2023年度 第1回研究会 【講演】

日 時:2023年4月15日(土) 17:15 – 19:00

会 場:オンラインZOOM開催

発表者:倉林 秀男 氏(杏林大学)

テーマ:「文学作品を教材として何を学ぶのか?」

講演言語:日本語

司 会:久保 岳夫 氏(開成学園)

 当り前のことかもしれませんが、私たち英語を教える者は普段から「面白い」と思ったり「難しい」と感じたりしながら英語に触れていくことが何よりも大切なことだと考えています。本発表では、英語はこうやって教えなければならない、教師たるものかくあるべし、多読・精読が重要だという方向には進まず、英語に向き合うことの楽しさや苦しさ(わからないことだらけ)をみなさまと共有させていただきたいと思っています。
 そこで、文学作品を言語学的な観点から捉え、英語文体論の知見から「言えること」と「言えないこと」を時間のある限り示しながら、英語(というよりも言語)の奥深さと脱出不可能な迷宮に入り込んでいきます。迷宮の闇を照らし出す一筋の明かりを求めて苦悩しながらも、愉しんでいる一学習者として考えたことをお示しいたします。

【司会者後記】

講演者の倉林氏は近年文学作品を扱った授業を実践されており,専門分野である言語学,文体論の観点から,文学作品を用いた授業実践で得られる知見が紹介された。

まず最初に,講演者は,近年,日英の公共サインで示される言語形式の違いに注目し研究しており,ことばを「どのように伝え」「どのように受け止めるか」という表出と受容の問題に注目しているということが紹介された。

次に,講演者が授業で実践されているretold版から導入してのちに原文と比較させる読解の授業内容が紹介された。Oscar WildeのThe Happy Prince(邦題『幸福の王子』)の本文を例に,retold版と原文の英文を提示・比較しながら,原文で効果的に用いられている情報構造を,特に「場所句倒置(locative inversion)」を例が提示された。原文ではretold版では用いられていない場所句倒置構造がなぜ用いられているのか,ということを学生に注意深く考えさせることで,原文で著者が描こうとしている景色をより深く理解させることができるのではないか,ということが述べられた。

また,「文法がわかると作品をより深く理解できる」という主張がなされ,同作品の原文で使われている現在形,現在進行形,be going toという文法構造が取り上げられた。テンスやアスペクトに関係する構造においても,なぜその構造が用いられているのかをしっかりと考えさせることで,原文で描かれている映像をより克明に想像することができるのではないかということが述べられた。

今回の講演は,講演者自身が取り組まれている「ことばはどのように伝えられ,どのように受け止められるのか」という一貫したテーマが随所に垣間見える内容であった。テクストを正確により深く理解するためには,規範文法としてまとめられている文法書を参照したり英和辞典を丁寧に引いて学習させることが重要であることを改めて考えさせられる内容であった。言語形式の細部に注目して指導を継続していくことは,教場での時間を考えると難しいことも多いが,ひとつひとつの表現をより深く説明していくことで「最後まで読めた」という成功体験を学生に与えることにつながるのではないか,という話も大変参考になるものであった。(文責:久保 岳夫)