既習事項を扱うべきであり、また思春期の学習者には協働しながら学べるやり取り練習が推奨される。PracticeにはMechanical Drills(発音や動詞の変化など、特定の形になじむための反復練習), Meaningful Practice (L2でやりとりされる内容をきちんと理解することで成立する練習), Communicative Practice (パートナーとの知識のギャップを発見し意味交渉を行う練習)がある。Meaningful PracticeとCommunicative Practiceが学習項目に習熟し使いこなしていくためには有効だが、Mechanical Drillsも特定の項目に焦点を当てたものであれば行う価値がある。Fluencyを向上させるPracticeも授業内で一定時間確保されるべきで、Nation (2007)は授業時間の4分の1を使うことを推奨している。

要旨発表後のディスカッションタイムには、学習者の発話を支援する工夫の例として山口さんと参加者の三村修さんから話題提供があった。山口さんは「初等英語科教育法」で扱われている教師と児童の対話サンプルから、教師が文の途中まで言って児童の発話を引き出し、児童が表現できたらほめるシーンを紹介された。三村さんは学習者間の対話を支援する自作教材を2点紹介・共有された。『いつどこでだれと何を』では学生の日々の生活に密着した話題と表現を意味チャンクごとに日英対訳でリストにしてある。『Reflecting on the school festival』では学園祭の振り返りをテーマにした表現活動で使えるように、具体的な例文(「家庭クラブが体育館でドーナツを販売した」「来場者に対して、写真や動画の撮影とデータの取り扱い方について、アナウンスがあった」など)を文法項目ごとに例示されている。

 Teaching Languages to Adolescent Learners: From Theory to Practiceの各章の末尾にはReflection and Discussionと題した質問のリストが用意されている。このリストの問いのいくつかを取り上げるだけでも1回の勉強会が企画できる問いである。この本は折々に読み返したい。(文責 望月眞帆)


2024年度   第5回研究会 【 講演会 】

日 時:2025年1月11日(土)17:15〜19:00
       
会 場:ハイブリッド開催
    早稲田大学早稲田キャンパス3号館703教室, 及び,Zoom
    (早大正門から入り、右手にある2番目の校舎)

発表者:高路 善章 氏(下関市立大学元教授)

テーマ:私と英作文 ー 半世紀の学習、指導、研究から得られたもの

司 会:山口 高領 氏(秀明大学)

概 要:私は英語の学習者として半世紀、指導者、研究者として三十年以上、英語と関わってきましたが、三月末で大学を定年退職いたしました。この間に学んだこと、気づいたことなどを、自分が専門にして来た「英語で書く」ということを中心に、お話しできればと考えています。若い先生方に多少なりともヒントとなるようなことがあればうれしく思います。具体的には、私が行ってきた授業実践、その成果の評価に用いたテキスト分析の方法、よりよい書き手に関する考察などをご紹介できればと思います。また、最近、自分自身が英語で韻文(俳句)を書くということに挑戦しており、長年、自分が英語作文学習者として身につけて来たgenre knowledgeを、俳句の作成のプロセスにも応用していることに気がつきました。さらには、俳句の背後に存在するintertextuality (間テクスト性)が、散文としての英作文だけでなく、あらゆる分野の作文の習得に深くかかわることも実感しています。このような気づきについてもお話しできればと思います。


【司会者後記】 
 高路先生は、留学される前に田辺先生にご相談をした経緯から、長らくTALK会員でいらっしゃいました。退職を機に会員を卒業されましたが、先日はお話をいただける機会を得られました。
 特に印象に残ったのは、L2 WritingのFocusの変遷です。Hyland (2003)に基づき、6つのFocusをご紹介されました。それらは、Language structure、Text function、Creative expression、Writing process、Content、Genreです。そのうち、Creative expressionとContent以外について教育では中心に行ってきたそうです。
 講演の後半では、近年取り組まれている英語俳句のお話を頂きました。このお話を通じて、高路先生がcreativeな表現者であると感じました。
 英語教育でのwritingは、「授業だから仕方なく参加」という学習者も少なくないと感じます。上手な教師は学習者を鼓舞し、意欲を高めると考えます。6つのfocusはそのための視点であると感じました。
Reference
Hyland, K. (2003). Second Language Writing. Cambridge: Cambridge University Press.
 なお、高路先生のTALKでの論文(Dialogue No.8)は、以下でご覧になれます。
https://talk-waseda.net/past-dialogue/
(文責:山口高領)


2024年度   第6回研究会 【 講演会 】

日 時:2025年3月29日(土)17:15〜19:00     

会 場:ハイブリッド開催

    早稲田大学早稲田キャンパス3号館606教室, 及び,Zoom

    (早大正門から入り、右手にある2番目の校舎)

発表者:千葉 菜穂子 氏(杉並区立井荻中学校)

テーマ:Reflection on Learning in Student Speech Instruction: Through Review Sheets

司 会:肥田 和樹 氏(秀明大学)

発表言語:英語 質疑応答:日本語

【概 要】This study reports on English speech instruction at a public junior high school, guided by the principles of Proactive, Interactive, and Deep Learning outlined in the national curriculum guidelines. Research has highlighted challenges in developing speaking skills in Japanese junior high schools, including limited opportunities for speaking, lack of confidence, and excessive concern over mistakes (Oka, 1996; Kaneko, 2004; Izumi, 2016). Despite instruction on linguistic knowledge, practices often prioritize accuracy over practical communication, resulting in limited effects on motivation and confidence (Sugita, 2021). This study aimed to explore how self-reflection and collaborative dialogue could enhance students’ speaking skills. Over the course of five lessons, students created 40-second speeches about memories from the past three years. Data were collected through reflection sheets completed by students in each lesson, providing insights into their progress and peer learning experiences. The analysis suggested that students engaged in self-reflection and incorporated collaborative feedback, which deepened their understanding of and approach to speech. The findings suggest that integrated, student-centered speech instruction, aligned with the goals of Proactive, Interactive, and Deep Learning, can help students confidently deliver speeches in a loud and clear voice by repeatedly practicing in front of their peers and exchanging opinions with one another.

Keywords:  English speech instruction, self-reflection, collaborative dialogue, junior high school, Proactive Learning, Interactive Learning, Deep Learning

【司会者後記】
今回の例会では、杉並区立井荻中学校の千葉菜穂子先生をお迎えし、「Reflection on Learning in Student Speech Instruction: Through Review Sheets」と題して、公立中学校における英語スピーチ指導の実践についてご報告いただきました。

ご発表では、「主体的・対話的で深い学び」の理念に基づき、生徒が過去3年間の思い出を題材に40秒間のスピーチを構築していく5時間の授業実践が紹介されました。特に印象的だったのは、各回のリフレクションシートを通して、生徒が自らの学びを振り返り、仲間からのフィードバックを積極的に取り入れる姿でした。スピーチ活動が単なる言語運用の訓練にとどまらず、自他との対話を通じた内省的な学びの場となっていたことが丁寧に描かれていました。

「声が大きく、はっきり話せるようになった」「自信をもって発表できた」といった生徒の言葉からは、反復練習と仲間との協働が、言語面のみならず感情面にも良い影響を及ぼしていることがうかがえました。スピーキング指導において課題とされてきた「自信の欠如」や「間違いへの恐れ」に対して、千葉先生の実践は、実際の生徒の声をもとに、有効な一手を提示してくださったように思います。

質疑応答では、参加者から多くの問いや共感が寄せられ、参加者それぞれの現場と照らし合わせながらの深い対話が展開されました。実践を通して見えてきた課題と手応え、その双方を丁寧に共有いただいたことで、参加者一人ひとりにとっても、これからの授業を見つめ直す大きなヒントとなったのではないでしょうか。

改めまして、貴重な実践をご報告くださった千葉先生、そして全国からご参加いただいた皆さまに、心より感謝申し上げます。【文責:肥田和樹】